stanley cowell

「NEW WORLD」(GALAXY UCCD−90365)
STANLEY COWELL

 名盤だとは聞いていたが、たしかにめちゃくちゃかっこいい。曲もアレンジもいいし、言うことない。唯一のスタンダードの1曲目、トロンボーンが朗々と鳴りまくるゴスペルっぽい2曲目、カリンバっぽいソロがはじける明るいカリプソっぽい3曲目、コーラスとドラムが強力でリズムもフュージョン的、いかにもソウル+70年代モードジャズっぽい4曲目、ベースラインが印象深く、そのうえでエレピ(?)が変な音で弾きまくられる変態ファンキーな5曲目、劇的なピアノソロでアルバムの締めくくりとして見事な6曲目……どの曲もソロとアレンジの両方が楽しめるうえ、そこそこ長尺なので、いろいろとドラマチックな展開があり、かなりの感動がある。そして、どの曲でもカウエルが弾き倒す。メンバーもすごくて、エディ・ヘンダーソン、ジュリアン・プリースター、パット・パトリック(!)の3管に2ストリングス、セシル・マクビーのベースにロイ・ヘインズのドラム、そしてパーカッション、コーラス隊とえげつない豪華さ。ではあるのだが、カウエルの持つあのドキドキするような、尖った部分はかなりそのゴージャスさに埋没しており、ちょっと届きそうで届かないような感じもある。もちろん、カウエルは確固たる意図をもってこのアルバムを作ったのだろうし、その意図は大成功していると思う。たぶん、今後も繰り返し聴くことになるだろうな(ミュージック・インクのやつとかソロピアノとかよりも。だって聞きやすいんだもん)。マッコイの大編成のやつをちょっと思い出したりした。

「BRILLIANT CIRCLES」(FREEDOM FLP 40104)
STANLEY COWELL

トランペットがチャールズ・トリヴァーではなくウディ・ショウなので聞いてみた(トリヴァーは大好きだが、ウディ・ショウが好きすぎるのです)。しかし、1曲目いきなりぶちかまされるタイロン・ワシントンのテナーはすごいな。正直、ずっとおんなじことをやっているに近いのだが、ジョー・チェンバースとレジー・ワークマンのリズムのせいで緊張感のある演奏になっている。そのあとウディが登場し、いつものモーダルな演奏よりもかなりフリー寄りのソロをするが、録音がよくてトランペットの音がリアルだし、非常に臨場感がある。ハッチャーソンのアブストラクトで硬質なソロもかっこいいし、そこから雪崩のように崩れていく混沌としたコレクティヴ・インプロヴィゼイションもいかにも70年代ジャズで私にはドはまりする感じである。そして、カウエルのまさに硬派なピアノはドラムやベースと喧嘩しているような(そんなことはないのですが)ぴりぴりしたテンションをぶちまけている。10分ぐらいしたあたりでピアノの無伴奏ソロになるところなどは、聴いていて「ひーっ!」となるぐらい凄みがある。そのあとのレジー・ワークマンの力強く、気合いを込めたソロは本作の聞きどころであり、本来、スピリチュアルジャズというのはこういうものをいうのでは……と思ったり思わなかった。2曲目はピアノとベースが低音をゴンゴン弾く冒頭部から、カウエル好みというか、ドラマチックな展開が押し寄せるが、これがすべて綿密に準備されたコンポジションであって、カウエルはインプロヴァイザーとしてもめちゃくちゃすごいが、コンポーザー、アレンジャーとしてもものすごい、ということを再認識させられる。リズムもころころ変わり、かっこいい。アドリブがなくても十分感動、満足させられるであろう曲だが、そこに各人の、甘さのかけらもないハードボイルドでビターなインプロヴィゼイションがからみついていく。3曲目(ウディ・ショウの曲)は、打って変わってノリノリの曲だが、これも一筋縄ではいかない構成で、サビの部分が半分のテンポになっていて、ソロもその構成が踏襲され、おもしろいアクセントになっている。ウディ・ショウの先発ソロは1曲目に比べるとショウらしいモードジャズ的なストレートな演奏で聴き惚れるが、つづくタイロン・ワシントンのテナーはかなりフリーキーでめちゃくちゃかっこいい。このひとはこういうシチュエーションではハマるなあ。ハッチャーソンもカウエルもバリバリまっすぐに演奏しながらも、見せ場であるサビの部分に工夫を凝らしていて楽しい。4曲目はハッチャーソンの曲だが、いかにもウディ・ショウが書きそうな曲調である。この時代のこのひとたちは互いに影響を与え合っていたのだろうな。先発のカウエルの火を吐くようなピアノ、鋭い音でブロウしまくるウディ・ショウとそのバックで凄まじい爆発をみせるジョー・チェンバース、そしてレジー・ワークマンとタイロン・ワシントン(ソプラノかと思ったらクラリネットでした)によるわけのわからないパートの異常なかっこよさ、あー、70年代ジャズってすばらしいっすねー、と叫んでいたら、録音はまだ69年でした。混沌のなかからジョー・チェンバースのドラムが抜け出すが、ブルーノートの録音などではけっこうおとなしい印象のこのひとが、かなり過激なドラムソロをしていて驚く。ラストはオスティナートに乗ってウディが単音のリフを吹き、タイロン・ワシントンがテナーに持ち替えてフリーな感じで吹きまくる、カオスのようなエンディングを迎える。5曲目はレコードには入っていなかった未発表曲で、タイロン・ワシントンの曲。10分以上ある演奏。ドラムとベースのカラフルなポリリズムに乗ってのスタンリー・カウエルのゴリゴリのピアノソロで幕を開け、ワシントンの民族楽器のようなフルートがそれに続く。どちらも圧倒的にすばらしい。ウディ・ショウはあいかわらず(いい意味で)上からぐいぐいと力で押さえつけるようなソロで説得力ありまくり。レジー・ワークマンのピチカートによるぶっとい音のソロも腹に響く。最後の曲は1曲目の別テイクでこれもCDのみ収録。OKテイクに比べても、緊張感もあるしソロもすばらしくて聞きどころの多い演奏で、収録してくれてよかった。これを傑作と言わずしてなんというのか……的なアルバムだと思うのだが、(私もそうだったが)あまりそういう認識はないようで、この機会にみんな聴いてほしい傑作。