「HYPERION」(MUSIC & ARTS CD−852)
CRISPELL/BROTZMANN/DRAKE
ブロッツマン、マリリン・クリスペル、ハミッド・ドレイクという組み合わせのコレクティヴ・インプロヴィゼイション集だが、録音のせいか、ブロッツマンがいつものように全面に出てこず、3者が対等にまじりあったように聞こえる。それがよいことなのかどうかは聴く側が何を求めているかにもよるだろう。正直なところ、そのあたりがちょっと物足らないような気がしたが、冒頭のテナーの音は大きく録れているので、そのあとのタロガトかクラリネットのソロになったときに、録音レベルをあげなかったということか。1曲のうちに、いろいろな展開があって、聴き応えはあるし、3者のせめぎあいや協調も楽しめる。マリリン・クリスペルのピアノは、セシル・テイラー的ではあるが、セシルや原田依幸ほどの人間離れした疾走感はなく、もう少し「構築」する感じ。ただし、反応は鋭く、聴いていて楽しい(セシルや原田は、聴いていて、へとへとになる)。ハミッド・ドレイクは例によってすばらしい演奏。マリリン・クリスペルとの相性も悪くない。ドラム以外の、タブラやパーカッション類を使ったデュオになるときのダイナミズム、ノリの良さ……などは、筆舌に尽くしがたい美味。ただ、ブロッツマンの手の内は、もちろん聞き手である我々もだいたい知り尽くしており、たいへん優れた演奏になることはもうわかっていはいるが、それをずどーんと飛び越えたものが引き出されるか、それとも「いつもの良さ」で終わるかが、最近のブロッツマンのアルバムの聞き所というか、善し悪しのポイントだと思うが、何となくこの顔合わせだと、マリリン・クリスペルの参加あたりが起爆剤となって、いつもとちがったものすごいものが聴けるかも、という期待感があったのも事実。内容は、良くも悪くも、予想の範囲内でおさまるような音ではあったが、もちろん十分満足しましたよ。この人が参加しているアルバムはどれもそうなのだが、本作もやはり、ハミッド・ドレイクのプレイが各曲のキーとなっている。もう、いろんなところで美味しいことをしまくっており、ドレイクだけ聴いても価値のあるアルバム。最後が、彼の変なソロ(何を叩いているのか?)で終わるあたりも、ライブらしくてよい。三者対等のアルバムだと思うが、一応、一番上に名前の出ているマリリン・クリスペルのところにいれときました。
「LIVE AT NYA PERSPEKTIV FESTIVALS 2004 AND 2007」(LEO
RECORDS CD LR 528)
COLLABORATIONS
マリリン・クリスペルはセシル・テイラーでもシュリッペンバッハでもメンゲルベルグでも山下洋輔でも原田依幸でもないはずだが、なぜかよく比較されていると思う。フリー系ピアニストとしてひとくくりにされるのは問題だが、どうもいつ聴いてもパワーや個性の面でそういったひとたちに負けるような気がしていて、あんまりリーダー作を聴こうという気持ちになれなかった。しかし、本作はリンクビュストのクラとテナーをフィーチュアしたカルテットパートとマグナス・ブルーのラッパとラルス−ゴラン・ウランダー(と読むのか?)のアルトをフィーチュアしたクインテットパートにわけて、それぞれ設定を変え、全体をかなりシリアスで濃度の高いミストに包み、テンションの高いインタープレイを中心に置くことでマリリン・クリスペルのオリジナリティを濃厚に出している。ドラムは両方ともニルセンラヴなのもよいが、個人的にはクインテットパートのベース(ペル・ザヌッシとかいうひと。読めない)があまりに凄まじくて、ちょっと目が点になった。マグナス・ブルーのラッパは「アトミック」での演奏はぜんぜん好みではないのだが、本作ではちょっとよかったのもうれしかった。