sonny criss

「CRISSCRAFT」(MUSE RECORDS MR5068)
SONNY CRISS

 アルトよりテナーが好き、を公言している私だが、ごく一部のアルト奏者は別で、その筆頭がこのソニー・クリスだろう。とにかく、「音がいい」。私がアルトが苦手なのは、ちゃんと音が鳴っていない奏者があまりに多すぎるからで、そういう部分までを「個性だ」、としてもてはやすのはジャズファンの悪い癖だとおもう。また、そんなプレイヤーを愛好していることが、「通」だという風潮もどうか。というわけで、音色がへなへなのアルトたちは、ソニー・クリスの足元にひれ伏すべきである。しかし、最近の日本のアルト奏者たちはとにかくびっくりするぐらいいい音、しかも個性的な音で吹くひとが多くてうれしい限りである。そういうひとたちのおかげでやっと私のアルト苦手という先入観(ほとんどは私の耳の悪さに起因すると思うが)は払拭されつつある。ソニー・クリスの良さの二つ目は、泣き節である。日本人好み、というが、まさにそれです。聴いていて恥ずかしくなるほど朗々と歌いまくり、泣きまくる。ブロウ、というより、ウェイル、というやつですね。さっき書いた「音の良さ」も、フルトーン剛直一本槍ではなく、力を抜く部分は抜いて、よりいっそう哀愁を演出する。第三に、バカテクである。非常に粒立ちのいい音で、速いフレーズを吹きまくっても乱れないし、アーティキュレイションも完璧である。そのあたり、ジャストジャズコンサートなどのジャムセッションでは際立っていて、ソニー・クリスとワーデル・グレイの独壇場となる。そして、第四に、独自のブルースフィーリングがある。マイナー系の泣き節もいいが、ブルースや循環をやらせると天下一品で、ころころ回るコブシもすばらしい。ソニー・クリスのそういった魅力を総合して、一言でいうと、「小気味よい」という言葉につきるのではないか。そして、このアルバムだが、私は「ゴー・マン!」あたりの、常にフルトーンでシャウト……みたいな力の入りまくったアルバムがいちばん好きで、ミューズはちょっと枯れてるからなあ、と思っていたのだが、いつのころからか、このアルバムが結局いちばん好きだということで落ち着いた。つまり、フルトーンでブロウ、ブロウ、ブロウ! という状態から少し引いた、力の抜け具合がいいのである。しかも、抜け過ぎず、決めるところはきっちり決めてくれる。A面一曲目の「アイル・オブ・ザ・シリア」がとにかくクリス節全開ですばらしい。泣きまくり、シャウトしまくりである。二曲目の「ブルース・イン・マイ・ハート」もブルースとは名ばかりのマイナーの哀愁の曲で良いのだが、とにかくA−1が凄すぎてかすむ。B面も、あの名曲「ディス・イズ・フォー・ベニー」でスタート。例のイントロがないのが惜しいが、これまたA−1とタメをはる泣きまくりの曲である。つづく2曲目も、マイナーの哀愁の曲。こういうのをやらせると、ほんとにすばらしい。音の良さとあいまって、ソニー・クリスは日本人の心臓に訴えかけてくるのである。そして、ラストはタイトルナンバーで、Fのブルース。これは、アルトを吹いてるころ、コピーしたなあ。コロコロ回る、クリスのフレーズは、初心者にとってほんとうに勉強になる。パーカーのように、変なところでとまったり、変なところからはじまったりしないのである。しかし……しかし、だからといってつまらないことはない。めっちゃよい。久々に聴いてみたが、やはりブルースはめちゃめちゃうまいし、盛り上げかたも堂に入っている。ギターソロに入る直前のフレーズなんか、かっこええよねえ。ワンパターンというやつには言わせておけ。同じフレーズでまくりじゃん、というやつにも……うーん、まあ言わせておけ。このアルバムを聴いて、しょうもない、とおもったひとは、ソニー・クリスの音楽とは無縁であるから、聴くのをやめましょう。さて、本作はとにかく徹頭徹尾ソニー・クリスがひたすら吹きまくるわけだが、もうひとりのソロイストであるギターのレイ・クロフォードも悪くはない。悪くはないが……ジャズギターに興味のない私としては、ワンホーンのほうがよかったなあ。ほかのバックはタイトでちゃんとしているが、まあ、私としては、ソニー・クリスのソロを邪魔しないかぎり、誰でもいいのです(いい過ぎか?)。ソニー・クリスというひとは、パーカーを基本として、それ以前のたとえばジョニー・ホッジスやベニー・カーターのフィーリング、それにホンカーとまではいかないがブルース系の熱血アルトの感覚もあり、そういった要素があいまって、ソニー・クリスという個性をつくりあげているのだとおもう。こういうのを聴くと、「ジャズもええなあ」と思うのである。ソニー・クリスについていいたいことは、ここでほとんど書き切ってしまったので、あとは簡単に。

「UP,UP AND AWAY」(PRESTIGE 7530)
SONNY CRISS

 プレスティッジのソニー・クリスは駄作、凡作がない、すべてが水準以上だが、一枚といわれればやはりこれか。このアルバムがまた、全曲いいんです。こんな選曲のいいアルバムはなかなかないよー。一曲目「アップ・アップ・アンド・アウェイ」での超快調の吹きまくりからはじまって、二曲目のマイナー曲「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」での泣き節、3曲目の「ディス・イズ・フォー・ベニー」は「クリスクラフト」にも収録されている名曲だが、こっちのバージョンはイントロもついていて、よりかっこいい。これぞ哀愁ですよ、哀愁。B面にうつって、一曲目の「サニー」ではビートこそ4ビートだが、ソニー・クリス自身のフレージングやノリはほとんどR&Bフィーリングにあふれており、圧倒的なブロウを展開する。こういう演奏が、晩年の「ジョイ・オブサックス」などのフュージョン(?)アルバムにつながってしまうのかもしれないが、こここでのクリスはじつに美味しい。「スクラップル・フロム・ジ・アップル」での硬質ビバップフレーズオンパレード、そしてラストの「パリス・ブルース」はスローブルースでのブロウ……とバラエティにとんだ選曲でアキさせない。自身は気づきもせず、ジョニー・ホッジス、チャーリー・パーカーといったオールドタイマーとデヴィッド・サンボーンあるいはハンク・クロフォードあたりの架け橋となったソニー・クリスだが、本人はひたすら、熱く、熱く吹きまくっている。まあ、贔屓の引き倒しというところもあるかもしれないが、私はソニー・クリスが大好きです。ジャズアルトといえばソニー・クリス。ルー・ドナルドソンもフィル・ウッズもチャールス・マクファーソンもハーブ・ゲラーもジーン・クイルもジジ・グライスもキャノンボールもほぼまったく関心ないが(かろうじてアート・ペッパーにはいびつな興味をひかれる。ジャズでは、あとはソニー・スティットぐらいかなあ)、なぜかソニー・クリスはめちゃめちゃ好きなのだ。そして、このアルバムはそのなかでも筆頭にあげたくなるほど好きなアルバムです(「スクラップル……」は、その昔、コピー譜があったので、ずーっと練習したが、出だしからサビのフレーズから、全部好き。そういう思い入れもある)。こういうことを言うと誤解を受けるかもしれないが、ソニー・クリスって、硬質な音色といい、タイトなノリといい、指使いとかフレーズで自己表現するところといい、エリック・ドルフィーを連想するのです。だから好きなのかなあ、関係ないわなあ。

「GO MAN!」(IMPERIAL LP−9020)
SONNY CRISS

 長い間、このアルバムのソニー・クリスがいちばん好きだった。とくにA面のあたまの「サマータイム」での感情過多ともいえるほどの泣き節や、「メモリーズ・オブ・ユー」のこれまた大げさといっていいかもしれないほどの切々たるコブシ回しなどが、もうたまらんかった(どの曲も、アドリブのフレーズが、わざわざコピーしなくても、何回か聴いただけで覚えてしまうような、平易で歌心あふれている点も注目。倍テンのフレーズでもそうなのだからすごい)。しかし、あるとき気づいたのは、家のステレオで聴いてみてもいまいち感動せんなあ、ということだった。つまり、私はずっとこのアルバムを「コーナーポケット」というジャズ喫茶のすごい装置で聴いていたので、その音に感動していたのだ。ソニー・クリスを心底味わうには、「音」が大事なのだ、とわかったわけです。まあ、そうは言ってもこのアルバム、家のスピーカーでしょぼい音で聴いても決して悪くはない。上記2曲以外にも、ええ演奏のオンパレードである。ブルースも循環もいい。今では、一位とはいわないが、でも、めちゃめちゃ好きなアルバムです。ある意味、陳腐というか演歌的というか、「ベタ」な吹きかたをしているソニー・クリスの代表作といえるかもしれない。29歳のときのクリスの音楽性がここに詰まっている。でも、正直、B面はほとんど聴いたことないなあ。A面と遜色ない出来ばえなのに、なぜかA面ばっかり聴いてしまう。B−5の「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」は完全に「オーニソロジー」です。それにしてもこのジャケットのセンスはよくわからんなあ。

「THIS IS CRISS!」(PRESTIGE PR7511)
SONNY CRISS

 プレスティッジに数あるソニー・クリスのアルバムのなかで、二番目に好きなアルバム(一位は「アップ・アップ・アンド・アウェイ」)。これもええでー! 一曲目の「ブラック・コーヒー」の、活け殺しを心得た、切々たるテーマの歌い方だけでも、十分感動である。この曲はじつはスローブルースにサビを足したもので、ブルースの歌い手としてのクリスの嫋々たるブロウが堪能できる。ウォルター・デイヴィスのコロコロ転がるピアノもたまらん魅力。二曲目の「酒バラ」(軽快の一言)、3曲目の「サニー・ゲッツ・ブルー」(これも軽く歌っている。この力の抜け具合がいい)、B面に移って、一曲目はブギウギライクなノリのブルース(テーマは、2コーラスのあとにエンディング(?)がついているがアドリブはブルースのまま)、二曲目はあの「サンライズ・サンセット」だがテーマをピアノに弾かせて、アルトはオブリガード風に吹く……これがいいんです! 3曲目の、ブルースというタイトルは名ばかりのアップテンポのマイナーチューンをはさんで(いソノテルヲの解説には「パーカーの優等生であれば当然のごとくブルース・インプロヴィゼイションがフィーチュアされる」とあるが、この曲はキーがマイナーなだけでなく、構成もまったくブルースとは関係ない。こういうでたらめな解説で金をとっているというのはほんとうに怖い)、ラストはスタンダード中のスタンダードでしめくくる(こういった、アドリブの途中でテーマメロディを感じさせながら吹く技は、ソニーの独壇場)。傑作!

「I’LL CATCH THE SUN!」(PRESTIGE PR7628)
SONNY CRISS

 黄色い、変なジャケット。でも内容は最高です。プレスティッジのソニー・クリスに駄作なし。ハンプトン・ホーズ、モンティ・バドウィック、シェリー・マンという西海岸オールスターズがバックをつとめている。一曲目はポップな曲をポップなアレンジでぶちかます、ほとんどポップミュージックのノリだが、ソロの部分は熱いビバップ。このあたりのギャップがいい。二曲目は得意のスローブルース。3曲目はバラード。B面に移って一曲目はアップテンポのブルース。2曲目はマイナーのスタンダードで切々と泣きまくり、最後は歌もの。こういう、アルバム構成における手堅さは、商品としては非常に価値あるものではあるが、ある意味ワンパターンで飽きる。プレスティッジのクリス作品のなかでは、オールスターズがバックなのに、演奏はいちばん地味かも。でも、逆に、いちばんジャズかも。プレスティッジ最終作で、このあとクリスは、ミューズで復活(?)するまでスタジオ吹き込みはとだえる。

「PORTRAIT OF SONNY CRISS」(PRESTIGE PR7526)
SONNY CRISS

 なんだかベスト盤のようなタイトルだが、オリジナルアルバム。白い手編みっぽいセーターを着て、セルマーのジャズメタルをつけたアルトを手に持ち(ストラップをしていないので、単に持っているだけのようだ)、寂しそうな視線を斜めに送るソニー・クリスのジャケットは、それだけでも心にせまる。内容は悪くない。メンバーが「ディス・イズ・クリス」とまったく同じなので、同日のセッションの残りテイクかと思ったら、ぜんぜんちがう日(約半年後)のセッションであった。よほどこのメンバーが気に入っていたのだろうか。あいかわらずプレスティッジのソニー・クリスは選曲がいい。プレスティッジに山のようにあるコルトレーンのアルバムなど、ほんとにいいかげんな選曲・構成のものが多いが、ソニーのものはちゃんとした商品である。一曲目のかわいらしい曲はどこから持ってきたものかよくしらないが、テーマの力の抜け具合がよく、ソロは非常にブルースっぽい。二曲目の「ウィー」はテーマの吹き方からしてバップ魂を感じさせる熱演で、クリスはアルトの最高音から最低音まで使い切ったブロウをみせる。「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」は、クリスの典型的バラード演奏。B面に移って、スタンダード、そしてアップテンポのブルースで吹きまくり(クリスフレーズ出まくり。これからアルトをやろうというひとにはぜひコピーをおすすめします)、そしてラストの「スマイル」は、無伴奏ソロから入るあたりは期待させるが、ソロに入ると、まあ普通のジャズのアドリブの素材という感じになってしまうが、このイントロのあるとないとでは印象が大きくちがっただろう。アルバム全体にドラムのアラン・ドウソンが光っている。

「SONNY’S DREAM(BIRTH OF THE NEW COOL)」(PRESTIGE PR7576)
THE SONNY CRISS ORCHESTRA

 ソニー・クリス・オーケストラとあるが、実際にはホレス・タプスコット・オーケストラ・フィーチュアリング・ソニー・クリスというのが正しいだろう。なにしろ、全6曲とも作曲もアレンジもホレス・タプスコットなのだから。とにかく全曲オリジナルでかためた、ホレス・タプスコットにすれば、たいへんな意欲作なのだろうが、ソニー・クリスファンとしては、諸手を挙げて万歳というわけにはいかない。メンバーはなかなかすごくて、テディ・エドワーズ、ピート・クリストリーブ、コンテ・カンドリ、ディック・ナッシュ、レイ・ドレイパー……というホーンセクションに、ピアノがフラナガン、ベースはアル・マッキボン(デヴィッド・シャーというアルト吹きがリードアルトを吹いている)。すごいメンバーといえばすごいが、単に当時のウエストコーストのスタジオミュージシャンを集めただけ、ともいえるかも。一曲目いきなり、バリサクの低音リフにホーンが合いの手をいれる、いわゆる「アフリカ・ブラス」方式で曲がはじまるので、おおっ、これはかなりえぐい世界が展開するのでは、と期待したが、要するにいつものクリスのマイナーチューンでの泣き節をフィーチュアした演奏である(ホレス・タプスコットは、あのマイナーの名曲「ディス・イズ・フォー・ベニー」の作曲者であり、この曲もまあ、よく似た感じか)。最後、テーマのあとにひっぱる部分での、音を濁らせてのクリスのブロウはバップというよりほとんどR&Bかソウル。二曲目「バラード・フォー・サミュエル」ではクリスは、な、なんとソプラノを吹いている。バラードという曲名だが、スローテンポではなく、3拍子の、けっこうモダンな曲である。クリスのソロは、ソプラノだからという理由かどうかはわからないが、いつもの彼とはまるでちがい、非常にモーダルな感じである。不思議ふしぎ。3曲目の「ブラック・アポステルズ」は、黒人讃歌的な曲らしいが、曲調を感じてか、ここでもクリスはいつもとちがった、モーダルなソロをしている。モーダルというか、まあ、一発もの的な、オーバーブロウなソロである。デヴィッド・サンボーンっぽい箇所もある。そのあとに出てくるテディ・エドワーズのソロは、彼本来の持ち味をいかした、地味な音色をゆったりと響かせるような、落ち着いた感じのもの。B面に移って、ちょっと凝り気味のアンサンブルがつづいたあと、それをぶちやぶるようにしてでてくるソニー・クリスのアルトソロがかっこいい。こういうのを聞くと、やはりホレス・タプスコットのアレンジとソニー・クリスの持ち味は融合してはいないのではないか、と思ったりして。だって、木に竹を継いだみたいな感じに聴こえるし……。2曲めの「ドーター・オブ・なんとか」という曲のイントロでのベースとピアノの自由なやりとりからバリサクのヴァンプからソニー・クリスのソプラノがリードするテーマに入るあたりを聞くと、「どこがソニー・クリス・オーケストラやねん」と思う。まさにこれはホレス・タプスタコットの音楽であり、ソニーの音楽とは異質のものだ。でも……これが悪くないんです。ラストの曲……これがめっちゃかっこいいのだが、ソニー・クリスはコードをはずさずに、しかも自分の個性も崩さずに、ちゃんと吹いてはいるものの、やはりいつもとちがったチェンジに若干苦しんでいるようにも聴こえる。通して聴いてみて、やっぱりソニー・クリスにあうのは単純明解な曲なのかな、と思った。最後までタプスコットのアレンジとソニー・クリスはびみょーにずれたままだったかも。でも、何度も書くようだが、悪くないのです。「ホレス・タプスコット・オーケストラ・フィーチュアリング・ソニー・クリス」としては、ぜんぜんオッケー。やはりこのひとのアレンジはすばらしい。でもなあ……。

「JAZZ−U.S.A.」(IMPERIAL LP−9006)
SONNY CRISS

 悪くない。インペリアルの三枚はどれも悪くないが、このアルバムは「ゴー・マン!」に匹敵する良さがある。曲も、十八番の「ウィロー・ウィープ・フォー・フォー・ミー」や各種ブルース、「ウィー」などのバップ曲、「ジーズ・フーリッシュ・シングス」などの大スタンダードなどをバランスよく並べてあり、楽しめる。エッセンスがぎゅっと詰まった感じではあるが、やはり演奏時間の短さはどうにもならん。「ゴー・マン」だと、その短さがかえっていいほうに作用していたが、このアルバムでは、「もうちょっと吹いてほしかったなあ」と思う演奏もあり、そのあたりが惜しい。しかし、全体としては申し分のないアルバムで、ソニー・クリスの魅力は全開である。

「PLAYS COLE PORTER」(IMPERIAL LP−9024)
SONNY CRISS

 インペリアルの3枚のなかでは、いちばん聴かない(断言)。ヴァイブが入っている点や、演奏にエコーがかかりまくっている点も、ポップアルバム的であり、ソニー・クリスのソロも、メロディーを撫でるだけで終わっているものもあり、ちょっと物足りない。一曲目の「アイ・ラヴ・ユー」もめっちゃかっこいいし、いろいろ聴きどころも多いのだが、このラリー・バンカーのヴァイブがなあ……どうにも邪魔ですわ。というわけで、さっきも書いたが、いちばん聴かないアルバム。

「AT THE CROSSROAD」(PEACOCK PROGRESSIVE JAZZ SERIES PLP−91)
SONNY CRISS

 昔は、かなり珍しく、幻の名盤的扱いだったと思うが、日本盤が出てしまい、希少性はゼロとなった。私は、内容最高、という評をどこかで読んでいたので、日本盤が出たときに飛びついて買ったが、どうもぴんとこない。何曲かに入ってるこのトロンボーンがなあ……なんのためにいるのかわからない(バディ・リッチのところでソニーと一緒にやっていたひとみたいですね)。ソロはけっして下手ではないものの、茫洋とした雰囲気が全体にソニー・クリスの邪魔になっているように思うがどうか。ソニー・クリス自身は絶好調なので、ワンホーンならよかったのにね。「ソフトリー」とか、なかなか興味深い選曲もあるし、歌ものといいマイナーブルースといい、クリスに限ってはすばらしい演奏ではあるが、A面B面あわせても収録時間は短いし、ドラムはずんどこ跳ねるし、ピアノも可もなく不可もなくだし、ソニー・クリスを聴きたいなら、まずはほかに聴くべきアルバムがいっぱいあるかも、とは思う。個人的にいちばん好きなのは、A−3の「アイ・ガット・イット・バッド」。洒落た雰囲気でエリントンナンバーを歌いあげています。

「SATURDAY MORNING」(XANADU RECORDS  JC−7004)
SONNY CRISS

 世間では、ソニー・クリスの最高傑作のように評価されているアルバムだが、ほんとうにそうか。まず、録音だが、クリスのアルトの音がどうも細く録られているように思う。たしかに、やや力を抜き気味の演奏が多いのだが、フルトーンでブロウするところが、その直前と直後の2枚のミューズ盤などにくらべても、なーんか痩せた音に聴こえる。このことが原因かどうかはわからないが、このアルバムでのクリスは全体に、枯れた感じ、というか、渋い演奏をしているような印象がある。渋すぎるんとちゃう? そして、ここまで枯れたひとが、つぎに吹き込んだのがあのインパルスの二枚(持ってたけど、さすがに両方とも売ってしまったです)というのがまた不思議というかなんというか……。得意のスローブルースもさほど盛り上がらず、B面にいくと、バリー・ハリス・トリオだけの演奏も入っている。マイルスバンドじゃあるまいし、これはいらんやろ(でも、じつはこのトリオ曲がこのアルバムでいちばんよかったりして……)。そして、このバリー・ハリスが端正すぎて、意外とクリスと合っていないような気もする。そうだ、バリー・ハリスの渋さにひっぱられてソニー・クリスがこんな感じになったのではないだろうか……とか思ったりして……。私にとってのベストトラックはB−1のアルバムタイトル曲でもあるマイナーブルース。これまた力の抜けた渋い演奏なのだが、マイナーの曲調とあいまって、すばらしい効果があがっている。これでもうし少し、クリスのアルトが太く、前にでるように録音されていたらなあ……。ラストはスタンダードで、これまためちゃめちゃ渋い演奏。こういうのがきっと大人のジャズ通にはうけるのだろうなあ。

「BLUES POUR FLIRTER VOLUME2」(POLYDOR 2445 034)
SONNY CRISS

 ヨーロッパはパリでの吹き込み。アルトの音が引っ込んでたりして、けっして上々の録音とはいいがたいが、冒頭一曲目、いきなりヨーロッパでソニー・クリスがスローブルースをぶちかます。渾身の火の玉ブロウで、とにかくめっさかっこええ! つづく二曲目もほぼ同じ趣向のスローブルースなのだが、ピアノがオルガンにかわっているだけ。そのつぎは、二曲目のパート2と書かれているが、テンポをあげただけ……というわけで、いきなり3曲、テーマのないブルースがつづくという、荒い構成のアルバムで、このあたりがいまいち知られていない要因か。でも、ソニー・クリス自身は絶好調(まあ、たいがいのアルバムで絶好調なひとなのだが)。「ドント・ブレイム・ミー」「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」「デイ・ドリーム」「ウィル・ビー・トゥギャザー・アゲイン」「ブラック・コーヒー」(「ジス・イズ・クリス」の冒頭でも演奏している。愛奏曲なのだろうな)……といったスタンダード(安易なのかもしれないが、この選曲がまたよい)でも切々と嫋々と泣きまくる。とくにすばらしいのがB−3のブルースから、「ウィル・ビー・トゥギャザー・アゲイン」そしてラストのサビ付きブルース「ブラック・コーヒー」に至る流れで、目一杯クリス節全開でマジ最高である。ヨーロッパでもソニーはソニーだった。このアルバム、VOLUME2というぐらいだから、VOLUME1もあるのだろうが、それは聴いたことがない(見たこともない)。こういうあたりが、マニアックさに欠ける私の詰めの甘いところなのであるが。

「SONNY CRISS WITH GEORGE ARVANITAS TRIO”LIVE”IN ITALY」(FRESH SOUND RECORDS FSR−401)
SONNY CRISS

 上記フランスポリドール盤にも参加しているジョルジュ・アルバニタスがライナーノートを書いていて、なかなかおもしろい。ソニー・クリスはパーカースクールのひとりと考えられているが、今この録音を聴くと、そうではなく、リッチー・コールやデヴィッド・サンボーンを思わせる演奏であり、彼はそういったプレイを今から13年もまえにしていたのだ、という指摘は、なるほどと思わせる。リッチー・コールはともかく、サンボーンには似てるなあ、と私もまえから思っていたのである。このアルバムは、フランスなどで活動していたこのグループが、イタリアに楽旅したときのライヴである。内容はめちゃめちゃ良くて、ソニー・クリスの代表作といってもいい過ぎではないと思う。一曲目の「ティン・ティン・デオ」(このライヴでの演奏は「サタデイ・モーニング」よりも前)のソロは火山のように噴火しており、過激きわまりない。二曲目「ラヴァーマン」はたぶんほかでは吹き込んでいないが、すみずみにまで気持ちの行き届いた完璧な演奏で、しかも切々たる叙情にあふれ、とてもライヴとは思えない。3曲目のブルースはかなり長い無伴奏アルトソロからはじまり、バッキングが入った瞬間、客席からため息がもれる。楽器が泣き叫んでいるような、まるでブルースシンガーのような歌いかたで、アルトサックスでのスローブルースの吹き方のお手本のような演奏である。ホンカーとかアール・ボスティック、ルイ・ジョーダンなどを思わせるところもある。B面は、クリスの得意曲がならぶ。「サマータイム」はもちろんあの「ゴー・マン!」の一曲目でおなじみだが、アレンジはちょっとちがうけど、ソロの雰囲気はかわらない。要するにブロウにつぐブロウで、サマータイムというか、灼熱の夏といった感じ。アルヴァニタスのピアノも快調。最後はなぜか「ワークソング」のフレーズで終わる。「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」はまさしくクリスの愛奏曲で、うちにあるレコードでも「アップ・アップ・アンド・アウェイ」をはじめ、4枚に入っている。ブルーノートと露骨なダイナミクスを使って、まるで歌手のように朗々と歌いあげる。これが、下品だとかおおげさだとか暑苦しいとか思うひとにはクリスのアルバムはどれも向かない。ラストはこれも「アップ・アップ・アンド・アウェイ」に入っていた「サニー」で(レコードの裏ジャケットではB−2と3が逆になっている)、これがまた縦横無尽に吹きまくっていて最高なんす。あらゆるソウルジャズ、R&B、ロッキンジャズ……のアルトプレイヤーはソニー・クリスに一日一回感謝の祈りを捧げるべきだ。なお、CDには追加曲があるらしいが聴いたことはない。

「SONNY CRISS QUARTET 1949−1957 FEATURING HAMPTON HAWES」(FRESH SOUND RECORDS FSR−403)
SONNY CRISS

 A面は「イブニング・オブ・ジャズ」といって、ノーグラン吹き込みでのちにヴァーヴのオムニバスに入ったやつ。ヴァーヴの箱物に収録されたので、ソニー・クリスが聴きたいがために買ったが結局売ってしまった。このレコードさえ持っていれば十分になったからである。しかし、ここでのクリスはなにしろ1949年というかなり早い時期でもあり、生粋のバッパーという感じで、まだその個性を熟しきっていない。3曲めのブルースあたりはすでにクリス節全開に近い感じだが、ほかの3曲はまだまだ生きのいいビーバップ。ちなみに4曲目のクリス作曲の「トルネード」という曲は、ようするに「ウィー」そのものです。B面はぐっと時代がさがって、1957年のテレビ番組に出演したときの演奏らしいが、8年の歳月を経ているのに、ベースとピアノが同じ……というあたりがおもしろいといえばおもしろい。テレビ向けの、そうとう簡略化というか、あっさりした演奏である。一曲目の「イージー・リヴィング」は「プレイズ・コール・ポーター」での同曲と同じく、バラードではなくテンポをあげた演奏である。ピアノの音がかなりよれよれだ。つづく「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」はクリスの愛奏曲だが、ここでのプレイはいつもの切々たる演奏にくらべてかなりテンポアップしたもので、いつもの嫋々たるブロウのかわりに、淡白な吹き方をしている。心身ともにかなり調子が悪かった時期のようだが、その割にはちゃんとしている。ラストは「ゴー・マン!」でおなじみの循環ナンバー「ウェイリング・フォー・ジョー」だが、これは「どこが不調やねん」といいたくなるような快調なブロウ。でも、やっぱり時間の制約があって、もうちょっと吹いてほしいというところで終わる。B面の3曲の収録時間がなんと8分!……ではしかたないわなあ(ちなみにA面4曲の収録時間は10分ちょっと。どんなアルバムや)。

「ROCKIN’ IN RHYTHM」(PRESTIGE RECORDS VICJ−23674)
SONNY CRISS

 1曲目「エリノア・リグビー」だが、ここまで来ると、ほとんどこのあとのザナドゥやミューズのころのような演奏と違いがない。8ビートのジャズロック的な感じで、メイシオ・パーカーだろうと言ってしまいそうな本物のソウルジャズなのだが、しかし、どこか暗くて渋いのである。明るさはほとんど感じない。それがはっきり言ってソニー・クリスの魅力だと思う。どれだけバリバリ吹いても、ファンキーな演奏をしても、(当時としての)いまどきな曲をやっても「暗い」。しかし、その魅力にとりつかれると、これはもう抜け出せない冥府魔道なのだ。メイシオやハンク・クロフォードに比べてソニー・クリスは憂いを帯びている。それを無理矢理推し進めると「ジョイ・オブ・サックス」とかみたいになるのかなあとは思うが、本作はめちゃくちゃ「ええ感じ」で、クリスの個性が爆発している。こぶしを入れてグロウルしてウェイルしまくる、いわゆるソウル系のサックスともちがい、バップの残党的なひとたちともちがい、新しいことも取り入れつつ、いろいろな要素をミックスして自分の表現にしている。8分音符でのソロを、パーカーとはちがってきっちりはじまりきっちり終わる職人芸だからダメ……的な評価があるようだが、いやいやいや、このフツーの枠内で見事な音色でしっかりしたリズムで歌いまくり暴れまくるクリスは凄くないですか。8分音符と三連をずらーっと並べて、とにかくドライヴするのだから、言うことないと思うけどな。本作でも1曲目のポピュラー曲での渋くてファンキーな歌い上げ、2曲目、5曲目、6曲目、7曲目のスタンダードでのちょっと力を抜いた深い表現、3、4曲目でのブルースでのバップアルトとしての本領発揮の直情的なブロウはとにかく心を打つ。サイドマンでは、ピアノのエディ・グラッディンがとにかく最高のソロをぶちかましている。何十年とソニー・クリスのアルバムをずっと聞き続けていて、硬質な音色、高音部ではつややかでのびやか、中音、低音では芯のあるしまった音、そして、フルトーンではなく力を抜いたときの嫋々とした音。バップ曲でのぶわーっとぶちかまされる怒涛の8分音符。ブルースやマイナー曲での哀愁を帯びたせつない表現。ミディアムテンポの曲での案外ねちっこい8分のノリ。どれをとってもすばらしいとしか言いようがない。しかし、解説の悠雅彦氏は「50年代、彼がいたずらにパーカーを浪費したばかりでなく、ウエストコーストジャズに追従して無味乾燥な演奏に終始したから」だそうで、「経済的な理由でウエストコーストジャズに手を出すようになってから、クリスのソロは徐々に新鮮さとスリルを欠くに至った」とあるが、いやー、そんなことないと思いますよ(じつはかなり怒っているのだが、これぐらいの穏当な表現にとどめたいと思う)。このひと、ちゃんとソニー・クリスを聴いたのかねえ……。どのあたりの演奏をもってそうだと言い切っているのかわからん。「ウエストコーストジャズに手を出す」ってウエストコーストジャズは麻薬か。ウエストコーストジャズのひとに失礼では? とか言い始めると頭に血がのぼってくるのでやめる。しかし、クリスの最高傑作のひとつである「ゴー・マン!」をはじめとするインペリアルの3枚はロス録音なんだけどなあ……。もちろんクリスの名を高らしめたジャスト・ジャズ・コンサートもウエストコーストでの大規模イベントだ。こういう先入観のある意見に惑わされることなくこのアルバムを楽しみましょう!

「THE BEAT GOES ON!」(PRESTIGE RECORDS VICJ−23672)
SONNY CRISS

 プレスティッジにクリスは多数のアルバムを残した。私が一番好きなのは「アップ・アップ・アンド・アウェイ」だが、とにかく全部好きだ。どのアルバムも、キャッチーなジャズロックあるいはポピュラーな曲を1曲目玉にして、あとはバップ曲、バラード、ブルースなどを配置している感じで楽しく聴けるように配慮されている。本作ではラストの「オード・トゥ・ビリー・ジョー」が目玉の1曲にあたるのかと思われる。1曲目は跳ねるリズムの曲だが、アルトの音色もドラムのリズムも軽い感じで演奏され、ゴリゴリした熱いソウルナンバーという雰囲気ではない。のちのハンク・クロフォードにも通じるようなこういう洒落たグルーヴ感のある演奏はいいですね! シダー・ウォルトンのピアノもずっとブラッシュで叩いているアラン・ドウソンの職人的なドラムも、すごくあっさりしていてそこがいいと思う。2曲目はライナーの岩波洋三氏によると「情感豊かにビューティフルな音色で歌い上げる」とのことだが、ビューティフルな音色、というところで思わず笑ってしまいました。ええ曲やなあ。チェンジを縫うように吹きまくるクリスはすばらしい。3曲目は「サムホエア・マイ・ラヴ」となっているが、じつはおなじみの「ララのテーマ」。テーマはサンバっぽいアレンジだが、ソロは4ビート。クリスはこういうのにもハマる。こういう演奏に対していつまでも「パーカーが……」と言っていてもしかたないのでは。3曲目はクリスのブルース。ほっと一安心。ここでのクリスのえげつない演奏を聴いて、8分音符をただただ羅列するだけのソロ、というものの凄さがわからんならばもうしかたがない、という気持ちである。8分音符をただただ羅列するだけのソロ、で才能が露骨に試されるのだ。パーカーの亜流としてはあんなものはただの職人でね……的な言い方でクリスもスティットも斬って捨てられるのだが、そんなことを言ってる評論家はぜんぜんわかっていないと思う。短いがシダー・ウォルトンのソロも秀逸。5曲目は「イエスタデイズ」で本作の白眉と言えるすさまじい演奏。ミディアムテンポのこのマイナー曲でのクリスのソロは、16分音符を主体としたものだが、その音の硬さ、粒立ち、アーティキュレイション、リズム、歌心……どれをとっても一級品で、しかも、緊張感にあふれ、破綻を恐れないチャレンジ精神も感じられる。そして、なにより全体から受ける「絶叫」というか「泣き叫んでいる」感じがまさにチャーリー・パーカーと同じではないかと思う(表現方法は違うけど)。つづくウォルトンのピアノソロも16分音符をバリバリ敷き詰めたようなすごい演奏で、ライナーにあるような「端正で嫌味がない」というようなあっさりしたものとはちがうと思う。ドラムソロもかっこいい。ラストの「オード・トゥ・ビリー・ジョー」は正直、結構ダサいアレンジであるがその朴訥さがけっこういい。この曲は本当にカバーが多く、キング・カーティスとかジャコパスとかエラとかジャズ系でもいろいろなひとが演奏しているが、本作での演奏はその素朴なところに味がある……という感じか。ピアノソロもいいですね。というわけで、本作も好きです。ソニー・クリス万歳!