「FYAH」(GEARBOX RECORDS GB1550CD)
THEON CROSS
シャバカ・ハッチングスのバンド「サンズ・オブ・ケメット」のチューバ吹き、という認識だったが、経歴を見てみると、なかなかすごい(日本語ライナーを読めばわかる)。柳樂光隆さんが以前発表していた最近のジャズその他の音楽におけるチューバの活躍に関する文章(みんな読むべき労作)を読むと、このひとのすごさがわかる。私などはチューバと言われると、アーサー・ブライスやカラパルーシャバンドといったロフトジャズやあの衝撃だったダーティーダズンブラスバンド、高岡さん……などが思い浮かぶのだが、今のチューバ界はこんなにもポップでファンキーでダンサブルになっているのだ。ダンスミュージックといっても、正直かなり踊りにくいだろうビートのものも入っていて、めちゃくちゃかっこいいのだ。あと、全曲テナーがフィーチュアされていて(ふたりいて、参加曲はダブらない)、基本的にはソロはテナーが中心である。しかし、チューバソロ(4曲目とか。とにかくアホほど上手いし、歌心あふれるし、リズムしっかりしてるし……全国の吹奏楽部のチューバ奏者に、きみがやってる楽器はこんなにいろんなこと、楽しいこと、変なことができるんだ! と言ってまわりたい)やチューバのカウンターメロディなどがものすごくインパクトがあって、スムーズなテナーのソロにくらべてもチューバの存在感、フレーズが記憶に残るようなつくりになっている。テナーのふたりはどちらもすごく上手いが、もっと無茶苦茶やったらええのに……というのは聴き手の勝手な言い分か。荘厳なオーケストレイションをほどこされている曲や、チューバが過激に暴れる曲など、一回聞くだけでは見過ごしてしまうような美味しいアイデアが各曲に詰まっていて、ほんと何回聴いても新しい発見がある。そんな風な聞き方をするようなアルバムではない、という意見もあるだろうが、いやいや、私にとっては「そういう聞き方をすべき」アルバムである。5曲目のテナーなど、同じフレーズをアーティキュレイションを変えて対比することで効果をあげる、という裏技を使っていて、「おおっ」と思ったりして……。6曲目がなぜか「パンダの村」というタイトルで、そういう曲調なのか、と思ったがまった関係ないかなりハードな、コルトレーンかと思うようなシリアスなテナーのブロウが中心の曲だった(パンダがシリアスではない、とは言わんけど)。ラストの8曲目はかなり過激なアンサンブルワークの曲で本作の白眉といえるぐらい超かっこいい。リズムもえぐいし、テナーとチューバのからみも最高なので、ここまでみんなたどりつくように!