king curtis

「LIVE AT SMALL’S PARADISE」(ATCO WPCR−27622)
KING CURTIS

 キング・カーティスのライヴと聴くだけでわくわくする。しかも、フィルモアみたいな大会場ではなく、「スモールズ」というぐらいだから小さいところなのだろう(と思ってたら1500人入る店だったそうだ)。そして、メンバーがベースにチャック・レイニー、ギターがコーネル・デュプリーというのだから、悪いはずがない。しかもしかも、ジャケットのカーティスのマウスピースをくわえる横顔がめっちゃかっこよくて、音が聞こえてきそうなのである。もちろん内容もめちゃめちゃ良くて、フィルモアのライヴきような狂熱的な熱気はないが、演奏のクオリティはアホほど高い。やはりギターのカッティングとベースのグルーヴ感がすばらしく、全体を盛り上げ、また引き締めている。3管で、バリトンのひともコルネットのひともうまい。コルネットのひとは「いそしぎ」でソロをするけど、ジャズ畑のひとだと思う。まず、アレンジがかっこいいし、リーダーをはじめとしてメンバー全員が休むことなくしゃかりきに大活躍するし、売りはもちろんキング・カーティスの超かっちょいいテナーソロなのだが(サクセロの曲もある。上手い)、ライヴだからといってダラダラ吹かず、短いソロスペースのなかで存分に吹きまくり、グロウルし、シャウトし、スクリームする。キング・カーティスを聴くと、いつもサム・テイラーを連想する。音の濁らせ方が似ている、といった表面的な理由ではなく、ある意味職人芸的な上手さがある。スタジオミュージシャンとしての仕事も多いので、音楽的知識、テクニックは死ぬほどあるが、ブロウすると、聴衆を喜ばせることに徹する。しかし、同じようなエンターテイナー的テナーマンは多いが、ふたりとも段違いに演奏クオリティが高い。しかも、上手くておもしろいというだけでなく、熱いブロウ魂、ブルース魂、ミュージシャンシップを感じる。だから成功するんだよなー。選曲も良くて、どファンキーの塊のような曲、当時のヒット曲、「風に吹かれて」のような他ジャンルの曲、「いそしぎ」のロックバージョン、ヒルビリーみたいな曲(そういう曲調ではヤケティ・サックスに徹する。それもまた上手いのだ)……バラエティ豊かで飽きさせない。これもエンターテインメント性だよなー。たとえば「ピーター・ガン」など、もうちょっとテンポを落とせばものすごくグルーヴするはずなのに、速いテンポでハードに攻める。そのあたりは、この店が客が踊る店であるということも関係してると思う。最後の「テーマ」など、音ふたつしか使っていないのに、めちゃくちゃかっこいいのだ。惜しむらくは、客がダンスに夢中なのか、酒に夢中なのか、静かなところで、ラストもテーマが終わっても、とくにバーッと拍手が来ることなく終わっていく。みんななにを聴いとんねん。俺がここにいたら、きゃあきゃあ叫んでたと思うけどな。それはそれで迷惑か。とにかくすばらしいアルバム。キング・カーティスって聴いてみたいんだけどなにか推薦してよ、と言われたら、まずはフィルモアのライヴ。そして、第二位にはこのアルバムを推したいです。

「KING SOUL!」(PRESTIGE RECORDS 7789)
KING CURTIS

元は「ニュー・シーン・オブ・キング・カーティス」というタイトルで出ていたもので、そのときはナット・アダレイは「リトル・ブラザー」名義だった。キング・カーティスがジャズに接近したアルバム(ルーツ回帰というべきか、すでにR&B的なリーダー作を出していた(「ハヴ・テナー・サックス・ウィル・ブロウ」)カーティスだからこそできたアルバムなのかも)。豪華メンバー。もう、言うことなし。こういう風にたっぷり尺を使ってソロをしているのを聴くと、とにかくめちゃくちゃ上手いと感じる。いや、もっと吹いてほしいぐらい。正直、ナット・アダレイのコルネットがなくて、ワンホーンだったらもっとカーティスのソロが聴けるのに……と思ってしまう(ナット・アダレイのソロが悪いというわけではない)。サブトーンとエッジの立ったトーンを組み合わせ、うまく「間」をいかしてブロウするカーティスだが、いやー、やっぱりもっともっとソロを聞きたい感がつのる。このグループ(?)のライヴとかが残ってたらなあと思ったり。オリヴァー・ジャクソンのドラムの躍動感あふれるグルーヴも、ウィントン・ケリーのコロコロコロ……と転がるようなファンキーで渋いピアノも、チェンバースの「これがジャズだよ」という感じのベースソロも、すべてがキング・カーティスを「ジャズ化」するためのものに思えてくる。ラーセンのエッジの立ったフルトーンを聴くだけで「ああ、ファンキー」と思うが、じつはサブトーンやベンドなども駆使するテクニシャンである。フレージングはどこを切ってもブルーノートを巧みに使った超かっこええものばかりなのだが、いわゆるソウルっぽい演奏、R&B的な演奏はともかく、こういうジャズ寄りの演奏でカーティスが使うフレージングも、たとえばゴスペルの影響だ、とか、ブルースだ、とかいうのは簡単だが、やはりどこかにサックス奏者からの影響というかルーツがあるはずだ。それはどのあたりだろうと考えてみると、ウィキペディアにはルイ・ジョーダンの名が挙がっていて、なるほどなあ、と思った。あとは、イリノイ・ジャケーとかかなあ……。なにしろキャリアのかなり初期にはライオネル・ハンプトンにいたわけだから……。インタビューでは、影響を受けたミュージシャンとして、レスター・ヤング、ルイ・ジョーダン、イリノイ・ジャケー、アール・ボスティック、ジーン・アモンズ、デクスター・ゴードン、ソニー・スティット、ベン・ウェブスター、コールマン・ホーキンス、スタン・ゲッツ、チャーリー・パーカー……といった名前が挙がっていて、なーんだ、フツーにジャズのひとやん! ということになるが、こういうひとたちの影響下でこのスタイルを作り上げていったのは賛嘆に値する。なにしろカーティスの後進(ソウルジャズ、スムーズジャズ、メロウ系サックス、フュージョンなどなど……)への影響は絶大なのである。A−3の「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」はこういうテキサステナー系のひとの定番商品なのだが、カーティスも見事に泣かせる演奏をしている。B−1は本当にちょっとしたリフ曲なのだが、めちゃくちゃかっこよく、ゴスペルっぽく聞こえる曲で、こういうセンスはなかなか真似できない。ナット・アダレイもええ感じだが、カーティスはほとんどブルースペンタトニックだけ、みたいなコテコテのソロを繰り広げていて最高である。チェンバースのアルコソロもある。B−2は、ケリーのワンコーラスに続いてカーティスがいきなりソロをはじめるがこれがもうめちゃくちゃかっこいい。このままジャズテナーの巨匠になってしまえ! と言いたくなるようなすばらしい演奏。ポール・チェンバースがいつものノコギリみたいなアルコソロを(B−1に続いて!)延々披露するが、これがこういうファンキージャズにはけっこうマッチしていている。ウィントン・ケリーもカーティス同様ブルースペンタトニックしか使わないようなソロだが、その上品さ(というのとはちょっとちがうか)はなかなか得難い気がする。キング・カーティスが本領発揮の作品であります。このあとカーティスはプレスティッジのソウルジャズ路線で試行錯誤しながら、ついには「ソウル・トゥイスト」にたどりつくのだが、本作も必聴と言ってもいいかもね。

「INSTANT GROOVE」(EDSEL RECORDS ED315)
KING CURTIS

キング・カーティスのベスト盤で、曲によっては何度聴かされたかわからん! というものも入っていると思うが、まあ、どれも名演ということで……。1曲目の「キャッスル・ロック」は(今ではスティーヴン・キングで有名だが)ジョニー・ホッジスがテナーのアル・シアーズをフィーチャーしてヒットしたブルース。ここではノーブル・ワッツ(!)のテナー、アル・ケイシーのギター、ハーマン・フォスターのピアノ……などを従えてカーティスが小気味よくブロウする。ドラムとふたりだけで演奏されるパートなどは真骨頂。2曲目は同メンバーでのメキシカンテイストのブルースで、ちょっとヤケティサックスというかヒルビリーテイストもある。リズムセクションの上手さはすばらしい。3曲目はけっこう編成の大きなバンドでギターがふたりもいる。タイトルどおりギターをフィーチュアしたブルースだが、カーティスもグロウルしまくりのテナーをきかせる。ドラムがパナマ・フランシスらしい。4曲目はこの手のアルバムではおなじみの「ハニー・ドリッパー」で、なぜヒットしたのかさっぱりわからんブルース。しかし、カーティスのソロはノリノリでかっこいい。バリトンがバド・ジョンソンだそうだが、もちろんソロはない。ここまで全部ブルースなのだが、5曲目の「ブルースの誕生」という曲はなぜかブルースではない、という不思議。客の歓声はあとでオーバーダビングされたものという記述があるが、そういうこととは関係なくカーティスはひたすら楽々とテナーをブロウしていて心地よい(ギターはミッキー・ベイカーだそうです)。6曲目はこれもおなじみすぎる「ピーター・ガンのテーマ」で、後半、かなり熱くなって吹きまくるカーティスのソロがよい。これまでは58年から59年の録音だったのだが、つぎの「ボス」という曲からセッションが変わって、65年から69年のものになる。当然、演奏内容もかなり新しい感じになる。A面最後の「ロッキー・ロール」という曲はリズムもそうだが、「ヤケテイヤック」という言葉が途中で出てくるし、そのあと「シェイク・ラトル・アンド・ロール」というリフレインも出てきて、あー、商業主義……と思ったりするが、カーティスのテナーに関しては軽快なブロウが聴ける。B面に移ると、それまでのジャンプブルース〜ジャズロック〜リズム・アンド・ブルース的な演奏から、ぐーっとソウルな曲が増える。1曲目のヴォイスというかトーキングをフィーチュアした曲でも、カーティスのソロは新時代の到来を感じさせる。2曲目はオールドスタイルだが、チャック・レイニーやコーネル・デュプリーが参加していて、新しいファンキーミュージックが創成される場面を目撃しているような気になる。3曲目は超有名な「メンフィス・ソウル・シチュー」で、昔、この曲をR&Bバンドで毎週3回、あちこちのいかがわしい外国人バーで演奏させられているときは、なにが面白いのかまーったくわからなかったが、今聞くと、ある程度「なるほどなあ」とは思うが……。4曲目はナレーションの入る曲で、カーティスはお定まりのブロウを展開。5曲目はスローブルースというかブルースバラードで、客の声が入っているが、これはマジのライヴらしい。コーネル・デュプリーとチャック・レイニーが参加している。6曲目もナレーションが入るジャズロックでピーターガン的な感じ。カーティスは水を得た魚のようにブリブリ吹きまくる。かなりオーバーダビングもなされているらしいがよくわからん。7曲目は、もうブルースでもR&Bでもない完全なソウルだろう。サックスの音が複数聴こえるのはカーティスによるオーバーダビングらしい。ピアノはダニー・ハザウェイらしい(つぎの曲も)。ラストはアップテンポで、ひたすらカーティスのテナーを全身で味わう感じの曲。というわけで、かなりの年月をグシャッと握りつぶすような感じで聴かせられるアルバムではあるのだが、「キング・カーティスのテナーをとことん楽しむ」という趣旨はまさにそのとおり達成されるアルバムだと思う。

「SOUL TWIST」(ENJOY RECORDS PLP 6009)
KING CURTIS

めちゃくちゃ前に買ったアルバムだが、超久しぶりに聴き直してそのすばらしさに驚いた。プレスティッジでウィントン・ケリー、ポール・チェンバースなどとファンキーなソウルジャズをやっていたキング・カーティスがひと皮剥けた(?)感じで「これしかおまへんで!」という演奏をしたファイア録音「ソウル・トゥイスト」(けっこうヒットしたらしいです)他を中核にしたサックスインスト集。A面1曲目はカーリー・ハムナーというドラマーのバンドにフィーチュアされた感じで、演奏もやや古い感じのホンカー系という雰囲気だが、2曲目以降は自己のバンドで、ギターにビリー・バトラーがいて、オルガンも入っていて、のちのキングピンズを思わせるサウンドである。カーティスはずっとグロウルしているが、派手なホンクやスクリームは意識的に抑えていて、「いい音色でファンキーにメロを吹けば、あとは勝手にバンドが鳴ってくれる」みたいなことをこの時点ですでに体得しているのだ。全体にギターをフィーチュアしたサウンドのなかに自分のテナーはメロを吹く役割に徹していて、あとは全員で盛り上げましょう的な感じになっていると思う。これはあのフィルモアのライヴにも通じる価値観というか美学で、このあといろいろなミュージシャンに引き継がれることになったものだと思う。A−6、7のチョーカー・キャンベルというひとはまったく知らないのだが、すばらしいテナーでびっくり。ジャンプ系の曲としてもすばらしい出来。A−8のレス・クーパーの演奏は、やかましいリズムをバックにしているがヤケティ系のすばらしいテナーをフィーチュアしていて(だれなのかはわからない)とても楽しくて聞きごたえがある。B面に行くと、1〜2曲目はウィリス・ジャクソン。1曲目はシャッフルのブルース(マイナーブルース?)で手慣れた感じでジャクソンがブロウするが、2曲目はジル・ジェニングスのギターもえげつなく吠えるスローブルースで、こんな単純な音楽がどうしてひとの心を打つのだろうと思うが、とにかく「打つ」のだから仕方がない。3〜4曲目は「出たーっ!」という感じのノーブル・ワッツで、ホンカー好きはみんな知ってるノーブル・ワッツ。いやー、ええ感じにあざといのう。ジューン・ベイトマンのボーカルもいいが、そのあとのワッツのヤケティっぽいテナーも最高よ。B−5以降はまたキング・カーティスに戻って、ヒルビリー風のリズムに乗った曲や、完全にR&B的な曲での、そういったリズムに対応した小刻みなタンギングやフレージングなど、フィドルっぽい雰囲気もあって味わい深いですね。ラストはスローブルースで、カーティスはアルトを吹いているが、まさにルイ・ジョーダンかアール・ボスティックかというどす黒く、ファンキーな演奏であります。解説は吾妻光良さん。