「チョビ渋」(地底レコードB68F)
チョビ渋
渋さ知らズワークショップから生まれた、札幌の中学生〜高校生(録音当時)による「チョビ渋」というグループのアルバムである。つまり、福島の「十中八九」などと誕生の敬意は共通しているが本作は「中学〜高校」というところが特徴。しかも、作曲・編曲も全部彼らが行っているらしい。現在は解散したらしいが、かなり驚くべき内容。1曲目、リズミカルでアップテンポのバリトンサックスのバンプではじまる33334の一聴変拍子っぽいリフの曲。ここでまず、ぐーっとハートをつかまれる。思っていたよりはるかに高水準なのだ。サビは一転してファンキーな8ビートになる。タイトルは「本多畳店のテーマ」で、テナーの矢田渓佑というひとの曲だが、こんな不穏な曲がテーマではその畳店はやばいんとちがうかと思ってしまう。先発で出てくるテナーがおそらくその矢田さんだろうが、太い音色でうねるようなフレーズを積み上げていく。高校生(?)でこれだけ吹けたら、2年半後の今は相当うまくなっているはずである。とにかくソロもいいが、それを盛り立てて、全員一丸となって盛り上がろうという一体感が感じられるのだ。ドラムもギターも最高やん。このあたりでもう、私としてはかなり感心しまくってしまったのだが、2曲目を聴いてもっと感心してしまったのだ。冒頭ドラムの8ビートとのデュオでトランペットが吹くイントロからはじまるシンプルなリフの2コードの曲(ドラムの宮崎さんの作曲)でのピアニカのファンキーなソロといい、多彩なドラムのバッキングといい、狂ったように暴れまくる思い切りのいいギターといい、いやー、すごいやないですか! 中高生? おい、おまえら、親呼んでこい、説教したる! と言いたくなったぐらい、すばらしいではないか。3曲目は「ワンツースリーフォー!」の掛け声とともにはじまる(この可愛らしい掛け声は随所に挿入される)派手でご陽気な曲(トランペットの吉野菫さんの曲で趣向が面白いが、なぜか「かいじゅう」というタイトル)。ソプラノサックス→トランペット→テナーとソロがリレーされる。ちょっと「あまちゃん」的吹奏楽テイストも感じられる曲だが、暴れまくるドラムによって生き生きした演奏となった。これもすばらしーっ。4曲目はアルトサックスの松原慎之介さんの曲で「2013 Miles」というタイトルがついている。おそらく最初に出てくるソプラノサックスサックスが松原さんなのだろうが、音が上がりきっていない箇所などあっても(たぶん緊張からだと思う。すごく上手いので)、このフレージングは完全にモーダルなジャズを自己薬籠中のものとしていてすごいです。曲自体もかなり変わっていて、半音階的なものが随所に出てきたりして、こういう曲が書けるというのもたいしたもんですね。続くトランペットソロもたいへんモダンでよい。きっと今はもっと上手くなってるはずだ。5曲目は女性コーラスからはじまるマイナーブルースっぽい曲(ちがうけど)。曲はパーカッションの山谷洋介さんが書いたもので、3拍子。ギターのひと、上手いよね。そして、ドラムがめちゃくちゃ煽る。アルトのフリーキーなソロもあるけど、だれでしょう? ああ、このソロはまるで高校生のときの自分のようだ。そうだ、これでいいのだよ、アルトのひと! 続くドラムソロは超絶に上手くてやりたい放題でちょっとボーゼンとしてしまった。ええやん! そして、そういったソロを経てくると、シンプルすぎると思われたテーマが何百倍ものパワーを得て最後に爆発する、というのも渋さ知らズではおなじみの展開だ。いや、渋さだけでなく、ベイシーでもエリントンでも大友良英でも……あらゆるビッグバンドで行われてきたこの展開……リフというものの持つ力の偉大さ、凄まじさをまざまざと見せつけられた気がする。6曲目はトロンボーンの平澤龍さんの曲だが、「三角大福中」というよくわからんタイトル。もしかしたらなにか政治的な意味合いのある曲か、それとも単に日本史の時間に覚えたその響きが好きなだけか……。ちょっと呑気な楽しいテンポの曲で、スウィングジャズ的な味わいもある(でも、よく聴くとものすごく変な曲なのだよなー。アレンジも変過ぎてめっちゃおもろいぞ)。テナーがなかなかぐっとオールドスタイルの、深いいい音のソロをする。そして、トランペットソロも渋い。でも、そのあとに登場する(おそらく作曲者の)トロンボーンソロの上手さには驚愕。なんや、このひとは! 五島みたいなやっちゃ(といってもわからんでしょうが)。7曲目はピアノの角谷美音(ええ名前!)さんの曲で、非常にいいテンポのグルーヴのある曲でたいへんすばらしい。いきなり出てくるアルトのひとがめっちゃ上手い。このひとはものすごくジャズが吹けるひとで、バップもできるはず。いやー、驚くなあ。そして、たぶん早坂真周さんのピアニカソロもめっちゃええ。傳法瑠樹さんのギターソロもいい。トランペットとアルトサックスがチェイスのようにからむソロがフィーチュアされる。……というわけで、ここまではなるほどすごいなあ、うまいなあ、たいしたもんだなあ、えらいやっちゃなあ……とひたすら感心して聴いていたわけだが、最後の8曲目「日の出」という曲だが、ドラムの関裕太さんの作曲によるこの曲が、めちゃくちゃ気に入ってしまい、いやー、自分のバンドでやりたくなりました。それぐらい気に入った。ええ曲書くなあ。シンプルだと見せかけて、最後にちょっとずらす。すばらしいです。この曲を聞きたいがために、このアルバム何度も何度も聞いたがどの曲もいいけど、やっぱりこの曲のかっこよさは尋常じゃない。ここに至って、この「ちょび渋」というバンドの完全なファンになってしまった。あー、解散してしまったのは惜しいなあ。このアルバムに参加したメンバーが今、そして今後も幸せな音楽人生を送っていってくれることを祈っています。傑作、といっていいんじゃないでしょうか。不破さんはえらいなあ。