「OKINAWA JINTA」(OFFNOTE ON−1)
大工哲弘
おおっ、番号がオフノートの「ON−1」だよ。オフノートというレーベルにおいて、本作はいまでも最重要作として光り輝いている。私は第二作の「ジンターナショナル」のほうを先に聴いて、とにかくめろめろにまいってしまい、こんなすごい音楽があるのか、とボーゼンジシツした。じつはそれを教えてもらったのは大原さんで、大原さんは「めちめちゃすごいからとにかく聴け」と強引に私に聞かせたのである。その後、大工さん本人と会ったときはいろいろあったらしいが、とにかく私に大工さんを聞かせてくれたのは大原さんなのである。で、本作だが、この音楽を「嫌だ」とか「ダメだ」とかいうひとがこの地球に存在するとはとうてい思えない。それだけ力があり、深く、しかもエンターテインメントで、だれにもわかるし、反骨の気風をそなえ、かっこよく、すげーリズムで、もうなにもこれ以上つけくわえることはないすばらしい音楽であり、演奏だ。どの曲も心に残り、ある種のパロディというか諧謔として歌われている場合もあろうし、ストレートにそのメッセージを受け取ってよい場合もあろうし、なんにも考えていない場合もあろうが、そのすべてが聴き手の血となり肉となる。聴いていて身体にスーッとしみ込んでくるようだ。たぶんあまり指摘がないと思うが、アレンジもすばらしくて、梅津さんはさすがである。死ぬまでに1万回は聞き返したい超名作だと思う。
「YUNTA & JIRABA」(DISK AKABANA APCD−1002)
大工哲弘
あまりによすぎて、何遍も何遍も何遍も何遍も聴いた。全曲すばらしいが、とくに4曲目「ZANZABURO」という曲はあまりにツボに入り、毎日毎日こればっかり何度もリピートして聴いていた時期もある。じつはいまでもほぼ毎日聴いているのです。いやー、この曲はすごすぎる。本作は、大工哲弘という沖縄民謡の歌い手が、梅津和時のプロデュースにより、トム・コラやサム・ベネット、早川岳晴、三好功郎……といった梅津人脈の、いわゆる「とんがった」音楽の世界にいるひとたちと共演した、一種の異種格闘技であり、おそらく沖縄民謡のコアなファンからはキワモノ扱いされそうな感じのセッティングではあるが、聴いてみると、たしかにこれは正統な伝統的な沖縄の音楽ではない。とくにリズム面でそれが顕著に感じられる。しかし、キワモノどころか、大工哲弘の音楽も梅津さんたちの新しいリズム、ハーモニー、楽器を得てものすごく膨らみ、また、梅津さんたちも大工さんの歌と沖縄という素材を得てものすごく膨らみ、これはまさに1+1が1000になったというべき化学反応である。まあ、とにかく聴いてもらわんと話にはならないが、たぶんこの先一万回ぐらいは聴くはずの、音楽の宝庫、玉手箱である。これは、沖縄というキーワードを捨ててもいいぐらい「音楽」であるし、いや、これは沖縄音楽そのものだ、という言い方もできる。めちゃめちゃかっこいい。音楽はすごい。そういう当たり前のことを再認識させてくれるすごい作品。
「JINTA WONDERLAND」(OFF NOTE ON−58)
大工哲弘 & ちんどん通信社
オフノートにおいて沖縄とちんどんが出会うのは当然だろうとは思うが、これは、そういった予定調和的な出会いをはるかに超えた、最高の邂逅だ。傑作です。ちんどん通信社以外のメンバーもいかにもオフノート的だし、選曲もまたオフノート的だが、聴いてみると、結局、本物は強いということだ。なんとなく結果が見えるような組み合わせであり、選曲だなあと最初は思っていたが、いや、ここまで正攻法で攻めて、これ以上の結果を残せるということはありえまいという印象に変わった。つまり、これが、このアルバムが、最高なのです。曲目一覧を見るだけで、この曲聴いてみたい、とか、これをこのメンバーがどのようにアレンジしているのだろう、とかわくわくさせてくれるが、その期待以上に応えてくれる作品なのだ。沖縄の曲ではないのに、なぜか沖縄を感じさせる大工哲弘の歌もすごいが、今は大正時代か? と錯覚させるような素朴かつ前衛な共演者もすごいし、チンドンの哀しくも楽しい世界が完全に溶け込んで、100年もまえから共演していたように自然なのは、プロデューサーの眼力も大きく寄与していると思う。いやー、かっこええなあ。一曲目の「しゃぼん玉」での心をわしづかみにされるような哀愁のあと、いきなりにぎやかにはじまるチンドン……という流れに乗ってしまえば、あとは一気に下流まで運ばれてしまう。たしかにこの音楽は、「ジンタ・ワンダーランド」と呼ぶしかあるまい。さすがのネーミングです。
「JINTA INTERNATIONAL」(OFF NOTE ON−12)
大工哲弘
このアルバムは、一時、毎日聴いていた。ものすごく影響を受けた。というか、こういう音楽のやり方があるのか、と目から鱗が落ちた。「オキナワ・ジンタ」よりもこちらのほうを先に聴いたのだ(というか、「オキナワ・ジンタ」や沖縄系のアルバムはかなりあとになって聴いた)。このアルバムが大工さん初体験である。日本の古い曲には力があり、また、いろいろな歴史的側面があるということは、たとえば巻上さんの「民族の祭典」あたりから実感していて、そういうものも聴いていたのだが、このアルバムでの大工さんのやり方は心臓をえぐりとられるようなショックと感動だった。プロデューサーである梅津さんの力が大きいのだろうか。メンバー的には完全に梅津人脈で固まっていると思うが、個人的には、ボーカルも三線もアレンジもソロも選曲もすべてが好きで、ときどきこのアルバムでの大工さんの歌い方が、ふっと頭のなかに蘇ったりする。重い歴史を背負った曲、さまざまな解釈のできる曲などを、軽く、さらりと、のんしゃらんに歌う大工さんの歌には、とことん引きずり込まれてしまう。こんなすばらしい音楽があったのか、と思い、ここで扱われている曲の原曲を探して聴いたりもしたが、やはり、大工さんの歌はそういった原曲の再解釈というより、いきなりもう大工さんの音楽としかいいようがなく、たぶんこのアルバムは10回連続リピートしても飽きずに聴いてられると思う。とくに「生活の柄」と「ストトン節」と「復興節」が好きです。あ、ほかも全部……。