「LIVE IN CHATEAUNEUF−DU−PAPE」(BLACK & BLUE BB968.2)
WILD BILL DAVIS EDDIE DAVIS
ロックジョウがリーダーではなく、ワイルド・ビル・デイヴィスのリーダーセッションである。ドラムがオリバー・ジャクソン、ギターがビリー・バトラーという鉄壁の布陣でのライヴ。お客さんもかなり入っているようだ。1曲目のブルースからロックジョウのブロウとワイルド・ビルのオルガンががっぷり組んでノリノリな様子が伝わってくる。ロックジョウが自分のアグレッシヴなブロウへの客の食いつきを感じて、「ふん! こんなのはいつもやってるんだ。軽いぜ」と嘯きながら、でも内心はめちゃうれしい……という雰囲気もなんとなくわかる。2曲目はレイ・ブライアントの「コンゴ・チャント」だが、ワイルド・ビル・デイヴィスのオルガンがもうめちゃくちゃノリまくって弾いて弾いて引き倒す。オリバー・ジャクソンのドラムソロもすばらしい。ロックジョウは不参加。3曲目は、2曲目休んでいたロックジョウがスウィングの塊となって吹いて吹いて吹き倒すナンバー。もちろんギター、オルガンのソロも快調。ドラムソロのときに鼻歌を歌ってるやつはダレだ!(ワイルド・ビルでしょうね)4曲目「ゴースト・オブ・ア・チャンス」はロックジョウのサブトーンが堪能できる傑作であると同時にロックジョウのフラジオの凄まじさが堪能できる演奏でもある。ラストのカデンツァの見事さも含めて、ロックジョウの最高の演奏のひとつだと思う。ロックジョウファンは聞き逃すことなかれ。5曲目「いそしぎ」はすごく速いテンポ。ロックジョウの例の「頭のおかしい」フレージングのオンパレードである。すごいなあ。どうしてこんなフレーズを吹くのかまったく理解できないのだが、ロックジョウというひとはこういうわけのわからんフレージングの宝庫なのだ。すばらしい。でも、わけわからん! 6曲目はスティット作の「ルーズウォーク」となっているが、要するに「ブルース・ウォーク」である。どっちが正しいのかは今となってはだれにもわからないだろう。昔からあるリフなのだ。どのソロもぶっ飛ばしているが最後のドラムソロはめちゃくちゃ楽しい。7曲目はロックジョウの無伴奏ソロではじまるが、ここだけ聴いたらみんな前衛ジャズの冒頭部と思うかもしれない。しかし、はじまるのは「ミスティ」なのだ。ラストのカデンツァも含めて、かなりアグレッシヴな「ミスティ」である。ロックジョウのファンはこのコテコテで脂ぎったアクの強い表現に耐えなければならないのだ。なかなかたいへんである。8曲目はこれもコテコテでロックジョウフレーズのオンパレードのような「レスター・リープス・イン」。とにかくジャズの生んだ最大のスタイリストのひとりであることはまちがいない。ローランド・カークに匹敵するような変態的演奏である。テナーソロのラストコーラスのサビなんか、聴いたら腰抜けるような演奏である。9曲目は「イパネマの娘」なのだが、ロックジョウのボサノバ解釈はあいかわらず「軽さ」と「洒脱さ」を捨てて、コテコテに塗り替えている。さすがとしか言いようがない。10曲目は「昔は良かったね」で、ブロウに反応して客がものすごく騒いでいる。わかるわかる! ギターソロもオルガンソロも盛り上がる。ワイルド・ビルがMCをしていて、リーダーであるのがわかる。ラストの「ウー! アー! ディーディー」はバディ・テイトとの競演版でもやっていたワイルド・ビル得意中の得意なナンバー。ガレスピーの「ウバップ・バム……」みたいなもんでしょうか。ただし、ロックジョウはお休みで残念。というわけで、高濃度高血圧なライヴであります。傑作。
「LIVE!」(BLACK & BLUE CDSOL−46069)
WILD BILL DAVIS〜EDDIE LOCKJAW DAVIS
このアルバムの存在を知ってからずっと聴きたかったのだが、今回のCD化で夢がかなった。私はロックジョウのあまり良い聞き手ではないかもしれない(好きなことはめちゃくちゃ好きなのだが、アルバムを全部聴きたいとかいった気はない。コブとかジャケーはそういう気持ちまんまんなのだが、ロックジョウはだいたいどれも同じっちゃあ同じなので。でも、その「同じ」のレベルはものすごく高いのでなにを聴いても満足はするのだ)。オルガン+テナーが本当に大好きな私にとって、ロックジョウ+シャーリー・スコットというのは美味しい組み合わせのはずなのだが、なぜかあんまりピンと来ない(このあたりのことを話すと長くなるのでやめときます)。しかし、相手がワイルド・ビル・デイヴィスならばとんでもなく凄いにちがいない……と勝手に決めて、聴きたい聴きたいとずっと思っていたのだ。で、聴いてみてどうだったかというと……めちゃくちゃよかった。「やっぱりな!」という感じである。まあ、このふたりに加えて、ギターがビリー・バトラー、ドラムがオリヴァー・ジャクソンなのだから悪いわけがない。ワイルド・ビル・デイヴィスはミルト・バックナーとともにソウルフルなジャズオルガンの創始者的な存在で、それまでもファッツ・ウォーラーやカウント・ベイシーなどオルガンの使い手はいたが、ビッグバンドのようにうねり、叫ぶオルガンの魅力を引き出したのはこのふたりだろう。それがジミー・スミスをはじめとする多くのスターを生み出したのだ。でも、そういう「創始者」が(どちらも)これほどコテコテでしつこくくどい大仰な奏者だったというのはなんとも愉快ですばらしいことである。ほんま、「しつこいっちゅうねん!」と叫びたくなるほどウケたら繰り返すし、音はどんどんでかくなるし、鬼面人を驚かすというか、一言で言うと「ぐわああああああ!」という感じの演奏で、やっぱりオルガンというのはこうでないとね、と思う。もちろん渋いオルガン、静謐なオルガン、洒落たオルガンもあるわけだが、なにしろ「ワイルド」ビル・デイヴィスですからね。というわけで本作は異常に盛り上がる快作である。それにしてもロックジョウはやはり変だ。このひとのことをソウルフルでブルージーなテナーだ、と言ってるひとたちは、ほんまにちゃんと聴いてるんかいなと思う。どう考えてもおかしいプレイヤーなのだ。とにかくわかけのわからん、指をこねくり回したような変態的なフレーズをベン・ウエブスターマナーの凄い音で吹きまくるモンスターであり、その凄まじいブロウは圧倒的で感動的なのだが、少なくともフレーズが異常であることはまちがいない。本作でも、どの曲を聴いても(もちろんバラードでも)あふれ出すそのフレージングこそがロックジョウのオリジナリティであり、ワンアンドオンリーの魅力なのだ。それを煽りまくるワイルド・ビルのこれまたワンアンドオンリーのオルガン……それが本作の超かっこいいところである。ワイルド・ビルの掛け声やボーカル(?)の能天気だがアクの強い迫力もすごい。さっきも書いたけど、ビリー・バトラーとオリヴァー・ジャクソンもすばらしくて、演奏を押し上げている。このひとたちのことを知らないひとが、ワイルドとかロックジョウとか……なんかえげつなそう……と思って聴いてくれたとしたら、おそらく「まったくそのとおりでした!」という感想が聞けると思う。傑作!