「MEAN AMEEN」(DELMARK RECORDS DE−559)
ERNEST DAWKINS’NEW HORIZONS ENSEMBLE
シカゴの重鎮でカヒール・エルザバーの右腕でもあるアーネスト・ドーキンスが長く続けているバンド。タイトルの「ミーン・アミーン」というのは同じくシカゴで長らく演奏していたAACMのトランペッターで2003年に亡くなったアミーン・ムハマッドに奉げたものだからである(アミーンはこのニュー・ホライズン・バンドの元メンバーで、同バンドでエジプトを訪れたときにマシンガンを持った軍隊がバスに乗り込んできて、とんでもない目にあったらしい。シャドウ・ヴィネッツのメンバーでもあったようだから、もしかしたら私は生で聴いているかもしれないです)。3管編成でピアノレスというクインテットで、いかにもドーキンスが好みそうな編成である。曲は6曲中4曲をドーキンスが書いており、あとの2曲はトロンボーンのスティーヴ・ベリーの作曲だが、共通していえるのは、モードの曲が多いことで、シカゴフリーの特徴……と言い切ってしまっていいのかな。まあ、いいと思う。メンバーは若いひとが多く、なかでもあのモーリス・ブラウンの参加が目に付く。ニューヨークでの活動が目立つが、もともとはシカゴのひとで、グリフィンやクラーク・テリーなんかとも共演して、ジャズどっぷりだったようだ。ドーキンスやフレッド・アンダーソンともやっていて、フリー系にも足を突っ込んでいたのに、ヒップホップでグラミー賞だからすごいよなー。本作でも、ブラウンはかなり凄まじいソロを吹きまくっていて、どう聞いてもフリージャズのひとにしか聞こえないほど。すばらしい。ドラムもベースもトロンボーンも全員良くて、もちろんドーキンスの武骨でガッツのあるソロは絶品で(アリ・ブラウンといいフレッド・アンダーソンといいこのひとといい、シカゴのフリー系のサックス奏者は皆、ごつごつした手触りの人間味あふれるソロをするなあ)、そのうえ作曲・編曲がいいのだから言うことはない。1曲目からめちゃくちゃいい曲で3管のアンサンブルもばっちり。ドーキンスのアルトソロもけっして流暢ではなく、逆にあちこち引っかかるような感じなのだが、これがいいんです。すごい迫力と熱気なのだ。つづくモーリス・ブラウンのソロも凄まじく、(変な言い方だが)とてもグラミー賞受賞者とは思えない、壮絶でパワフルでフリーキーなものだ。ソロ全体の構成とかを考えていない出たとこ勝負感も好ましい。2曲目(スティーヴ・ベリーの曲)もモーダルな感じの曲で、作曲者のベリーが悠然とした熱いソロをたっぷり聞かせてくれる。ドーキンスのソロもかっこいいし、モーリス・ブラウンも八方破れにめちゃくちゃなブロウを展開していてすごくええ感じである。3曲目(これもベリーの曲)はバラードだが、なんとも不思議な曲で、ジャズっぽくないというか異世界のサウンドなのだ。何度聴いても「よくこんな曲書いたなあ」と思うような雰囲気なのだが、一度聴いたら忘れられない。名曲じゃないでしょうか。4曲目は突如としてハードバップ、それもめちゃくちゃベタな感じで、ほぼ「クール・ストラッティン」といえるマイナーブルースなのでびっくりするが、「メッセージ」というタイトルで、アート・ブレイキーに奉げたものらしい。ここでのモーリス・ブラウンのソロは最初は普通のハードバップ的なものなのだが、バックのリフが入るあたりからフリーキーなめちゃくちゃな感じになり、ものすごくかっこいい。「心得てる」というやつでしょうか。そのソロの最後のフレーズを受けてドーキンスがアルトで吹きまくる。そのあとのトロンボーンソロも、まるで人間がしゃべっているみたいな温かみを感じるもので、つくづく良いメンバーがそろっていると思った。ベースソロもドラムソロもなんとも「ごつい」ソロで、良質のハードバップを聞いているような満足感がある(その印象はべつにまちがってはいないと思う)。5曲目は、アフリカっぽい曲調だが、タイトルは「ハイチ」である。シンプルなパーカッションのビートにいろいろなものが乗っていく。声とかハーモニカとか法螺貝っぽいものとかカリンバとかである。最後の6曲目は、なかなかたいへんなアレンジがほどこされていて、アルバムの最後を飾るにふさわしい曲である。これは、聞いてもらわないとわからないと思うが、この熱量は尋常ではない。アンサンブルを聞いているだけで感動なのである。ドーキンスのまっすぐでブレないソロ、ベリーのきっちり筋を通す丁寧なソロ、ブラウンのかなり大胆なえぐいソロ、ベースの激しいがものすごく上手いソロ、満を持したようなフリーなドラムソロ……などが並んだあと、テーマに戻るのだが、やはりドーキンスはただものではないなあ、と感心しまくる。いやー、しつこく聞いていますが、傑作ではないでしょうか。
「THE MESSENGER」(DELMARK RECORDS DE570)
ERNEST DAWKINS’ NEW HORIZONS ENSEMBLE LIVE AT THE ORIGINAL VELVET LOUNGE
ごっつい、いかつい、武骨な、骨太のメンバーたちによる演奏。私はシャドウ・ヴィネッツの来日時にアーネスト・ドウキンスを生で観ているらしいが覚えてないなあ。アリ・ブラウンですら1曲アルトソロがあったなあという記憶しかないのだ。まあ、それはいいとして、本作における演奏はとにかく流暢ではなく、あちこちに引っ掛かりのあるようなギザギザした演奏なのだが、それがいいんです。こういう演奏を「なんや、荒っぽくて下手くそやな」と思うひとがひとりでもいたらそれは大きな損失だ。アコーディオン(?)と歌などによる短いイントロのあと、初期メンバーで早逝したトランペッターのアミーン・ムハマッドに奉げられた曲で(ええ曲や)、同名のアルバムもある。本作はスタジオ録音だったその「ミーン・アミーン」のライヴバージョンと言ってもいいと思う(メンバーはまったく同じ。曲は2曲だけ一緒)。ベースのパターンに乗って、アーネスト・ドーキンスのごっついアルトが「噴出する」といった感じでフィーチュアされる。こういう、テクニックがどうのとか言うのとは無縁な、感情剥きだしで、しかもじつはその狂気をコントロールしている感じの、いかにも「ジャズ」といったソロは、本当に今のジャズシーンでは宝物のようなものだと思う。つづくトロンボーンソロ(スティーヴ・ベリー)も、ドーキンスのサックスをトロンボーンに移し替えたようなガッツのある演奏。おなじみモーリス・ブラウンもこのバンドでは伝統的なフリージャズに回帰したようなソロをする。熱く、出たとこ勝負の奔放なソロは、聞いていて気持ちいい。2曲目はアート・ブレイキーに奉げられた「ザ・メッセンジャー」というマイナーブルース(前にも書いたが、「クール・ストラッティン」っぽい)。先発のトランペットソロは荒削りで高らかでリー・モーガンのようにはるか遠くを見つめているようなソロ。ドーキンスの濁った音のひたむきなアルトソロは感動的。テクニックも音楽性も十分あるのだが、それを押しのけるぐらいのパッションがある。トロンボーンソロ、ベースソロ、ドラムソロもそれぞれ地味だがスルメのように噛めば噛むほど味がある感じ。しかも、ソロ回しの曲ではあるのだが、アンサンブルにも常に気が配られていて、飽きない工夫が施されている。さすがアーネスト・ドーキンスである。3曲目は(たぶん)ドーキンスのボーカルをフィーチュアしたスローブルース。ライヴならではのくだけた、だるい雰囲気がいいですね。tick me と言ってるのでしょうか。pick meか? 私のアホ耳では聞き取れないがとにかくシンプルに盛り上げる。モーリス・ブラウンのイケイケな感じのトランペットがいかにもシカゴの夜のライブという感じのヤクザな雰囲気ですばらしい。つづくトロンボーンソロは逆にぐっと落ち着いた雰囲気のいいソロ。そのあとドーキンスのスキャットコーナー(?)は、まさにブラックミュージックで非常に濃厚です。4曲目は8ビートとアフロを組み合わせためちゃくちゃかっこいい曲。ドーキンスはテナー。アリ・ブラウンといいドーキンスといいカラパルーシャといい、シカゴのテナーには共通するものを感じる。もちろんアモンズやボン・フリーマンなどにも。モーリス・ブラウンのソロは流麗な、抑制のきいたものだったのに、途中からバックが倍テンにして、そこからかなり荒い、熱血のブロウになっていくあたりも聞きもの。最後はみんなで循環呼吸。終わり方なんか、ちょっとレスター・ボウイっぽくないですか? 5曲目はマイナーなモード曲。ドーキンスのアルトが、ふつふつとマグマが湧きたつようなイントロを延々吹いて、こんな感じで終始するのかと思っていたら、なかなかスペイシーな曲調に。いやー、上手いです。トランペットソロのアクロバティックな展開もいいっすねー。こういうの、ほんとリー・モーガンっぽく感じる。ブレイクのときの押せ押せな感じもコテコテなジャズを聞いたという満足感に満ちる。そのまま終わっていくめちゃくちゃさも含めて、この曲のトランペットソロの奔放さが本作の白眉かもしれない。ラストはユーモラスな感じもある、ちょっとデキシー風の曲。全員がはじける。こういうある意味乱暴な感じなのは「歴史的名盤」とは縁がないかもしれないが、アーネスト・ドーキンスの音楽世界はすばらしいと思います。
「JO’BURG JUMP」(DELMARK RECORDS DE−524)
ERNEST DAWKINS’NEW HORIZONS ENSEMBLE
アミーン・ムハマッド存命中の録音。これはめちゃくちゃかっこいいですよ! ニュー・ホライズンバンドをどれか一枚、と言われたら本作でもいいんじゃないかと思うぐらい。とにかく「曲とアレンジ」が最高すぎる。1曲目「ストレンジャー」は超アップテンポでスタイリッシュで、よくこんな曲考えついたなあ、と思うようなすばらしい曲。テーマを吹くにはダブルタンギング不可欠。でも、とにかくアップテンポすぎて、ソロは全員フリー。そこもまたよし。ダーティートーンをまじえてネチッこく吹きまくるドーキンス。テーマとリフのあとリズムが変化してビートが半分になり、スティーヴ・ベリーの自由なトロンボーンソロ。リズムはそのままでアミーン・ムハマッドのフリーキーで豪快で人間味あふれるソロ。終わると唐突にテーマに戻る。かっこいい! 2曲目はファンキーなベースラインではじまり、冒頭に「ベイビー!」という歌(?)が入るので、お、ボーカル入りかと思ったら、それだけ。ジャズロック風のマイナーなテーマだが、凝ったアレンジになっていて、黒々とした響きを感じるめちゃくちゃ個性的な曲である。フリーなパートのあと、アミーンの突き刺さるようなトランペットソロ。うわー、もうたまらんな(つくづく早逝が残念)。つづいてトロンボーンソロだが、そのあいだ誰かがハンドクラップをしていて、これがハンドクラップというより、「おっさんが演歌を聞きながら機嫌よく合いの手を叩いているのがたまたま録音された」というレベルで、なんでこんなもん録音したんや! と言いたくなるようなもので、これもまたよし。トロンボーンソロの最後のほう、何人かがまた「ベイベー」とか掛け声をかけるが、それだけで終わり、アルトソロがはじまる。なぜこの曲調の曲(しかも自作)でこんなぐじゃぐじゃでわけのわからんソロを延々かまそうと思ったのかは誰にもわからん。いやー、シカゴですなあ。3曲目も、これまたええ曲で、冒頭は間の多いむずかしいリズムの譜面をずーっと全員で吹いていくとリズミカルなテーマが登場し、その後もいろいろな展開が待っている、というわくわくするような音楽の冒険の旅である。先発はアミーンで、ゆったりとした4ビートに乗ってブロウする。リタルダンドになってふたたびテーマリフ。なかなか凝ったアレンジのそのリフをしつこく繰り返しているうちに、ドーキンスのテナーソロになる。この粘着質で、ゆらゆらと揺れながら前進する個性の塊のようなソロはだれにも真似できないし、そのへんの上手いひとたちが集まってるジャムセッションでも絶対に聞けない。ヨセフ・ベン・イスラエルのベースソロのあと、突然まるでちがったリズムで別のリズムがはじまり、4曲目がはじまったのかと思ったらちがった。そしてトロンボーンソロになる。まあ、一種の組曲になってるわけですかね。ドラムソロのあとまたテーマのリフになって終了。4曲目は美しいテーマを持ったバラードで、アレンジもいい。このバンドには珍しくギターが入っていて、だれかと思ったらジェフ・パーカーでした。タイトルはなんと「ショーター組曲」で、この曲だけスティーヴ・ベリーの作曲。トロンボーンソロがフィーチュアされ、朗々と歌い上げる。そのあとドーキンスのアルトソロになるが、インプロとかとは違った意味で、本当にその場でパッと思いついたとおりを吹いている感じが生々しい。ときどき各種パーカッションの変な効果音が聞こえてきて楽しいです(スティ―ヴ・ベリーがやっとるのか?)。そして、ギターの味わい深く、オーソドックスなジャズっぽいソロがしみじみさせたあと、テーマに戻る。どこが「ショーター組曲」なのかよくわからないが、いい曲であることはたしかだ。5曲目は「キングコング対ゴジラ」をちょっとだけ連想させるようなギザギザしたリフをベースにした曲で、めちゃくちゃかっこいい。まあ、ドーキンスというひとは変な着想の曲ばかり書くけど、それをものすごくかっこよく仕上げてしまうという天才的なところがあって凄いとしか言いようがない。アルトソロは武骨で好き放題である意味鼻歌のように自由で過激だ。トロンボーンソロは、リラックスとか流暢とかそういうものとはほど遠い、ぎくしゃくとした、もがき苦しむようなソロ。2管のバッキングがいい味を出している。トランペットソロはあいかわらず饒舌に吹きまくるタイプのもので、めちゃかっこいいです。この曲に限らず、ドーキンスの編曲は、ソロイストが変わると、リズムやバッキングも変えて、それぞれに別の場面を作り出し、リスナーを飽きさせない工夫をしている。ドラムソロを経てテーマ。6曲目は日本語にすると「亀島踊り」で、カラフルな各種パーカッション、笛、小物類などの競演。素朴で楽しく自由な演奏だが、じつは周到なアレンジが施されている。アート・アンサンブルにもこういう側面があるが、ほんのちょっとしたペンタトニックのリフさえあれば、このひとたちは自分の主奏楽器を使わずこういうおもちゃだけでも永遠に演奏し続けていられるのだ。ラストの7曲目は力強い曲でなんとなくコルトレーンの曲を思わせるようなナンバー。ドーキンスはテナーでゴリゴリ吹きまくるが、いくら吹きまくってもこのひとは自由な、自然発生的な演奏に聞こえて、そこが好きなのだ。トロンボーンも同じようなコンセプトのソロで、途中「なにがやりたいんだ、このひとは」と思ってしまうような瞬間もあり、そこがまたいいんですね。なんだかよくわからない部分がたくさんあるのが、ドーキンスの、そしてAACMの特徴だ(と勝手なことを書いてしまおう)。3番手はアミーンのトランペットで、このひとは本当にワンパタ……いや、個性のはっきりしたソロをするなあ。めっちゃ好きです。そのあとイスラエルのすごくかっこいい、圧倒的迫力とテクニックを見せつけるようなすごいベースソロ。そして、テーマ。最初のテーマではドーキンスの指が回ってなかったりして、けっこうどさくさだったりしたが(それもいい味なんだよねー)、後テーマは完璧でした。いやー、すばらしい。というわけで本作は、ほかのアルバムにも増して、「曲とアレンジ」が光るすばらしいアルバムとなっている。しょうもない曲や演奏ゼロ。どこを切ってもドーキンスの意欲と情熱を感じられる傑作です!
「AFRO STRAIGHT」(DELMARK RECORDS DE5001)
ERNEST DAWKINS
ニュー・ホライズン・アンサンブルやエスニック・ヘリティッジ・アンサンブルなどで気を吐きまくるシカゴの重鎮アーネスト・ドーキンスが満をじしてスタートさせた新プロジェクト。これまでは自分やメンバーのオリジナルを中心に演奏してきた彼が、ここでほぼ全曲スタンダードや有名なジャズナンバーを取り上げることにした理由が長文のライナーに書かれている(フリージャズのミュージシャンがスタンダードを演奏しないと思われている理由や、AACMの考え方などについても触れられていて興味深い)。全曲と書いたが、実際は2曲だけドーキンスによるタイトルナンバー「アフロ・ストレイト」と「オールド・マン・ブルース」というのが入っているが、前者はパーカッションだけの短い演奏で、後者はシカゴの伝統に基づいたひねりのない直球ブルースであって、これらもスタンダード的に考えてもいいだろう。本作は、コルトレーン、ショーター、ヴォン・フリーマン、チャーリー・パーカー、コールマン・ホーキンス、スタンリー・タレンタイン、ヘンリー・スレッギル、フレッド・アンダーソン、キャノンボール・アダリー、ケニー・ギャレット、ロスコー・ミッチェル、そしてモダンミュージックのすべての偉大なサックス奏者に捧ぐ、というのがコンセプトのひとつであり(ケニー・ギャレットだけ「え?」と一瞬思うよね)、もうひとつのコンセプトは、ライナーによると「アフリカン、アフロラテン、アフリカンアメリカン・パーカッションをフィーチュアしたストレートアヘッドなジャズのプログラム」ということだそうだ。基本的にはドーキンスとコーリー・ウェルケスの2管にピアノ入りの3リズムという非常にオーソドックスなクインテットをベースにしているのだが、曲によってそれに3人のパーカッション奏者が加わる(全員、基本的にはコンガ奏者)。そして、バラードの「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」だけにハモンドB3が入る。全10曲だが、どれもすばらしい演奏である。少々荒っぽかったり、雑だったり部分があったとしても、ありあまる気迫と熱情がそれを掻き消してしまう。この集中力と燃え上がるようなパッション、そしてシカゴのブラックミュージック独特の(いい意味での)ゆるさ、それにグルーヴ……こうしてジャズの有名曲ばかりを取り上げても、それらはゆるがない。本当に「一丸となって」という言葉がぴったりの演奏だ。何歳になっても、ただただひたむきだ。若手もドーキンスもなんの差もない。シンプルだが効果的なアレンジも迫力満点で、本作はジャズ喫茶はなやかなりしころなら大勢のひとが愛聴しただろう美味しさに満ちている。共演者は、おなじみのウェルケス(力強いプレイはこのバンドの華だ)はもちろんのこと、全員いい。ピアノも随所でカラフルなソロをしているし、ときどきフィーチュアされるベースのジュニアス・パウルというひとがめちゃ上手いし、ドラムもいい。3人のコンガに関しては私の耳ではその差は聞き取れないが全部かっこいい。とくに心に響いた演奏を挙げると、2曲目「ユナイテッド」(そう、あの「ユナイテッド」ですよ! この選曲にはびっくり)でのドーキンスのショーターとは対極にあるダーティートーンでの迫真のブロウやウェルケスのモダンでまっしぐらなソロとそこにからみつくパーカッション……かっこいい! ベースソロも濃くてすばらしい。4曲目「セントラル・パーク・ノース」でのドーキンスのアルトの、絞り出すようなトーンでの個性あふれるソロとそれを煽るリズムセクション。ころころと転がるようなピアノソロも格別です。6曲目「ソフトリー……」は重厚なアフロ〜モードジャズ的なイントロでガツン! とはじまるオープニングがいかにも70年台っぽくて最高。ピアノソロのドラムとのからみもめちゃくちゃかっちょいい。7曲目「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」でのいかにもシカゴ的な武骨なテナーとハモンドの共演はアモンズとオルガンを連想して深い夜の雰囲気。ソロらしいソロはないのだが、それがまたいい。ラストの「ジュジュ」もドーキンスのアルトはここぞとばかりに粘っこく吠えまくり、スクリームする。フリーキーな演奏という点では本作のなかで最高であろう。ひたすら絶叫し、ドラムが煽り、クライマックスを作り出したあと、ピアノ、ベース、ドラムがすばらしいソロを繰り広げて、アルバムのエンディングを飾る。あーよかった! こういうの好きやわー。傑作! なんとなく中身にそぐわない、ひょうきんすぎるジャケットのお茶目なドーキンスも好き。
「SOUTH SIDE STREET SONGS」(SILKHEART RECORDS SHCD132)
ERNEST DAWKINS NEW HORIZONS ENSEMBLE
デルマーク以外にこのグループのアルバムは、ほかのレーベルに何枚か録音されていて、シルクハートにも3枚ある。そのうちの1枚である。最初に書いておくが傑作である。93年の録音で、トランペットはアミーン・ムハマッドが在籍しており、凄まじい演奏を繰り広げている(2003年死去)。アーネスト・ドウキンスやアリ・ブラウンといったシカゴのアルト〜テナーの両方を吹くひとに共通して感じるのは、
・めちゃくちゃ上手いのに、ソロは気合い優先で、フリーキーな表現も多用。
・作曲家、アレンジャーとしての能力が異常に高い。ファンキーでノリがよく、聞きやすい曲が多いが、じつはめちゃくちゃ凝りに凝ったアレンジ。
・根幹はAACMならではのグレイト・ブラック・ミュージックにある。
・熱く、コテコテで、ぐいぐい来るような表現が多いが、不思議と「サラッと」感もある。
てな感じの印象である。まあ、そんなことはどうでもいいので、とにかく内容について書こう。1曲目は14分ある長尺の演奏で、さまざまな展開があって、一種の組曲のようである。アルコベースの低音と管楽器、ピアノによるオスティナートが響くなか、トロンボーンが吹きまくる……という冒頭から、全員によるけっこうラフでゆるやかなアンサンブルがはじまる。いかにもスピリチュアルジャズという感じで、アンサンブルのリフは次第に変化していき、しかもだんだんテンポアップしていく。リズムがラテンっぽくなり、テンポが固まったあたりでマイナーなリフがはじまって、ギターソロになる。単音での訥々とした力強いソロで、めちゃくちゃいい。ふたたび別のリフがはじまり(なんぼほどあるねん!)、テンポもまたやや速くなる。そして、ドウキンスのアルトソロ。そして、また別のアンサンブル。一旦リズムが消えて、あらたなテーマが……(なんぼほどあるねん。たぶんミュージシャンは必死で譜面見ながら構成追ってると思う)。アミーン・ムハマッドのトランペットソロになるがこれが最高です。突き刺さるような音や捻じ曲げられたような音がすごいパワーで襲い掛かってくるようなソロ。そして、リフになり、ギターだけが残って余韻を残したエンディング。いやー、この1曲のためにどれだけ譜面を書き込んでいるのか。すごい大作を聞いた気分。2曲目はニューオリンズ的オープニングではじまるファンキージャズというか、ハードバップ臭のぷんぷんするマイナー曲だが、これも一筋縄ではいかない。テーマのあと、すぐにテンポか転がるように速くなり、ぐちゃぐちゃのフリーリズムになり、そこから一転、もとのリズムに戻り、トランペットのグロウルする、ニューオリンズジャズ的なワイルドな表現になる。続いてドウキンスのテナーソロ。この曲は、アルトではなくテナーを選択したという意味がよくわかる。ドスのきいたブロウ。トロンボーンもプランジャーを使ったガットバケットなソロ。ギターの気合いの入ったソロのあと突然ぐちゃぐちゃのフリーになりエンディング。かっこええ。3曲目は例によってかなり変態的な、短い2小節のリズミカルなリフを発展させたような曲。ドウキンスのアルトがひたむきで熱い。ギターが刺激的なバッキングをかまし、スティーヴ・ベリーのトロンボーンもドウキンスの熱を受け継いだようなソロを展開。ジェフ・パーカーはわが道を行く感じだが、自信にあふれている。4曲目は、吹き伸ばし主体のゆったりとした表現。バラードというか、なんというか。ハーモニーも含めて、こういうのもドウキンスならでは。全員ひたすら譜面に徹して、最後にちらりとドウキンスがソロというほどでもない長さのソロをして終了。かっこいい。5曲目はドラムが活躍する、リズムが面白いテーマのあと全員でフリーインプロヴィゼイション→テーマ。ソロは、ドウキンスがアルトで思い切りのいいフリーキーなブロウをぶちかます。つづくトランペットもトロンボーンも激しい演奏。ジェフ・パーカーの過激なギターソロとそれにからみつく管楽器のノイズがものすごく盛り上がる。6曲目は打って変わって軽快で楽しいリズムの曲だが、それでも曲としてはかなり変テコだ。ドウキンスのアルトが無骨で熱いソロをすれば、ジェフ・パーカーも単音で変態かつノリノリなラインを弾き、アミーンが頭のねじがぶっ飛んだような高音を吹きまくり、トロンボーンがものすごくストレートアヘッドなソロをする。いやー、めちゃくちゃええ曲や。7曲目は、作曲からして頭がおかしいとしか思えないすごい曲。そのあとあるとの無伴奏ソロになり、ドウキンスの個性全開。リズムが入ったあとはアミーンが縦横無尽にトランペットを鳴らしまくる。感動! ドウキンスのアルトソロはまたまた丁寧で、しつこく、暑苦しく、ひたむきで、本作中の白眉かもしれない。次第に熱くなっていき、最後はフリーキーになっていく。シカゴやなあ。ギターソロもかっこいい。本作はじめてのベースソロ(ヨセフ・ベン・イスラエル)もほかのメンバーと同じく、ブラックミュージックとしてのジャズから発したガッツのある自由な表現。それにしても変な曲。ラストの8曲目は2曲目の別テイク。まったく遜色ない演奏で、これを収録したくなった気持ちはよくわかる。というわけで、最初に書いたように傑作であります。なんべん聞いてもええわー。全体にドラムとベースが躍動していてすばらしい。皆さん、聴きましょう! ジャケットに写ってるドウキンスがどこかの板前みたいないなせな感じでかっこいいので、ジャケットもよく味わいましょう。なお、ライナーによると、ドウキンスの使用楽器は、テナーはバランスアクションで、マウピはラーセンのメタル、リードはヴァンダレンジャヴァの3半。アルトはカイルベルスのブラックラッカーで、マウピはビーチラーのラヴァー、リードはヴァンダレンジャヴァの3半だそうです。
「THE PRAIRIE PROPHET」(DELMARK RECORDS DE598)
ERNEST DAWKINS NEW HORIZONS ENSEMBLE
正規盤としては現時点ではこのグループの最新作のはずだが(本当は2016年にマルコムというレーベルから出たヴィジェイ・アイヤーをゲストに入れたアルバムがあるらしいが、入手はかなりむずかしそうである)、2010年録音だからもう9年もまえである。しかし、新人を迎えた彼らの演奏はみずみずしく、しかも「いつもの」ニュー・ホライゾンズ・アンサンブルの音である。古参で残っているのはリーダーはもちろんだが、スティーヴ・ベリーとギターのジェフ・パーカーである。トランペットは今回はふたり。マルキス・ヒルとショーン・ジョンソンが参加している。一曲目は「ヒップな王様への賛美歌」という曲で、めちゃくちゃきれいで楽しい3拍子の曲。これはちょっとかなりの名曲ではないでしょうか。マルキスの先発ソロ(フリューゲル)はまるで「アップ・ジャンプド・スプリング」のフレディ・ハバードのソロのように可憐で歌心あふれるものでいきなりすっかり参ってしまう。つづくドウキンスのアルトソロは絶叫しまくっているのに美しいという異常なバランスの演奏。ここまでくるとだれにも真似はできません。続くジョンソンのトランペットソロもめちゃくちゃ美しく、バップで、かっこいい。いやー、ふたりともすごいね。ラストのカデンツァで急にジャズっぽくなる。2曲目はドウキンスの好きなモンク的というかドルフィー的なコンポジション。めちゃかっこええ。ドウキンスのアルトが激情的にシャウトしたあと、ジョンソンのあらゆる音域でスケールを上下しまくるようなソロ。いやー、すごいっすね。ベリーのトロンボーンソロとリフの交感(?)を挟んで、マルキスのトランペットソロ。めちゃくちゃうまい。しかし、そのあとのジェフ・パーカーのわけのわからんソロがすべてをさらい、バラライカのような(?)強烈なベースソロがフィーチュアされるのだが、そこでなんだかわからん悲鳴のような絶叫をしているのはだれ? ピアニカを吹き、ギターとの泥沼のようなデュオに陥ってるのはだれ? とにかくこのあたりは爆笑であります。その混沌としたところからいきなりテーマがはじまり、ビシッとエンディング。3曲目はぐちゃっとした即興アンサンブルによる短い演奏。4曲目はベースが打ち出すリズムを全員が引き継ぐ形のハードバップ。タイトルの「マルレスター」というのはマル・ウォルドロンとレスター・ボウイかと思ったら(マル特有の同じ音をモールス信号のように打ち出す感じがテーマにあったので……)、ライナーを見ると、マラカイ・フェイヴァースとレスター・ボウイだそうです(そらそやね)。ショウン・ジョンソンのトランペットは、普通に上手くて聞き惚れる感じ。だが、つづくドウキンスのアルトは普通には上手くなく、とにかくねちっこく、熱く、ひたむきで、しかも不器用な雰囲気のソロである。「不器用ですから……」と言ってるような気がするが、そういうのがジャズではないか、という気もするのだ。ジェフ・パーカーのソロもシンプルで、イスラエルのベースソロも、「こういうのがジャズだよなあ」という感じである。まさにマラカイ・フェイバースが体現していたことが受け継がれているのだ。5曲目はタイトルチューン(ちょっとちがうけど)で「大草原の預言者の陰」という意味か? すごく細かいパルスのようなビートに乗せた極めて変態的で印象的なリフの曲。先発ソロのドウキンスはテナーでひたすらものすごい勢いでぎくしゃくしたフレーズを吹きまくる。ベリーも同様で、ビートと関係ないような関係あるような溶岩が押し寄せるような音塊を吹き続ける。つづくイスラエルのベースもごつごつした激しいものだが、途中から新しいリズムを弾きはじめ、それに別のテーマが乗る。ギターソロになり、なんだかラテンっぽいノリ(変わったリズムです)でまったくちがう世界に突入する。こういうアレンジはドウキンスの好むところであるが、タイトルのことを考えると、なにか意味があるのか……とか思ってしまう。そのあと再度ドウキンスのソロ(今回はアルト?)があって、そのままパーカッションとともに静かに終わっていく。6曲目は「メソポタミア」というタイトルどおりエキゾチックな3拍子の曲で、めちゃくちゃかっこいい。ベリーのトロンボーンもパーカーのギターもドウキンスのアルトも、その雰囲気を守りつつソロを展開していく。ラストの7曲目はハードバップ的でハードな曲調なのだが、メンバーが「バグダッド・ブギー」と声をそろえるリフが、なんとなくジャイヴ感覚を覚える。マルキス・ヒルのトランペットは軽快で、流暢で、めちゃ上手いが、このバンドのトランペットのレギュラーだったアミーン・ムハマッドがレスター・ボウイと並ぶような激烈な個性の持ち主だったことを考えると、もうちょいがんばってほしい気もする。ベリーもパーカーも流暢さはないが、ベテラン陣も常におのれを出そうとしている。ドウキンスのソロはなぜかマイルスの「ジャン・ピエール」や「ダウン・バイ・ザ・リバー・サイド」のテーマっぽいフレーズでソロを終わるが、そのあとのボーカルパートでもなぜか「ダウン・バイ・ザ……」っぽい曲を歌う。「ダウン・バイ・ザ……」はヨルダン川を渡って約束の場所に入り、もう戦争はいらない、という意味がこめられた旧約を題材にしたゴスペルなので、そこにバグダッドをからめて歌っているのかもしれないが、そのあと出てくる「スワニーリヴァー」がどうたらというところはさっぱりわからん。というわけで、(おそらく)今もこのグループが新しい地平を目指してバリバリやってることがわかっただけでもありがたいことだが、中身的にも傑作なのでよけいにすばらしい。アーネスト・ドウキンスのソロ、作曲、アレンジ、リーダーシップ……はジャズ界の宝であります。傑作。
「CHICAGO NOW−THIRTY YEARS OF GREAT BLACK MUSIC/VOL.2」(SILKHEART SHCD141)
ERNEST DAWKINS NEW HORIZONS ENSEMBLE
実はVOL.1は持っていないのである。AACM30周年を記念して出されたアルバムである。もちろん管楽器のメンバーは不動。前作から変わったのはドラムのみである(ドラムはなぜかちょいちょい変わる)。6曲目(アミーン・ムハマッドの曲)以外はすべてドウキンスのオリジナルである。1曲目は「モンクス・テンプテイション」というタイトルだが、ドウキンスってモンク好きやなあ(ほかにもモンクの名を冠した曲がある)。かなりの影響を受けているのだろう。この曲は例によって何重構造にもなったドウキンス流のアレンジがほどこされている。スティーヴ・ベリーの無骨で力強いソロのあと、ドウキンスのアルト。こういうソロってどうやればできるんだろう。熱く、ねちっこく、丁寧に吹けばいいのか。いつもあこがれる。ジェフ・パーカーのソロに続くアミーンのトランペットソロはベルから火が出るほどの灼熱の演奏。2曲目も同じくいろいろ仕掛けのある曲。アップテンポで先発ソロはドウキンスのアルト。ベリーのトロンボーンのあとのモーダルなギターソロがかっこいい。最後にアンサンブルがあってそのまま終わりかと思っていたら最後の最後にアミーンのトランペットソロがあった。おもろい構成です。3曲目はドスのきいた16ビートの曲でアミーンの先発ソロがかっこいい。ドウキンスのアルトソロはアチチチ……と火傷しそうになるような、黒々とした情念をぶちまけるような超かっこいいソロ。スティーヴ・ベリーの流暢なソロもすばらしい。しゃべっているようなギターソロもかっちょいい。4曲目はバラード的なアンサンブルとスウィングビートが交錯する。アルトはバップ的なフレーズをぎくしゃくとつづっていく。このへしゃげたようなバップ感がドウキンスであり、シカゴだと思う。そのあとベリーとアミーンを主体としたフリーインプロヴィゼイションになり、ジェフ・パーカーのよく歌うギターソロになる。ベースソロはいかにもこのバンドにふさわしい……という感じの「重厚なのにグルーヴする」というやつだ。5曲目は「インプロヴィゼイション♯3」というタイトルがついているが、ベースがゆったりしたパターンを打ち出し、ドウキンスが(クレジットにはないがおそらく)ソプラノサックスを吹く。アミーン(と思われる)がなにやらしゃべっていて、ラップのようでもあり、ぼやいてるようでもある。しかし、どちらもオンマイクではないので、全体として「ひとつの雰囲気」が作り出されているような演奏である。コンポジションだと言われても納得するだろう、そんなしっかりした枠組みがある。そのあと一旦シ静かになって、終わるのか……と思ったところからかなり長い集団即興になる。6曲目はアミーンの曲でアミーン没後のアルバム「ザ・メッセンジャー」でも取り上げている曲。メンバーが雑談したり、ゲラゲラ笑いあったりしているうちに突然ファンキーなテーマがはじまる。だれのソロというのはなく、全員がそれぞれ吹きまくる。ニューオリンズジャズみたいなものか。ラストの7曲目はおそらくマラカイ・ファイヴースに捧げられた美しくも悲哀に満ちたバラード。スティーヴ・ベリーのトロンボーンソロのバックのイスラエルのベースの表現力! 一旦リズムが消えたあと、トロンボーンとトランペットだけのけっこう長いデュオになり、そこからパーカーのギターソロになるが、これも訥々と歌いまくり泣きまくるソロですばらしい。なんか子守唄を聞いているような気分になる。すごいギターやなあ。自由で前衛でしかも泣き節なんだから最強である。そこにたぶんドウキンスのおもちゃの笛みたいなのがからんできて、テーマに戻る。というわけで、1をなんとか入手したいな(適正価格で)……とどうしても思ってしまう演奏でした。
「CAPE TOWN SHUFFLE」(DELMARK RECORDS DG−545)
ERNEST DAWKINS NEW HORIZONS ENSEMBLE
2002年録音のアルバム。この頃、管の三人は不動のメンバー。1曲目は「ザ・メッセンジャー」にも入っていためちゃかっこいい曲。延々と続くドウキンスの凄まじいテナーのブロウに度肝を抜かれる。そのあとのスティーヴ・ベリーのトロンボーンソロもすばらしいのだが、最後のアミーン・ムハマッドのこれも嵐のように吹き荒れるソロも圧倒的である。ダリウス・サヴェジの野太いベースソロもいい味わいである。というわけで、1曲目からノックアウトされる。2曲目は跳ねまくるスネアがリードするリズムがそちゃくちゃかっこいい「サード・ライン・アンド・ザ・ケープ・タウン・シャッフル」という意味深なタイトルの曲。ドウキンスのアルトはリズムを押し出しながら歌いまくる、というソロで、こういう感じのをやらせるとほんますごい。スティーヴ・ベリーのこれもリズムを強調したソロのバックでのドラムもめちゃかっこいい。パーカッシヴなトロンボーンとドラムを聴いていると、まるで2つのパーカッションがからみあっているみたいだ。後半は気合いと根性で吹きまくってる感じ。テーマのあと、リズムがフリーになり、いきなり太い声でシャウトしはじめるのはアミーン・ムハマッドらしい。サザン・バプティスト・スタイルのプリーチングだ、とライナーには書いてあるが、「ホーリー・ゴースト」とか「フリーダム」とか、とにかく熱い。そして、突然、軽快な4ビートになり、アミーン・ムハマッドのひたすらトリッキーな表現のみで押しまくるトランペットソロになるが、これはものすごい表現力だと思った。かっこいいんです。リフのあと長いドラムソロになり、ベースがパターンを弾き出して、最初のテーマに戻る。ドウキンスの曲はどれも構成が凝っていて楽しい。3曲目は「ドルフィー・アンド・モンク・ダンス」という曲で、ドウキンスは文句に捧げる曲をほかにも書いていてよほど影響があるのだろう。テーマはなるほど、こういうタイトルをつけるのもわかる、という感じのドルフィー〜モンク的な匂いのする曲。スティーヴ・ベリーのトロンボーンが大きなノリで吹いているバックのリフなども、そういう匂いがぷんぷんする。ドウキンスのアルトソロは、ていねいで熱く、独特の外し方をしたフレージングを重ねていく。しかも、ノリもいい。こういうサックスが吹きたいなあ。簡単そうに聴こえるかもしれないが、いやいや、こんなことはなかなかできません。次第にボルテージが上がっていくので、気持ちが入り込んでしまう。そして、ソロはトランペットに受け継がれるが、これも同じようなていねいで熱く、独特……と同じ形容をしてしまう演奏。まるで人間がしゃべったり、笑ったり、怒ったりしているようなソロで、レスター・ボウイと一脈通じるものを感じる。ベースとドラムのバッキングの見事さにも聞き惚れる。そのあとの4バースも、なんの変哲もない普通の4バースなのに、めちゃくちゃかっこいい。そのあとドラムソロがあり、エンディング。すばらしい。そして最後の曲は「ジャズ・トゥ・ヒップ・ホップ」で、フィーチュアされているラッパーはムワタ・ボウデンの息子のカリ・Bという若いひと。かっこええ。めちゃくちゃかっこええ。アミーン・ムハマッド〜スティーヴ・ベリー〜ドウキンスと続くソロも聞き応え十分。そして、ベースソロもすごいっす。そして、またラップに戻るのだが、その切迫感やグルーヴはドウキンスの音楽と融合してなんの違和感もない。全体に、火傷しそうなぐらい熱い演奏ばかりのアルバムでした。傑作。