「PELIKANSMUS」(ICP039)
TOBIAS DELIUS 4TET
このトビアス・デリウス(と読むのかなあ……)というテナー〜クラリネット奏者のことはまったく知らなかったが、原田依幸のインターナショナル・カイブツ・クインテットで来日し、そのときの物販で購入したのだ。実際の演奏を聴くまえに買ったので、なんの期待も先入観もない状態だったが、今にして思えば、よくあのとき買ったよなあ、よかったよかったという気持ちである。生でみたかぎりでは、彼の演奏は、ときとしてブロッツマン的であり、ときとしてシェップっぽく、ときとして……という風に常に誰々的であり、なんでもできるし、演奏も安定しているが、いまひとつ狂気というか、踏み込むところがないなあ……という印象だった。あのときはリーダーの原田とヘンリー・グライムズ、ルイス・モホロなどのプレイに圧倒されて、あまりこのひとをちゃんと聴いていなかったのかもしれない。また、彼自身もほかの、かなり年配の大物に気をつかって、やや手さぐりだったのかもしれない。だから、すごく地味で、ひっこんだ風に感じたのである。もし、演奏を聴いてから物販のところに行ってたら、このアルバムは買わなかったかもしれないのである。聴いてみて、あのときよりもはるかによい演奏で驚いた。たしかにいろんなことができるひとで、普通のジャズやビート物も非常にうまくこなすことができるし、フレーズも多彩で、音もたくましくフルトーンで鳴りまくっていて、また、フリーキーにブロウするときはとことんいきまっせ的な狂気パワーも存分に見せつけてくれるし、バラードっぽい表現では完璧なサブトーンも駆使する。そして、それをバックのハン・ベニンクやトリスタン・ホンジンガーといった強力メンバーがプッシュしまくるのである(特筆すべきはベニンクであって、いつもながら自由自在である)。曲も、なかにはチューンではじまって、途中でわけがわからなくなるようなものもあり、そのあたりのデタラメさも、あのときのライヴからは感じられなかったものだ。たしかに全体に堅実だが、それはたぶんそういう性格なんでしょう。ジャケットには、パステル画のようなかわいらしいペンギンの絵が4枚、裏ジャケットには愛犬とおぼしき写真が載っているが、そういうことにだまされてはいけません。なかなか手応えのあるアルバムでした。