「PAUL DESMOND & THE MODERN JAZZ QUARTET」(SONNY MUSIC PRODUCTIONS/RED BARRON JK 57337)
PAUL DESMOND & THE MODERN JAZZ QUARTET RECORDED LIVE ON DECEMBER 25,1971 AT TOWN HALL/NYC
クリスマスの日にニューヨークのタウンホールで録音されたライヴ。MJQのコンサートがあり、そこにジョン・ルイスの旧知でニューヨークに住んでいたデスモンドがスペシャルゲストとして客演した、ということらしい。デスモンドはコニー・ケイともたびたび共演している。ポール・デスモンドのファンだというひとは多いが、私は正直よくわからない。パーカーともホッジスともクラシックのサックス奏者とも違った道を切り開いたひとだと思うし、音色もじつに稀有な美しいものだと思うし、アーティキュレイションとか完璧だと思うし、歌心ありまくるし……ええとこづくめなのだが、あざとさが一切ないので、聴いている途中でこちらの集中力がフッと途切れることがある。大勢のサックス奏者がデスモンド好きを標榜しているし、そのこともよくわかる。でも、まあめったに聴くことはない。たまーに聴くと、「あ、ええなあ」と思うぐらいである。しかし、本作は違っていて、なぜか昔からめちゃくちゃ好きなのだ。「グリーンスリーブス」にはじまる選曲の妙(なんと「ジーザス・クライスト・スーパー・スター」もやっている)もあるかもしれない。ミルト・ジャクソン、ジョン・ルイス、パーシー・ヒース、コニー・ケイ……という名手たちのすばらしいバッキングのせいもあるかもしれない。しかし、やっぱり主役であるデスモンドのサックスにひかれる。どの曲も、テーマもソロもさらりとしていて、さほど盛り上げることもなくスーッとやめるのだが、あとに嫋々とした余韻が残る。ソロイストとしてはミルト・ジャクソンの狙いのはっきりしたソロに耳がいくが、全体としてはデスモンドの音楽になっている……なってしまっているのだ。これはすごいことではないでしょうか。本当に「MJQを従えて」というか「MJQを脇に回して」という感じなのだ。「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」「ブルー・ダヴ」「ヒアズ・ザット・レイニー・デイ」「イースト・オブ・ザ・サン」……といったスタンダードもじつに洒落ているし、ラストに入っている「バグス・グルーヴ」も1曲だけブルースを軽く……という扱いである(でも、デスモンドはいちばんブロウしているかもしれない)。いちばん話題だっただろう「ジーザス・クライスト……」は小粋で洒脱なポピュラーソングみたいな感じのアレンジになっていて、たぶん聴くひとは拍子抜けするだろうが、それがまたいいのです。でも、告白すると、正直、聴いていてやはりフッと集中が途切れるときがたまにあるのだが、それもあまり「すんません……」という気持ちにならずにすむのがデスモンドのいいところだったりして(失礼か)。かつては「ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・カルテット」や「ザ・モダン・ジャズ・カルテット・アット・ミュージック・イン」などがあったことを考えると、案外MJQというのは伴奏の名手でもあったのかもですね。