walter dickerson

「WALT DICKERSON 1976」(OCTAVE−LAB/ULTRA−VIBE OTLCD2635)
WALT DICKERSON

 ウォルト・ディッカーソンが「メタリック・コルトレーン」と呼ばれていたことははじめて知ったが、なるほど、という呼称である。本作はホワイノットにおける2作目で76年録音だが当時は契約上の問題から発売されず、2000年(つまり24年後)になってはじめて発売された、といういわくつきの作品らしい。私は今回、はじめて聴きました。でも、内容はすばらしく、とくにウィルバー・ウェア(!)とジャマラディーン・タクーマの2ベースという異常事態が最高の音楽的成果を生んでいる。1曲目はディッカーソンのヴィブラホンとジャマラディーン・タクーマのエレベがひたすらからみあい、からみあい、からみあう演奏だ。これに心を動かされないひとはいないのではないか。エリントンとジミー・ブラントン、ビル・エヴァンスとスコット・ラファロのようにディッカーソンとタクーマがインタープレイを繰り広げるのだが、その後ろにはウィルバー・ウェアのベースがどーんと控えている。タクーマの無伴奏のソロのパートも、プライム・タイムなどを連想させる凄まじさである。ドラムソロだけがバップマナーなのもなんだかおかしい。タクーマの参加曲はこの1曲だけ(と思う)。2曲目はディッカーソンの無伴奏ソロでリバーブをかなりきかせた幻想的な演奏。全編ルバートだが、そのなかでディッカーソンのリズム感が浮かび上がる。3曲目はおそらく本作でもっともアグレッシヴな演奏。超アップテンポで、ドラムはブラッシュのみ。ディッカーソンが口でフレーズ(というかリズム)を口ずさみながら即興に没入していく様子が生々しい。ベースはウィルバー・ウェアのみ(だと思う)。この三者のバランスというのも、リーダーであるディッカーソンの美意識の現れだろう。4曲目はスタンダードで「イエスタデイズ」。ブラッシュとウィルバー・ウェアのベースをバックにした硬質なヴィブラホンが、短い小節に大量の音を詰め込んでいく。もちろんすごいリズム感なしにはできない演奏である。なんというか、ブツッ、ブツッと切れたり、切るべきなのにわざと続けたりするようなこの感じや鍵盤を鬼のようににらみつけながら叩いているような集中力、そしてこの異様で執拗な埋没感(?)はコルトレーンの模倣とはまったく違うもののような気がする。このスタンダードの演奏こそがディッカーソンの凄さを表しているのかも。そして、演奏中ずっと聴こえているディッカーソンの声がモーンのように思えて、このスピード感あふれる演奏を重苦しくしている。ラストもスタンダードだが、こういうフツーの題材、フツーの編成、フツーの演奏のなかにディッカーソンの異常性が浮かび上がっているような気がする。ぎゅーっぎゅっーぎゅっーと凝縮されたフレージング、これは早弾きだの馬鹿テクだのといったものとは違う。いやー、これはすばらしい。傑作!