「BO DIDDLEY」(CHESS RECORDS UICY75945)
BO DIDDLEY
私は、チェスのシカゴブルースだとマディやジミー・ロジャーズ、ハウリン・ウルフ、サニー・ボーイ……ぐらいまでで、ボ・ディドリーやチャック・ベリーなどの良い聴き手とはいえないが、本作は大好きで、昔、P−VINEからチェスが出たころ、このボ・ディドリーのことを「いかした男は2ビート。どんなにリズムが細かくなっても2ビート」という表現がしてあって、しかもジャケットには、脚を八の字に大きく広げた変なおっさんが立っていて、バックはドラムとマラカスだけという、正気ですか、と言いたくなるような編成で、これは聴かねばと思って買ったのが出会いである。たとえば本作の冒頭の曲(なんと「ボ・ディドリー」というタイトルなのだ。ブルースファンには当たり前だろうが、フツーのひとにはけっこう衝撃では? なにしろ、デビュー曲が自分の名前って……松田聖子のデビュー曲が「松田聖子」というのと同じでしょう)は、まさにこの編成で、ドラムとマラカスと自身のギターとボーカルという超シンプルな3人なのだが、どう聴いても、音楽としてはまーったく問題なく、しかも前衛とかじゃなくて、超ポップでかっこいい演奏になっているところが驚異だ。普通、ドラムとマラカスとギターの3人でポップヒットを狙おうと思うかね? すごいよなー。ベースがいてキーボードがいて……というベーシックな編成でなきゃちゃんとした音楽はできない……というのが、いかに常識というか先入観に毒された考えかがわかる。とにかく有名な「ボ・ディドリー・ビート」というのが根底にあって、そのラティーナなノリの心地よさがブルースと出会ったときのものすごい融合にはしびれるしかない。この「ボ・ディドリー・ビート」は、後年はもちろん彼のトレードマークになって、そこからR&Bのほうに行くわけだが、初リーダーの一曲目からドラム〜マラカス〜ギターだったというのは、ドラムとギターでいいんだけど、ジャーマネにも賑やかしでマラカス持たしてみた……みたいなのとはちがって、ちゃんとはじめから音楽的に計算し尽くしての事だったわけで、やっぱりボ・ディドリーはすごいのだ。聴いてると病み付きになりますよ。あなたもぜひこのビートを体験してください。