「LIVE:MARDI GRAS IN MONTREUX」(ROUNDER RECORDS2052)
THE DIRTY DOZEN BRASS BAND
もちろんそれまでもニューオリンズファンのあいだでは有名だったのだろうが、本作で全国区的にブレイクした感じのあるダーティー・ダズン。いやー、一時はよくはやりましたよねえ。ニューオリンズにはほかにもリバース・ブラスバンドをはじめたくさん有名なブラスバンドがあるのだが、この作品をはじめて聴いたときはそんなことも知らず、ひたすらいやーすごいなあ、かっこええなあ……と呆然としていた。スーザホンによるベースラインがとにかくすごくて、口をあんぐりあけてしまうほど。モンクの曲や「ナイトトレイン」など、ジャズのナンバーも演奏していたので、そのあたりが入りやすかったのかもしれないが、4ビートよりも、ファンクナンバーでのベースラインの凄まじさにほとほと感心した。それまで、チューバとかスーザホンは、鈍重であまり役にたたん楽器だと思っていたが百八十度考えが変わり、めっちゃすごい、すばらしい楽器……と思うようになった。単純なもんですわ。それと、いわゆるニューオリンズビート(あの、跳ねるようなスネアのノリね)を体感したのもこの作品や、ほとんど同時期に聴いていたドクター・ジョンの「ガンボ」などがはじめてで、いまではすっかりおなじみだが、あのときは、どんな種類の曲でも、あのツッタカタンタン、ツラッタタンタン……というリズムで片づけてしまうことに驚いたものである。結局、このあと何枚か聴いたが、ダーティーダズンはこの作品がいちばん好きだ。日本でも、雨後の竹の子のように、こういったニューオリンズブラスを真似するバンドがでてきたが、そういう現象の火付け役となったのはこのアルバムではないでしょうか。
「VOODOO」(ROUNDER RECORDS 28C−7001)
THE DIRTY DOZEN BRASS BAND
ダーティーダズンは、これとライヴのやつ(上記)の2枚あったらそれでいいや、と思ってしまう。このあと、ダーティーダズンはエレベを入れ、フルのドラムセットを入れて、名前から「ブラスバンド」をとってしまう(行進できない状態だからか?)。そのあたりからほとんど感心がなくなっていたので、その後またブラスバンドになったということは知らなかった。というわけで、私にとっては、本作と「ライヴ・イン・マルディグラ」の二枚が後にも先にも最高であって、これまでに何十回も聴いたが、このさき何百回聴いても飽きないだろう。アドリブ主体の音楽ではなく、こういった、強烈なリズムとアコースティックな管楽器の咆哮を主体とした音楽は、聞き飽きるということがない。それは、たぶん、人間の原始の体験に根ざした快楽だからだろう。それにしても、この跳ねるリズムの快感はどうだろう。鳴りまくるブラス群も、無理してる感じはまったくないのに、「ここまで鳴るか!」と、正直ショックを受ける。しかも、このパワーの持続! どんな唇しとんねん。体力あるなあ。そういったところも含めて、ニューオリンズブラスは、なかなか真似のできないものでありますね。
「FUNERAL FOR A FRIEND」(ROPEADOPE MUSIC ENTERTAINMENT P−VINERECORDS
PVCP−8231)
THE DIRTY DOZEN BRASS BAND
急逝した、ダーティーダズン創設メンバーのひとりチューバ・ファッツに捧げた、文字通り追悼盤で、そもそもニューオリンズブラスバンドは葬式のときに活躍するという側面もあるのだが、本作は超メジャーになったダーティー・ダズンがひとつのブラスバンドに戻って旧友の霊をなぐさめるために演奏した、という雰囲気の作品。たしかにファンキーで、ソウルフルだが、同時に非常にレトロなニューオリンズジャズである。一曲目の「ジャスト・ア・クローサー・ウォーク・ウィズ・ティー」にはじまり、シンプルなニューオリンズビートに乗せて、サックスやブラスが「歌を歌う」ような演奏を繰り広げる。4曲目の「いつくしみ深き」は有名な賛美歌だが、バリトンサックスに導かれる主題とそのバックのコーラス(あの泣き男シュガー・ボーイ・クロフォードの息子が率いているらしい)などが厳粛な葬儀の空気をかもしだす。つづく「ジーザス・オン・ザ・メインライン」では一転して楽しいゴスペルの雰囲気で、コーラス隊も含めてまさに教会にいるような雰囲気のコレクティヴなセッションが展開する。アレンジはばっちりなのだが、それがいかにも自然発生的に聴こえるのがマジックで、テンポアップしてからはゴスペルのあの高揚感がびんびん伝わってくる。真っ向勝負のニューオリンズジャズ、ゴスペル、賛美歌などにくわえて、サン・ハウスでも有名な「ジョン・ザ・リヴェレイター」をインストでやったりと盛り沢山な内容。一時期のロックやファンクに傾倒した姿とはまったくちがう(しかし、根底に流れるものは同じ)ニューオリンズブラスバンドとしてのプリミティヴなかっこよさを見せてくれる。最近のダーティーダズンはなあ……というひとも本作は必聴では? 「ダウン・バイ・ザ・リバー・サイド」から「アメイジング・グレイス」(めっちゃ短い)と、ラストは2曲、超有名曲が続くが、手垢のついた曲をしっかりと、真正面から演奏して、しかも期待にたがわぬ出来ばえである。