「EVERYDAY I HAVE THE BLUES」(BLACK & BLUE/SOLID CDSOL−46005)
BILL DOGGETT
ドゲットといえば「ホンキー・トンク」で、それを核にしたシングル集みたいなのしか持ってなかった(レコードです)が、本作のようにがっつりドゲットの長尺の演奏を(リーダー作として)聴いたのははじめてかもしれない。めちゃくちゃ良かった。ドゲットもいいんだけど、テナーのビリー・マーティンというひとと、ギターのベニー・グッドウィンというひとがすごくいいんです。どちらもたぶんあんまり有名じゃないような気がする(私が知らないだけかもしれないが)が、ものすごくいい。テナーのひとは本当にこういうR&B的なブルースに適した音色・フレーズの持ち主でざらざらしたラーセン的な音で軽々とブロウを決める。盛り上げる。上手い。ギターのひともバッキングにソロに大活躍で、ボーカルも上手いのだ。そして、もちろんドゲットのオルガンはため息が出るほどかっこいい。この一年後の同じくフランスでのライヴがYOU
TUBEに上がっているが、ほぼ同じメンバーのようで、このアルバムがワーキングバンドでの吹き込みだったことがわかる。ライヴで鍛えられまくったワーキングバンドの強烈なジャンプとスウィングを聞け! と聴いていてつい熱狂してしまう。正直言って、ブラック・アンド・ブルーというレーベルは回顧趣味のレーベルであることはたぶん間違いなくて、当時、アメリカでは人気が凋落していたかつてのブルース的ジャズのスターたちをフランスで録音するという趣旨だったのだろうが、よくある「昔はよかったね」「昔は凄かったんだけどね」的な演奏ではなく、アメリカではリスナーが減ったから録音が途絶えているが、じつは「今」こそが絶頂期なんだよっ、というひとたちを絶妙のタイミングで録音してくれたというすばらしい、いくら感謝しても感謝しきれないレーベルなのである。アメリカ本国では、シングルの寄せ集めみたいなアルバムや録音の悪いアルバム、いまいち相性の悪いモダンジャズのミュージシャンと組まされたアルバムなどしか出ていなかったひとたちが、しっかりしたスタジオで、うまのあったミュージシャンと、長尺でたっぷり録音できたのだから、すごいことだと思う。もちろん、なかには「このひととこのひとを組ませるの? いやー、それはちょっとどうかと思うけど」的なミスマッチなものもあったかもしれないが、そんななかでもアーネット・コブとアル・グレイにゲイトマウスを組ませるとか、クリーンヘッド・ビンソンにTボーン・ウォーカーを組ませるなんてだれがなしえただろうか。ブラック・アンド・ブルーえらいっ。ブラック・アンド・ブルー最高! 私は学生時代からずっとそう叫び続けてきたのだ。本作もそういうなかでの大傑作といえると思う。オルガンジャズのファンだけでなく、ブロウテナーが好きなかたも必聴の内容でっせ。なぜかブッカーTの「グリーン・オニオン」もやってます。
「AM I BLUE」(BLACK & BLUE/SOLID CD SOL46038)
BILL DOGGETT
ビル・ドゲットといえば「ホンキートンク」のひとで、その曲をフィーチュアしたベスト盤的なものはいつでも入手できるほど人口に膾炙していると思うが(うちにもレコードは何枚かあります)、それらはジュークボックス用というか、コンパクトな演奏が多く、はたしてドゲットは普段のライヴではどんな鼻血もののパフォーマンスをしていたのか……というあたりの回答が本作と、同じくブラック・アンド・ブルーで出た「エヴリデイ・アイ・ハブ・ザ・ブルーズ」なのかもしれない。どちらもスタジオ録音だが、それなりに長尺の演奏で、ブルースだけでなくいろいろな曲を披露してくれている。そして、「エヴリデイ……」ではビリー・マーティンというテナーが大活躍していたが、本作ではあの(!)デヴィッド・ブッバ・ブルックスがすばらしいテナーを吹きまくっていて感涙である。え? ブッバ・ブルックスを知らない? いけませんなー。うちにはこのひとが「スムース・セイリン」とかやってるアルバムがあるが、リンクのメタルでめちゃくちゃいなたい音を出す最高のおっさんである。フレーズもさることながら、このサブトーン! みんな聞いたか! これですよ! バディ・テイトをホーフツとさせるこの感じはすばらしすぎる。ティナ・ブルックスの兄? ティナ・ブルックスもブッバ・ブルックスもアルバム数は少ないわなあ(とくにブッバ・ブルックスのリーダー作はほとんど70過ぎてから
。悲しい)。チャールズ・ウィリアムズのメインストリームの諸作にはかならずといっていいほど入ってるので、ぜひ聴いてほしいです。あとは今回のブラック・アンド・ブルーの日本盤発売で「ホンキートンク」が出てくれることを祈るばかりである(持ってない)。ギターもピート・マイヤーズもええ感じである。一曲目の歌謡曲みたいな曲からこのバンドで自分がなにを求められているか熟知している泣き節のソロを引き倒してくれる。ドゲットのバッキングも泣け泣けと言ってくる。「この本を読めば100回泣けます」みたいなしょうもない本よりこの曲を聴くほうが泣けると思う。2曲だけ入ってるトニ・ウイィアムズという女性ボーカルもめちゃくちゃええ感じである。汽笛の物真似が入ってたりする「ナイト・トレイン」も軽々とスウィングするタイプで、ジミー・フォレストのあの重い機関車がゆっくりと田舎を走っていくような重量感はなく、かわりに手を叩いて踊りたくなるようなハッピーな雰囲気で、エリントンの「ハッピー・ゴー・ラッキー・ローカル」の方に近い。ラストの「イット・クッド・ハップン・トゥ・ユー」はマイルスとかのテンポとはまったく違う超スローなバラードとしての演奏で、マウスピースの両端から唾液の泡が吹き出しているかのごときいやらしく生々しいサブトーンが最高。というわけで、オルガン好き、テナー好きならたいへん楽しめることまちがいなしのアルバムでした。ただ……ジャケットさえもう少しよければなあ。
「BILL DOGGETT FEATURING EDDIE DAVIS & EDDIE VINSON」(BLACK & BLUE CDSOL−46102)
BILL DOGGETT
ビル・ドゲットというひとはもちろん「ホンキー・トンク」のひとなのだが、あれはブロウテナーをフィーチュアした曲でもないし(キング盤のテナーはクリフォード・スコットでめちゃええ音が、えげつなくホンクしているわけではなく、逆にノリよく軽快に吹いている。フラッタータンギングとか使って脂っこいところもあるがだいたいはリフを吹く要員)、ギターもなんだかハワイアンスティールみたいな感じで、本人のオルガンはなんとソロを取らないのである。ほかの録音を聴いても、だいたいそんな感じで、つまり何が言いたいのかというと、ビル・ドゲットのオルガンは、たとえば先達のワイルド・ビル・デイヴィスやミルト・バックナー、ジャズオルガンのジミー・スミス……などなどに比べると音もノリも軽い感じがする(ここで言うノリというのは文字通り、ビートに対する乗り方のこと。日本語ライナーでは、「豪快」とか「アクが強い」とか書かれているが、あまりそういう印象は私にはない)。もしかしたらそれがビル・ドゲットが売れた要因なのかもしれないが、このアルバムでもそういう軽さは発揮されていて、前ノリというほどではないが、バッキングでもソロでも軽々とした、頓智のきいたノリである。飄々としたといってもいいかもしれない。そして、共演のサックスはクリーンヘッド・ヴィンソンとロックジョウだが、クリーンへッドというひともかなり変わっていて、ブルーズ関係の本など読むと、灼熱のブルーズブロウアルトみたいに書いてあったりするが、もちろんそういうことはなく、どちらかというと音色もストレートで軽やかだし、フレーズはバップに近い、きっちりしたコード分解のソロだったりする。このアルバムでもその魅力は存分に発揮されているが、けっしてアール・ボスティックやルイ・ジョーダンのような熱血アルトではない(一番そういう感じがするのは「イン・ア・メロートーン」と「トッツィー」か?)。そういうなかでロックジョウはかなりがんばってブロウしているが、しかし、このひともよく知られているとおり、一筋縄ではいかない変態テナーで、折に触れてそういうフレーズをぶち込んでくるので、このセッションはなかなかどうして、ものすごくヘンテコなものになった(「カミン・ホーム」という8ビートのマイナーブルーズは、ソロに入ると4ビートになる、といういつものロックジョウ)。気づかないひとはさらっと聞き流してしまうかもしれないが、よく聞くと、すごく変なのである。そこがめちゃ面白い……といえば面白い。普通のブルーズ〜臭いジャズ系のセッションからは少しはみ出した魅力がある。もちろん各人のソロは一級品だし、一体感もある。好事家向けのアルバムと言えるかも。ミルト・ヒントンのベースが参加している点もセッションを膨らませている。リーダーであるビル・ドゲットの存在感が やや希薄に感じるのも、ドゲットらしくていいじゃないか!(あくまて私見です……)。アフリカ奥地で翼竜を捕まえた……みたいなジャケットのダサさ加減もほどよくいいです。