hammid drake

「SOUL BODIES,VOL1」(AYLER RECORDS AYLCD−024)
HAMMID DRAKE & ASSIF TSAHAR

 傑作。めちゃ傑作。アシーフ・ツァハーのアルバムはいっぱい持っているが、なかでも一、二を争う出来のよさ。だいたいアシーフは、アルバムであまり出来不出来はないタイプだが、これはハミッド・ドレイクという当代一のドラマーを得て(というか、ハミッド・ドレイクのリーダー作なんだけど)、いつもより頭ひとつ、グレードがあがっている感じ。リーダーのハミッド・ドレイクも、歌を歌ったり、パーカッションを叩いたりして、個性をこれでもかと見せつけるし、さすがの貫禄。彼にあおられて、アシーフは吹きまくる。アシーフは、自分のリーダーセッションでは、いろいろなことを試みるが、先輩格と組んだこのアルバムでは、サイドマンとして、ほんとうにひたすら情熱的なブローに徹しており、そこがストレートな熱さとなって、感動的ですらある。バスクラもいい味を出しているし、はやく第二集の発売がのぞまれる。フリー・インプロヴァイズドというより、オールドな「フリー・ジャズ」の現在進行形のもっとも良質な形として、多くの人に聴いてもらいたい好盤。

「BROTHERS TOGETHER」(EREMITE MTE 035)
HAMMID DRAKE & SABIR MATEEN

 私は、アルトサックスがいまいち好きではなく、アルトのフリージャズの人に関する知識はゼロに等しいが、このアルバムの主役のひとりであるサビーア・マティーン(と読むのか?)はアルトが主奏楽器の人である。それなのになぜ買ったかというと、ひとつには、デュオの相手が私の大好きなハミッド・ドレイクだったから、もうひとつの理由は、ジャケットに楽器の記載がなく、サビーア・マティーンというひとがテナー奏者なのかアルト奏者なのかわからなかったからである。しかし、聴いてみて、あまりによいので驚いた。世の中は広い。四曲入っているのだが、一曲目が21分、四曲目にいたっては一曲で三十分あるという長尺の演奏ばかりにもかかわらず、しかも、ドラムとサックスのデュオというシンプルきわまりない形態であるにもかかわらず、聴いていて飽きないどころか、いつまでも聴いていたくなる。それは、ドレイクのドラム、パーカッションが、単に即興演奏家としてリズムを作り出すだけでなく、黒人的なグルーヴに満ちているからであろうし、サビーア・マティーンがサックス、クラリネット奏者としてかなりの表現力を持っているからでもあろう。とにかく、アルバムタイトルにもなっているとおり、「ブラザーズ・トゥギャザー」という言葉がぴったりのデュオである。二曲目、三曲目の、クラリネット(アルトクラ?)とパーカッションやドラムとのデュオの豊穣さといったら、もう、筆舌につくしがたいおいしさだし、4曲目は最初フルートではじめて(このフルートもなかなか)、テナーにチェンジし、延々と吹きまくる。うーん、テナーもうまい。どっちが主奏楽器なのかわからなくなってきた。AACMの人なのかなあ……。とにかく、実に楽しく、かっこいいデュオでした。お買い得やったなあ。ちなみに、いつもはハミッドが変なアフリカっぽいボーカルを歌うことが多いが、本盤ではサビーアが、バップスキャット風のボーカルを披露し、それもまたよし。

「BLISSFUL」(ROGUEART ROG−0011)
HAMID DRAKE & BINDU

 このグループの前作は残念ながら聴いていないのだが、ハミッド・ドレイクのパーカッション〜ヴォイスに、ダニエル・カーター、アーネスト・ドウキンス、サビア・マティーンらサックスが4本加わった変則グループで、非常に興味深い。そのうち聴く機会もあるだろうが、とにかくめっちゃ聴きたい。そしてそのグループの第二作である本作は、まったく様相が変わっており、管楽器はゼロ、ウィリアム・パーカーのベースに、ジェフ・パーカー、ジョー・モリスといったフリー系ギタリストなど弦楽器と女声ボーカルによる宗教的〜民族音楽的な演奏となっている。ほとんどがボーカル中心なのでおそらく歌詞が重要なのだろうが、私のアホ耳ではなにを言ってるのかよくわからない。でも、たびたび「カーリー」がどうのこうのと言ってる。バンド名であるビンドゥは、インドで「点」を表す言葉らしい。気が狂ってるようなライナーノートは、alexandre pierrepontというひとが書いていて、このひとはフランスの前衛(?)詩人らしいが、そのライナーをどうにかこうにか読んでみると、何度も何度もカーリーという言葉が出てきて、しかも「アグニの7番目の舌」とか書いてある。うーん、これはインド哲学というかヒンドゥー系の世界観に影響された音楽なのか? だが、ライナーには「ブードゥー」という言葉も何度か登場するが、となるとアフリカ系か?(音楽的にはたしかにインドというよりアフリカっぽい感じはする)なになに? 歌の歌詞は、レックス・ヒクソンによるものだ、というようなことが書かれているなあ。だれやねんこいつ。……と調べてみたら、「カミング・ホーム」という本を書いた宗教的哲学者(?)で、『「カミング・ホーム」は永遠の哲学と呼ばれる、世界の偉大な神秘主義的伝統の最良の入門書である』などという説明をネットで発見。神秘主義というかスピリチュアリズムみたいなもんだろうか。その本の目次を見ても、ヒンドゥー系を中心に、禅、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、中国の易経……などがとりあげられている。ハミッド・ドレイクはこのひとの思想的な影響下にあるのかもしれない。しかし、大事なのは、このアルバムに収められている音楽がそういった予備知識もまったくなく、私のようにヒアリングができなくても、音楽としてすばらしいということであって、その意味で、本作は偉大な宗教音楽と同等の価値があるといえる。しかも、めちゃめちゃがんこいいのだから言うことはない。私には、この作品が一種の曼陀羅のように聞こえた。奥が深いなあハミッド・ドレイクは。こういうことはもっとどんどんやってほしい。

「BINDU」(ROUGE ART ROD−0001)
HAMID DRAKE & BINDU

2枚目のほうを先に聴いたのだが、1枚目が聴きたくて聴きたくてしかたがなかった。2枚目はストリングス系との演奏なのだが、1枚目はサックス大量投入なのである。ダニエル・カーター、アーネスト・ドウキンス、サビア・マーティン、グレッグ・ワード……と要するにサックスアンサンブルとの共演であって、これは聞かずにおらりょうか、という感じだが、某中古屋で見つけたときは手が震えましたね。でも、聴いてみると、サックスアンサンブルだからどうとか、そういったこととは一切関係なく、すばらしい内容だった。一曲目は、ゲストのニコール・ミッチェルという、私は不勉強で全然知らない奏者だが(なんかめっちゃ美人の黒人女性。たぶんそうとう有名のはず)、このひとのフルートとハミッド・ドレイクのデュオ。14分もあるのだが、これがめちゃめちゃいいんです。フルートというより、どこかの民族楽器のような「笛」という感じで、非常にプリミティヴな、ペンタトニック的な演奏で、しびれました(しびれるという表現も古いとは思うが)。まあ、ハミッド・ドレイクにはずれなし、とは思ったが、ここまでいいとは思っていなかった。2曲目からはサックス奏者たち総出演の暴れまくり吹きまくりで、もう魂が天にのぼるようなプレイの連続だが(ベースなどがいないのもいいね)、一曲目というものがアルバムにとってたいへん大事であると思った。一曲目のフルートとのデュオがこのアルバムのすべてをセッティングしたといってもいい。うーん、さすがハミッド・ドレイク。傑作だと思います。

「REGGAEOLOGY」(ROUGE ART ROD−0021)
HAMID DRAKE & BINDU

 ハミッド・ドレイク率いるビンドゥの3枚目(のはず)。1枚目はフリー系サックスを集めた作品で、フレッド・アンダーソンとエド・ブラックウェルに捧げられていた。2枚目は一転して管楽器を外し、ストリングスを集めたような作品で、ドン・チェリーへの捧げ物だったらしい。どちらも非常に気に入ったので、今回の3枚目をすごく楽しみにしていた。今回は、な、な、なんとレゲエである。レゲエといっても、ボブ・マーリーやブラック・ウフル(私の持ってるレゲエはそんなもの)とかとはまるでちがっていて、基本のリズムはレゲエのああいった2ビートで、使われているモードも、まあ、レゲエっぽいのだが、そのうえで展開している音楽は、トロンボーン2本による白熱のホーンセクション(ひとりはジェブ・ビショップ)にあおられた、アフリカの香りを色濃く感じさせるハミッド・ドレイク独特のアフリカ〜ジャマイカ〜ジャズ〜ロックを貫くような個性的なものだった。いやー、ぶっとぶぐらいかっこいいですよ。もっとフリーよりの演奏を想像していたのだが(もちろんそういう箇所も多々あるのだが)基本的にはコンポジション優先で、がっちりした、ボーカルとリフを主体とした演奏である。レゲエのシンプルさより、そこはやはりドレイクだけに、パーカッションのいれかたや全体のサウンドももっとカラフルで分厚い。2トロンボーンの使い方は、サルサのトロンバンガを連想させるほどドスのきいた、ぶっといもので、ほんとに心地よい。私が現在のレゲエをまーったくといっていいほど知らないだけなのかもしれないが、これはハミッド・ドレイク独特のレゲエであると言っていいんじゃないでしょうか。

「SOUL BODIES,VOL 2 LIVE AT GLENN MILLER CAFE」(AYLER RECORDS AYLCD−025)
HAMID DRAKE & ASSIF TSAHAR

 アシーフのライヴは2度観たが、まず「音色」が好みだ。そして、フリージャズのサックス奏者としては珍しいぐらいの「テクニックを表に出すひと」だと思う。とにかくめちゃめちゃうまい。もちろんうまいだけではないのだが、「うまい」「技術がある」ということもこのひとの個性なのだろう。こういうタイプも私は大好きで、聴いていて気持ちがいい。アシーフは、ほとんどフリー寄りの演奏が多いが、たまにモーダルな演奏、きちんとしたフレーズをつむいでいくようなコンセプトの演奏もする。それぐらい引きだしが多いひとなのだ。しかし、正直、本作のような演奏こそが私の愛するアシーフ・ツァハーである。ハミッド・ドレイクの、フリーなのに強烈にグルーヴする稀有なドラミングに対して、ときには挑みかかり、ときには合わせ、ときには別の方向を向く。ハミッドのドラムが、彼から最良の部分を引き出しているのだ。そして、ハミッド自身も最高のものを出せている。つまり、相性バッチリということだ。まあ、そんなことをぐだぐだいうこともなく、このアルバムは超エキサイティングなので、なーんにも考えずに聴けばよし。それにしても、テナー〜ドラムという組み合わせが一番聴いていて燃えるのは、これは体質か? 1曲目はバウンスするボサノバのようにはじまるリズムに、アシーフが乗っていく。そのパターンは17分間崩れないのだが、徐々に変化していく。ドラムはときにアグレッシヴだがグルーヴをキープしており、アシーフはメロディアスといってもいいモーダルなラインを全力で吹き続け、イキそうでイカない、高いテンションをずっと保ち続け、しかも全体のボルテージはあがっていくというすごい演奏。基本的にはきちんとしたテーマのあるマイナーペンタトニック一発ともいえるワンコードの曲だが、ベースがどこかに隠れていそうな感じ。ふたりともイマジネーションが豊富なので、中音域中心のギャーッというフリーキーなブロウがない演奏でもまったく飽きない。こってりした、重量級の演奏で、これは聴き応えありまっせ。2曲目はガチンコ即興。こういうのをやらせてもふたりは完全にかみあってすごい。ドレイクのドラムの凄まじさが全開で炸裂しまくり、もうとめられない。3曲目はテーマあり。ゴスペル風味もあるカリプソ(?)風の明るい曲調で、ようするにアイラーっぽい。まさにアシーフの面目躍如というか実力が最高に発揮された演奏で凄いのひと事。めちゃめちゃかっこええ! 6分半あたりからのハミッド・ドレイクのドラムソロはクール&パワフルで、えげつないぐらい冷酷無比にドラムを「きっちり」叩きまくる。まさしく鬼だ。すげーっ! 4曲目はガチンコ即興ではじまるがモーダルなテーマ(?)もある14分強(これもちょっとマイナーブルースっぽいなあ)の基本的には3拍子の曲。本作ではいちばんフリーっぽい演奏かも。これがまたいいんです。途中からモチーフをちゃんと展開するタイプの演奏になっていくあたりも彼ららしくていい。ドラムソロも、じつはめちゃめちゃむずかしいことをさりげなくやり倒していて、目が点になります。これもクール&パワーなんだよなー。ハミッド・ドレイク……凄すぎる。アシーフもこの曲では存分に吠えます。5曲目はバラードっぽい曲調で6分間そのまま押し切るが、リズムはゆったりでもフレージングが尖っているのでテンションはきわめて高い設定。6曲目はたぶんアンコールで短い「セント・トーマス」(テーマのみ)。あー、おもろかった。