dr.john(mac rebennack)

「GUMBO」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION ATCO18P2−2922)
DR.JOHN

 私とニューオリンズの接点はほとんどなくて、高校生のころはそういう音楽があるということすらよく知らなかった。ニューオリンズといえばデキシーランドジャズで、すでに音楽的に過去の遺産的な扱いなのかなあと思っていたのだが、さにあらず、すばらしいR&Bやジャンプミュージック、ロックンロール、そしてブラスバンドの宝庫なのだと知ったのは、大学4年のころだったかなあ。ダーティー・ダズン・ブラス・バンドのライヴが発売されて、それを聴き、あまりのかっこよさに悶絶したのだった。それは、思ってもみなかった音楽だった。ブラスバンドってこんなにかっこいいの? ということだ。しかし、それはどうやらブラスバンドがかっこいいというより、ニューオリンズの音楽がかっこいいらしい、と気づいた。跳ねる、というか、グルッと語尾を回転させるような8ビートの独特のスネアの叩きかたが学生の私にも「なるほど!」と理解できた。そして、深い深いニューオリンズ音楽に、ほんの少し、ほんの表面だけ分け入ることにしたのだ。ちょうどP−VINEから発売された「ガンボ・ヤ・ヤ」という二枚組オムニバスLPをはじめ、いろいろ聴き漁った。そして、このドクター・ジョンにたどりついたのだ。最初はレコードで買ったのだが、あまりにかっこよくて、心地よくて、金がなかったにもかかわらず、CDで買い直した(レコードはだれかにあげた)。一曲目の「アイコ・アイコ」を聴いた瞬間に、なんじゃこりゃーっ、と叫び、この世にこんな妙ちきりんでかっこいい音楽があったのか、と一瞬で開眼したのだ。つまりは、それほどウブだったということだが、本作は私にとってニューオリンズの泥沼へのかっこうの入門書となった。そののち、さまざまなブラスバンドや、プロフェッサー・ロングヘア、スマイリー・ルイス、ファッツ・ドミノ、ジェイムズ・ブッカー、ミーターズ、ネヴィル・ブラザーズ、デイヴ・バーソロミューなどなどなどなど……といった人々を聴き、そのどれもに共通しているのは、あの8ビートのスネアのノリであることがわかった。あのスネアを聴いた瞬間に、頭のなかがパッとニューオリンズになるのだ。これはひとつの民族音楽だといっていいですね。