scott dubois

「AUTUMN WIND」(ACT MUSIC ACT9856−2)
SCOTT DUBOIS

 正直言ってあまりこういうギター奏者を日頃聞かないので、まるで知らないひとだ。もしかしたらあちこちで耳にしているのかもしれないが、なにしろ名前を覚えるのが苦手なので……。というわけで、今回はゲブハルト・ウルマンが入っている、ということだけで聴いた一枚ということでリーダーにはまことに申し訳ない入り方だったが、いやー、めちゃくちゃよかった。こういう聴き方もいいですよね。このギター、ベース、サックスという不動のメンバーですでに4枚のアルバムが出ていて、ゲブハルト・ウルマン好きの私としては「えっ」と思ったのだが、まあ、これから探す喜びがある。このトリオは彼の現在のレギュラーバンドらしいが、そこにヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという弦楽器、フルート、オーボエ、バスーン、クラリネットという木管類が加わり、チェンバーミュージックのようになる。曲名でたどると、9月から11月にいたる秋の様相を音楽で綴ろうという試みであるような……。1曲目はおそらくスコットひとりによるギターソロ、2曲目はベースが入ってのデュオ、3曲目はウルマンのバスクラが加わってのトリオ……と楽器がひとつずつ増えていく。しかし、コンポジションがあまりに魅惑的であまりそういう「趣向」には、はじめて聴いたときには気づかない。4曲目でドラムが入って、ようやくやや躍動感がでてきてジャズっぽくなり、ウルマンのテナーもリアルトーンで絡みつき、おお、かっこええ、となるのだが、全体に幻想的で夢見るような雰囲気には変わりない。このあたりでもすっかりこのアルバムのすばらしさのとりこになってしまっている。どこまで書いてあるのか、どこまで即興なのかはわからないが、そういった区別がなんの意味もないほど両者は溶け合っていて、ひたすら心地よい。5曲目からはストリングスが入ってくるのだが、ウルマンのバスクラがフリーキーに暴走し、チェンバーミュージック的な雰囲気をぶち壊す……のだが、なぜかそれが溶け合ってしまうという見事な企みには、このデュボイスというひとの才能を感じざるを得ない。6曲目は弦楽器が多くなってきて、すごい迫力。ストリングスの嵐のなかを突きぬけるウルマンの太いテナーはかっこいい。これは本来のウルマンのソロで、フリークトーンも交えながらブロウしまくる。クラシック的なものとジャズ的なものが衝突し、美しいものを作り上げた瞬間である。7曲目は表題曲で、「秋の風」という「芭蕉か!」と言いたくなるようなタイトルだが、たしかに秋風のようにそよそよと吹き抜ける感じの曲。8曲目は枯葉が強い風に巻き込まれて渦を巻くような曲調で、激アツ。9曲目は逆にのんびりした、秋の街を散歩するといった感じ。10曲目は全員が怒濤のように押し寄せる、ストリングスのパワーを感じる演奏で、少し東洋的というかエキセントリックな雰囲気もある曲。ウルマンのバスクラが吠えるが、それもストリングスの波のなかに埋没していく。11曲目はバラードで、美しく、ゆるいアンサンブルのなかをウルマンのサックスがノイズを撒き散らす。そのあとは「ドット」をちりばめるような演奏になり、これはこれでミニマルっぽくて良い。ラスト12曲目はギターが弾きまくり、テナーがブロウしまくるド迫力の締めくくり。音の本流にひたすら身を任せていればいい。ウルマン最高! デュボイス最高! というわけで……いやー、傑作でした! これはええわ。