doubtmusic vs fulldesign records

「THIS SHOULDN’T HAPPEN!」(地底RECORDS B103F)
doubtmusic vs FULLDESIGN RECORDS

 こういうデュオ集ってとにかくわくわくするものだが、本作はなんというか「遊び心」の賜物かと思っていたら、思っていたよりもはるかに傑作でした。もともとフルデザインレコードの藤掛さんとダウトミュージックの沼田さんという、日本のインディペンデントレーベルの雄ふたりによるデュオに、毎回ふたりのゲストを迎えて4人による演奏を定期的に行ってきたのだが、その2ステ目の最初はゲストふたりによるデュオで開幕する、という決まりがあったらしい。その部分だけを取り出して、編集したものが本作なのだが、正直、「ええとこどり」と聞いていたので、長い演奏のなかのデュオ部分だけを編集して並べた、「浪曲さわり集」というか「サンプラー」というか、そういうものかと思っていたのである。これからホンチャンのカルテットによる演奏に入るイントロダクションみたいなものばかりだとしたら、まだ盛り上がっていない状態ではないか、と思ったのだ。しかし、それはとんでもない誤解だった。デュオ部分は完全に独立して鑑賞できるし(これだけのすごいミュージシャンばかりなのだから、そんなことは考えてみたら当たり前なのだ)、その濃密度、盛り上がり方なども半端ではなかった。カルテットの部分も含めて全部リリースしてくれ、というのが無理なのだとしたら(無理ですよね)、こういう具合にデュオの部分だけを公平に取り出して、並べてくれるだけでもうれしすぎることである。で、肝心の内容の感想だが、いやー、驚きました。まるで「インスピレーション&パワー」を聴いたときのような手応えと面白さと感動を得た。
1曲目いきなり梅津和時〜立花秀輝という強烈なアルトデュオではじまる。おそらく左が梅津さんで右が立花さんだと思うがまるで双子が演奏しているかのごとく「おんなじこと」を吹いてる場面があったりして面白い。本当にフリージャズの王道的な、ストレートアヘッドな演奏なのだが、それでいてめちゃくちゃ充実の1曲目なのだ。2曲目はあの「ハーツ・アンド・マインズ」の原田仁のヴォイスに太田惠資のヴァイオリンだが、これが見事に溶け合った演奏で、息が合いすぎていて怖い。ものすごく盛り上がる。途中で太田さんも歌い出し、ダブルヴォイス+ヴァイオリンになり、ますます盛り上がる。人間の声ってとんでもないことができるのだ。これはすごい! 3曲目は藤堂勉というひとのバスクラに坂本弘道のチェロ。荒れ狂うバスクラにエレクトロニクスも交えて応じるチェロ。最後は藤掛さんがドラムを叩き出す。この荒っぽいまでに大胆な踏み込みかたはすごい。藤堂勉というのはあるミュージシャンの変名だそうだが、なぜ変名を使うのかわからん。4曲目は坂口光央のキーボードにかわいしのぶのベース。ノイズの微細な変化でぐいぐいひきつける。あまり音量の変化はないのにどんどん盛り上がるのも不思議。めちゃかっこいい。5曲目は坂田明とヒゴヒロシ。徹頭徹尾シリアスなインプロヴィゼイションで聴きごたえ十分。次第次第にアクセルを踏みこんでいき、爆走状態になってもそのしっかりした音色はふたりともキープしたままだ。興奮するなー。6曲目は後藤篤と小森慶子。バスクラリネットとトロンボーンはよく調和するだろうと万人が思うだろうが、安易な調和を避けるように、丁寧に相手の音の流れのなかに入り込んでいく。その結果、まるでコンポジションが存在するかのような緊密な演奏になった。このデュオはほんとにすばらしくて何度も聴き返した。テレパシーで我々に聞こえないような会話(というか打ち合わせ。つぎはこう行くよー、了解、みたいな)をしながら演奏しているかのようだが、テレパシーの代わりは自分たちが出している「音」なのだろうな。7曲目はベースのジュンーBというひとと辰巳光英。辰巳はトランペットだけでなはくてエレクトロニクスも。美しい演奏で言葉をなくす。このジュン―Bというのもあるひとの変名だそうだが、どこかと専属契約があるのか? なにゆえ変名? 辰巳はたぶんほとんどトランペットは吹いていないかも。でもかっこよすぎる。8曲目は吉田隆一と近藤直司のデュオ。たぶん左が近藤でテナーを吹いている(と思う)。吉田はヴァンプとフリークトーンでのソロと相手へのからみをいっぺんにやってしまうような演奏で、そのあと無伴奏ソロになるが、そこに藤掛さんのドラムが入ってくるところでおしまい。最後に、主役である(はずの)沼田〜藤掛によるノイズっぽい超短いデュオが収録されていて、アルバムとしてスタイリッシュな構成をキメた感じになっている。
さっきも書いたが、「インスピレーション & パワー」のようなクオリティの高さ、狙いの高さ、チャレンジ精神、バラエティの豊かさ……などを感じた。本作が地底レコードから出たというのもまた驚きである。三つのインディペンデントレーベルが今の東京で互いに相手を尊重しながら前進を続けていることが我々リスナーにとってはありがたいかぎり、心強いかぎりなのであります。傑作! だれがリーダーというわけでもなく、だれの項にも入れられないので、「doubtmusic vs FULLDESIGN RECORDS」という項目を作りました。