billy eckstine

「MISTER B.AND THE BAND」(SAVOY WL70522(2))
BILLY ECKSTINE

 史上初のバップビッグバンドがサヴォイに残した音源を集めた二枚組。聴き直してみると、めちゃめちゃかっこいい。バップ系のビッグバンドはガレスピーバンドもそうだが、トランペットの高音での強烈なリフが「いかにも」という感じだが、本作で聴かれるビリー・エクスタインバンドは、それにくわえてドラムが暴れるのが特徴で、カウント・ベイシーなどのスウィングビッグバンドにおけるドラマーはいわゆる「おかず」的にフレーズを入れ込むが、バップビッグバンドのドラマーはもっと自由である。なにしろアート・ブレイキーだもんな。ソリストも揃っていて、基本はジーン・アモンズの野太い音での豪快なソロが聴きものだが、デクスター・ゴードン、ソニー・スティット、ファッツ・ナバロ等々きら星のような若きバップスターたちがおいしいソロを披露する。とはいうものの、ビッグバンドであって、しかも歌伴という状況では、いくら凄いソリストを擁しているといってもちょろっとしかソロスペースはないわけで、そのあたりをどう感じるかで本作が好きかどうか分かれると思う。御大ビリー・エクスタインのバリトンボイスによるボーカルはまさにすばらしいの一言で、これだけ深い声で、しかも強烈なリズムをともなったジャズボーカリストはなかなかいない。本人はボーカルよりも器楽器奏者になりたかったらしく、ヴァルヴトロンボーンを吹いたりするが、そんなあたりもただのボーカリストよりも楽器奏者よりの歌い方ができるということかもしれない。なかにはビリーがほとんど歌わず、合いの手だけに終始して楽器のソリストをフィーチュアする曲もあり、ビリー・エクスタインバンドがスターボーカリストとその伴奏者という形態ではなく、ビリーもバンドの一員であったことがわかる。「ウバッシュ・バム」など、私はずっとガレスピーの曲だと思っていたが、こっちがオリジナルなのか? この曲など、ビリーは「シュビダ」と一言歌うだけなのだが,洒落てますなあ。だが、やはりビリーの本質はバラードやスローナンバーにあるとは思う。「インナ・センチメンタル・ムード」の歌い上げの深さ、声の艶など、テナーかトロンボーンの名手が朗々と吹いている感じがあって、瞠目する。最後に書いておきたいのは、バップビッグバンドのアレンジが、カンサスシティっぽいというか、短くてしかも単純なリフ主体なことで、ガレスピーのバンドも一部のアクロバティックな曲を除いて同じである。これなら50年代以降のベイシーのほうがずっと難しいことをやってると思うが、いかにも初期バップという空気を強く感じさせるビリー・エクスタインビッグバンド……私は大好きです。