「IT’S ABOUT TIME」(PACIFIC JAZZ RECORDS PJ−6)
「IT’S ABOUT TIME」(PACIFIC JAZZ RECORDS PJ−6)
どういうわけか魔が差してテディ・エドワーズの廉価ボックスを買ったので、収録されている5枚のアルバムについてレビューしたいと思う(なお、4種類のコンピレーションに入ってるエドワーズ参加の曲だけを集めてディスク1としているのだが、これについてはここでは割愛します)。じつは、こういうタイプのテナーのひとがすごく好きなのです。本当の意味でのバップテナーというか、そういうスタイルのまま、ずっと演奏活動を続けたひとというのはじつはあんまりいないのではないか。ハードバップに移行したり、コルトレーン的になったり、そうでなくても個性がありすぎてバップテナーというには無理がある、とか……ワーデル・グレイが私にとっては「バップテナー」なのであるが、あれはたぶん早死にしたからであって、長生きしたらスタイルが変わっていったかもしれない。というわけで、バップスタイルを守り通した(少なくとも60年代ぐらいまでは。そのあとのアルバムについてはよく知らん)テディ・エドワーズは貴重なのである。
ということで、まずこのアルバムだが、西海岸のひとにふさわしくレーベルはパシフィックジャズだし、バックはレス・マッキャン・トリオ(ベースはルロイ・ヴィネガー)だし……という正統派ウエストコーストジャズ的な感じだが、実際にはイーストコースト的な力強いハードバップである(まあ、当たり前だが)。テディ・エドワーズはよく歌うバップテナーでめちゃくちゃ上手いひとだが、ワーデル・グレイほど流暢ではなく、どこかごつごつとしたノリがあって、それが味わいになっている。音色もほどよく軽く渋みのある音で、デクスター・ゴードンのように豪快に吹きまくる、とかはなく、真摯にフレーズをつむいでいく感じ。ジェイムズ・クレイを連想したりもする。もちろんホンクとかはしないが(でも、ワイノニー・ハリスとの吹き込みもあり)、2曲目の自作の曲などのソロを聴くと、(マッキャンのバッキングもあって)非常にブルース的な味わいがあるのだが、それがコテコテではなく、さらりとした洒脱な雰囲気で、そこがいいですね。ノリにしても歌い方にしても抑制のきいた音色にしても、ハンク・モブレーを思わせる部分もあり、非常に知的な演奏だと思った。私はできるだけ「他の奏者との比較」はしないようにしているのだが、今回はめちゃくちゃ比較してしまった。テディ・エドワーズさん、すまん。ここに挙げたひとたちに比べて一言で説明できるようなはっきりした個性がないのでこういうことになってしまったのだ。しかし、薄味ということはなく、じつにいい味のひとだと思います。趣味のいい……というやつですね。同じような立ち位置だったはずのハロルド・ランドが後年、あんな感じの演奏になってしまったことを考えると、趣味のいいテナー、結構じゃないでしょうか。ワンホーンカルテットではあるが、どの曲もきちんとアレンジがほどこされており、そのあたりも楽しい。ラストの「ラバカン」ではアップテンポでもばりばり吹きまくれることを示していて超かっこいい(ブレイクやドラムとのデュオなど構成も多彩)。選曲のバランスもよく、ほかのメンバーも堅実な傑作。
「SUNSET EYES」(PACIFIC JAZZ RECORDS PJ−14)
TEDDY EDWARDS
3つのセッションから構成されているアルバムで、どのセッションもワンホーンカルテットだが、前作同様、歌いまくっている。この「コード分解で歌う」というバップの基本を、どんなときも忘れない感じがいいんですねー。そういうのでちゃんと伝わる、というひとはやはり上手いのだろうと思う。フィーチュアされている3人のピアニストもそれぞれに上手いがとくにジョー・カストロというひとはすごい。リロイ・ヴィネガーのベースソロもあいかわらず歌いまくりである(粋というか洒脱だし、ユーモアも感じるが、じつは凄まじいリズムであります)。ミディアムからアップテンポのものをやるととにかく最高なエドワーズだが(4曲目のブルースなど、仕掛けがあるアレンジなのだが、そこでバリバリ吹きまくる。しかし、ただただスムースにこなす、というのではなく、多少のぎくしゃく感があって、そこがほんとすばらしいのであります。バップ!)、めちゃスローテンポの「アイ・ヒア・ラプソディ」とかもジャズミュージシャンとしての表現力をひしひしと感じるすばらしい演奏です。ドラムは1曲目をのぞいて全部ビリー・ヒギンズで、いいのは当然だが(タイトル曲のアフロっぽいリズムのところとかほんまにかっこいい)、こういう洒脱な演奏をばっちりキメつつ、一方ではオーネット・コールマンとずっとやってたんだなあと思うと感慨深い。どの曲も名演ばかりで、こういうアルバムはほんと、得した気分になりますなー。また、エドワーズのオリジナルがけっこうたくさん入っているが、どれも単なるリフ曲とかではなくて、ちゃんとアイデアのある、個性的なもので、コンポーザーとしての力量も感じる(「テディズ・チューン」というのはまさにバップナンバー! という感じの曲。ラストの「テイキン・オフ」もめちゃくちゃかっこいい曲でアレンジも最高。ほかのジャズマンが取り上げてたりするのかな)。めちゃくちゃ傑作だと思います。
「TEDDY’S READY!」(CONTEMPORARY RECORDS M3583/S7583)
TEDDY EDWARDS QUARTET WITH JOE CASTRO,LEROY VINNEGAR AND BILLY HIGGINS
1960年に3枚のアルバムを吹き込んでいることになり、当時のテディ・エドワーズの人気のほどがうかがえる(じつはこの作品のあとに「バック・トゥ・アヴァロン」という大編成のアルバムを吹き込んでいるのだが1995年まで発売されなかったらしい。ということは4作だ!)。前作「サンセット・アイズ」の半分ぐらいを占めるセッションの翌日に、同メンバーで吹き込まれているので、てっきりパシフィックジャズかと思ったら、コンテンポラリーで、しかもちがうスタジオでの録音。同じメンバーで二日にわたって、ちがうレーベルに吹き込むというのはたしかにすごいハードワーカーであり、ひっぱりだこだったのだろう。これだけ吹けて、曲が書けて、アレンジもできたらそりゃ人気も出ますよね。本作は、メンバーも最高で、聴かずとも内容がいいのは保証されている(前日にあれだけの演奏をしているのだから間違いないですよね)。1曲目のブルースから軽快にかっ飛ばす(この曲も、ただのリフブルースではなく、ちゃんとアレンジされている)。ジョー・カストロのピアノもノリノリです。2曲目の超アップテンポの「スクラップル……」は最初のコーラスはAABAのAはベースとのデュオで、サビだけドラムとピアノが入る、という趣向(ピアノソロも同様)。こういう仕掛けをしっかり用意するあたりがいかにも西海岸的に思えるが、エドワーズもカストロもたっぷりしたアドリブがいきいきとしているので聴いていて満足感が大きい。ドラムの4バースのところのリフとかエンディングとかのちょっとしたアイデアも洒落ている。バラードもすばらしいし、「ザ・サーモン」というミディアムのブルースで16分で延々吹きまくるところや、ラストの自作曲(かっこいい)でのノリノリの演奏中、サビの部分で低音のフレーズ(テーマにも出てくる)をキメまくるあたりも圧巻である(ハンプトン・ホーズの曲ということになっているが、ホーズには「ザ・サーモン」というアルバムはあるがそれには入っていなくて、「エヴリバディ・ライクス……」という例のワニジャケットのアルバムに収録)。捨て曲がないというのはこれまでのアルバムと同様で、どの曲も一か所は(ときには何カ所も)「おお……」と感心するような部分があり、この曲が本作の白眉か、と思ってたら、次の曲もすごくて……という具合にどの曲もいい、高値安定状態なのだ。しかも、全体に派手さがないのに、ぐっと引き締まった渋さのなかに盛り上がりやエンタメ性がしっかりある、という……結局「バップ」という言葉に集約されるような演奏だと思う。リズムセクションの3人も最高な傑作。
「TOGETHER AGAIN!!!!」(CONTEMPORARY RECORDS M3588/S7588)
TEDDY EDWARDS HAWARD MCGHEE
初の二管編成だが、ハワード・マギーとの相性はバッチリで、タイトルにもあるとおりのリユニオンだが、かつてマギーとエドワーズはロイ・ミルトンのブルースバンドの同僚だったがそのころエドワーズはアルトを吹いていた。その後、マギーが西海岸で自分のグループを持つにあたり、エドワーズをテナーにチェンジさせ、結局テナーがエドワーズの終生の楽器になった、ということらしい。セッションなどでもいろいろ共演したなかだと思われる(このふたりにソニー・クリスやハンプトン・ホーズらも加わったセッションの放送録音あり(未聴))。前年度のアルバムに比べると、リズムセクションがフィニアス・ニューボーンJR、ロイ・ブラウン、エド・シグペンという、これまた豪華なメンバーになったというのが特色か。きちんと2管用にアレンジがほどこされているのもポイントが高い。マギーは麻薬禍によるブランクを経て復活をとげてのちの演奏だが、かつての迫真さはないが、よく考え抜いたフレーズを安定したトーンで吹いている。16分音符もバリバリ吹きこなして、いかにも(ハードバップではなく)バップのひと、という感じの演奏。そして、テディ・エドワーズもあいかわらず絶好調だが、フィニアス・ニューボーンJRは凄まじいソロをぶちかます。2曲目「ユー・ステップド・アウト・オブ・ア・ドリーム」(けっこうむずかしそうなチェンジのようである)をラテンっぽくアレンジした曲でのマギーのミュートでの歌い上げはすばらしいの一言。かなり長尺のソロを見事にこなしている。そのあとのエドワーズのソロもまさにビバップで、めちゃくちゃ上手い。この曲はどちらかというとマギーがフィーチュアされている。つぎの「アップ・ゼア」という超アップテンポのバップ曲(レイ・ブラウンの曲らしい)ではエドワーズはノリにノッた完璧なソロで、アーティキュレイションもばっちり。マギーもちょっと速さについていっていない感じだが、破綻はしていない。そして、フィニアス・ニューボーンJRは低音から高音までを駆使した華麗なソロ。いやー、バップですね。4曲目はパーカーのブルース「パーハップス」でラテンっぽいテーマだがソロになると4ビートになるパターン。フィニアス・ニューボーンだけかなりあさってな感じの凝りまくったソロで独特の個性を見せつける。エドワーズとマギーもいい感じです。つづく「ミスティ」はエドワーズのワンホーンであっさりした演奏。ラストの「サンディ」はマギーの曲だが、かなりハードバップっぽい曲で、ブルーノートでハンク・モブレーがやっててもおかしくない。なかなか凝ったコード進行の曲のようだが、マギーもエドワーズもそつなくこなしている。フィニアス・ニューボーンはあいかわらず両手でオクターブ奏法みたいなことをぶちかましている。そのあとの単音のソロも見事だし、ウエス・モンゴメリーのようにひとつのソロの中で奏法をいろいろ変えてドラマを作り出そうとしているようだ。しかし、独特やなー。すばらしい音楽性とテクニックだと思うし、圧倒的な存在感だが、エドワーズとあっているかどうかはわからない。ラストのアレンジも洒落ている。なお、エドワーズとマギーは1979年にも2枚のアルバムをストーリービルに吹き込んでいるが、それがマギーのラストアルバムとなった。
「GOOD GRAVY!」(CONTEMPORARY RECORDS M3592/S7592)
TEDDY EDWARDS QUARTET
またワンホーンに戻る。4曲目と5曲目だけなぜかフィニアス・ニューボーンJRがピアノだが、あとは全部ダニー・ホートンがピアノを弾いている。ベースとドラムはずっと同じ(ルロイ・ヴィネガーとミルト・ターナー)。1曲目はテディ・エドワーズにしてはかなりコテコテのブルースだが、軽い音色のせいか(ちょっとだけグロウルしているが、あまり仁(にん)ではないという感じ)、淡白なノリのせいか、やはりエドワーズ的な趣味のいい、抑制の利いた演奏に聞こえる。いつもよりちょっとだけブルースを強調しているが、クサい感じはなく、やはりひたすら歌っている。ホートンのピアノもフレーズはわかりやすくてノリもよくすばらしい。2曲目はマイナー曲だが、ハードバップ的な凝った構成の曲で、エドワーズの作曲の才能が感じられる。3曲目のバラードもあいかわらず上手い。どちらかというとか細い音色で個性的な歌がつむがれていく。お涙ちょうだいの甘口バラードにも、楽曲をアドリブの素材としてひたすらクールに即興をする感じにもならず、王道を行っている。4曲目はアフロキューバンなリズムのマイナーブルース。5曲目はゆったりしたテンポの「グリーン・ドルフィン」だが、テーマの最後の部分を繰り返すアレンジがアドリブでも踏襲されている(つまり毎コーラス、2小節伸びる)。あいかわらずフィニアス・ニューボーンは変態的なバッキングをかましていて面白い。エドワーズのテーマの吹き方は、世界一地味なグリーン・ドルフィンだと思われる。5曲目は「ジャスト・フレンズ」で、エドワーズはまさにエドワーズとしか言いようがない地味だが、個性的で、ノリノリの最高のソロを披露している。6曲目は超有名バラードで「ローラ」。か細い音を完璧なコントロールで操りながらきらきらするような世界を形作っている。7曲目はスタンダードの歌ものかと思ったらエドワーズのオリジナルだそうで、すごく明るくて、いい曲(ちょっとゴスペルっぽい)。やっぱりこのひとはソングメーカーだ。ラストはエドワーズのオリジナル。かなり凝った感じのめちゃくちゃかっこいい曲(むずかしそう)。ここまで来るとバップからはかなりはみ出して、コルトレーン的な楽想になってくる。こんなのもできるんだぜ、というエドワーズの矜持と意気込みが感じられる。アルバムのラストを占めるにふさわしい演奏です。
「HEART & SOUL」(CONTEMPORARY RECORDS M3606/S7606)
TEDDY EDWARDS QUARTET
時代の波か、上記「グッド・グレイヴィ!」のピアノの代わりにジェリー・ウィギンズのオルガンが入ったカルテット。帽子をかぶったエドワーズの写真と、赤やピンクのタイトルロゴが印象的な一枚。1曲目は本作を象徴するような演奏で、シンプルなリフを並べただけの単純極まりないブルース。これまでのエドワーズなら、こういうブルースでもいろいろ工夫を凝らしたアレンジをほどこしたりしていただろうが、ここではとにかくノリで勝負、と言う感じ。つまり、オルガン+テナーという時代の要請に応えた演奏なのだ。そして、エドワーズのソロもバップというより、かなり派手なブロウを重ねている。まあ、こういうのをやらせても上手いのだが(なにしろロイ・ミルトンバンドにいたひとですから)。ウィギンズのオルガンソロやバッキングもかなり派手めである。2曲目はエドワーズの曲で、得意のラテンビート+4ビートの構成の曲(ただしソロは全部4ビート)。こういうヘンテコなチェンジの曲はエドワーズの好みなのだろう。3曲目はスタンダードで「シークレット・ラヴ」。コンガは入っていないのに、いかにも入ってる雰囲気のシャッフル……というかズンドコ風のリズムになっている。しかし、エドワーズのソロのノリは、バックのリズムがそうであっても4ビートの悠揚迫らぬ感じですばらしいし、歌い上げもすごい。かなり長尺のソロを一気に聞かせる。さすが! 4曲目もエドワーズの曲で、ミディアムのこってりしたブルース(これもリフ曲)。5曲目はウィギンズの曲でエキゾチックな香りのするマイナーブルース。なかなかええ曲。オルガンソロもいい。この曲はエドワーズは休みかと思ったら、ソロだけ取るのだ。ベースラインを聞いているとなんとなく冒頭から最初のウィギンズのソロまでは普通のブルース(ブルーノートをかなり強調してはいるが)で、エドワーズのソロからマイナーブルースになっているような気もする。そして、なぜかラストはオルガンが最初のテーマを弾かず、エドワーズがテーマっぽい感じのことを吹いてエンディングになる。不思議な曲。6曲目もエドワーズの曲で、やや速めのブルース。これも一瞬で作ったようなリフブルース。エドワーズは余裕のブロウ。バップ度高し。ウィギンズも遊び心というか洒落っ気のある感じのソロをかます。そのあと再びエドワーズがソロをする(なんでや?)。ラストはホーギー・カーマイケル作のタイトル曲で……と書こうとしたら、なんとこのボックスには肝心のタイトル曲が入っていないのだ!(収録時間の問題だろうけど、いやー……)というわけで、その曲だけはよそで聞いてみたが、ミディアムテンポの歌ものでした。というわけで、本作にはバラードは1曲も入っていないのだった。60年以来ずっとコンスタントにアルバムを吹き込んできたエドワーズだが、本作を最後にしばらく吹き込みが途絶え、約5年のブランクを経て、プレスティッジに移籍することになる。そこでは、やはりプレスティッジのレーベルカラーに合わせて……ということなのか、ギターやコンガが入ったり、複数の管楽器が入ったりするような編成での演奏となる。そしてまた7年ほどのブランクがあって、ミューズやザナドゥといったバップ〜ハードバップのひとがたどる道をエドワーズもたどることになるのだ。