「SPARK!」(PALMETTO RECORDS PM2129)
MARTY EHRLICH & MYRA MELFORD
どうしてこのアルバムを買ったのか今となっては思い出せないが、新譜で買っているので、たぶんレコード店にそそるようなポップが立っていた、とかそういう理由ではなかろうか。マーティ・エーリッヒは好きだが、アルトはアルトなので、このピアノとのデュオを私がほいほい買ったとは思えない。その証拠には、買ってから長いこと放置してあり、きのうはじめて聴いたのだった。で、結論だが……めちゃめちゃよかった。いやー、生涯、折に触れて聴き直すであろう傑作だと思う。私がフリー系のアルトを好きになれないのは、いちばんの理由はその「音」にあるのだが、エーリッヒがそういった連中とはちがうすばらしいサウンドの持ち主であることはまえからわかっていた。しかし、ピアノとのデュオなのでその特徴がいっそうくっきりと前面に出て、ほんとほれぼれする。しかも、フリーデュオではなく、きちんとしたチューンを演奏するのだが、技術的にも言うことなく、激しい曲は激しく、甘美な曲は甘美に、毒のある曲は毒々しく、ときにクラリネットもまじえて、ほぼ完璧な表現。いやーーーー堪能しました。傑作!
「FABLES」(TZADIK TZ8155)
MARTY EHRLICH
アーリックはクラリネット、バスクラ、アルト、ソプラノ、フルートを演奏。共演者はクレズマーの大物(という認識でいいんだよね?)ハンクス・ネットスカイ(ネツキーと読む説もある。アコーディオンとピアノ)、チューバのマーカス・ロジャス、アコースティックベースギターのジェローム・ハリスというすっごく面白そうなメンバー(実際にはチューバとベースギターの入っているのはたぶん2曲目と8曲目の2曲だけ)。聴いてみると期待にたがわず、めちゃくちゃ良かった。おそらくハンクス・ネットスカイが本アルバムのキーマンとなっているのではないかと思われるが(ほとんどがアーリック〜ネットスカイのデュオなのだ)、ジューイッシュな音楽をベースにしたなんとも美しい演奏の数々だ。アーリックも激しいブロウを抑えて(8曲目はちょっとギャーっという)、ひたすらていねいに、魂が震えるような微細な表現を積み重ねていく。「スクロール」という曲が3バージョン入っていて、それがほかの曲をサンドイッチする構成になっている(1はバスクラ〜クラリネット多重録音とアコーディオンのデュオ。2はクラリネット〜バスクラ多重録音による見事な深い、深すぎるアンサンブル。3はクラリネットとアコーディオンのシンプルかつ荘重な演奏。ただし、途中からチューバが入り、サックスが情熱的にブロウする)。それにしても、アーリックの音はほんとに凄いよなあ。とくにソプラノの美しさにはほとほと驚嘆。サックスというのはこんなにも美しい音の出る楽器なのですよ、皆さん。あ、俺が言うことじゃないか。タイトル(寓話)も意味深だ。ミックスにネッド・ローゼンバーグが参加している。