「’LIVE’AT MONTEREY!」(PACIFIC JAZZ RECORDS TOCJ−50081)
DON ELLIS ORCHESTRA
66年の録音なのだが、聴いていると、変拍子へのこだわりは別にして、非常にサドメルっぽく聞こえる。しかし、サドメルの結成が66年なので、この時代の「ビッグバンドジャズ」というものについて多くのミュージシャンが「これからはこういうのが主流になる!」と同時期に闘志を燃やしていたのではないかと思う。
司会者による端正な紹介に続いて、ドン・エリスによる曲の説明があるのだが、そこまでがフツーの世界で、そのあとエリスのカウントではじまるのは正直、狂気の世界なのである。1曲目は「33 222 1 222」という19拍子の曲だが、この途中に入ってる「1」をカウントしなければ単なる3拍子系の曲なのだ。それをここに「1」を入れたことで、このプログレ的な緊張感とドライヴ感が生まれる。こういう曲でゴリゴリのソロを取るテナーというのはやっぱりかっこいい。そして、なぜかウッドベース3台のアルコ(!)をフィーチュアするというのも変態的でいい。そのあとパーカッション軍団のうえに乗っかってエリスのトランペットがフィーチュアされるが、このあたりになると本当に「33 222 1 222」なのかどうかどうでもよくなってくる。まあ、モードジャズ的なものはそうですよね。まあ、聞きながら数えてたらちゃんとそうなってるみたいである。やっぱり「1」の効果が大きいようです。2曲目「コンチェルト・フォー・トランペット」の冒頭のアナウンスのときに飛行機が来る。この曲はエリスのトランペットが冒頭のフリーリズムから前面に出る演奏で、ちょっとスピリチュアルジャズっぽい響きがあってかっこいい。クラシックっぽい感じもある。そのあとノリノリの5拍子になり、チープ(といったら悪いか)な笛たちが集まって奏でるメロがちょっと中東風にも聴こえる。バリトンサックスとトロンボーンが低音のヴァンプを吹いたあと、エリスが見事なソロをする。エリスはこういうときでも張りのある高音から中音域にかけてしっかりと落ち着いた理知的なフレージングであわてず騒がず……である。カデンツァの張り詰めた雰囲気もすばらしい。5拍子ぐらいだと70年代ジャズだと当たり前なので、普通に楽しく聴ける。ラストのドラムの意気込みがめちゃくちゃいい。ものすごく「大げさ」という気もするが、それぐらいやりたくなるだろう。3曲目は「バッサカリア・アンド・フーガ」というタイトルで、トム・スコットのアルトをフィーチュアしますよ、と宣言してはじまるクラシカル(といってもたとえばスメタナの「モルダウ」みたいな国民楽派とかああいうモーダルな感じ)な雰囲気の曲である。めちゃくちゃかっこいい。えぐいリフで盛り上げるとかインテンポになるあたりとかもバディ・リッチやルイ・ベルソンなどではなく、サドメルなどの硬派なモダンビッグバンドとの共通点を感じる。しかし、MCに反してアルトソロやトランペットソロ(どちらもいい感じなのだが)でガンガン行くというより、アンサンブルを聴かせる曲である。トランペットソロのあとのアンサンブルのノリノリの変態加減がすばらしいです。ラストの4曲目「ニュー・ナイン」というのは9拍子ということにこだわった曲のようだが、あんまり9拍子(のバリエーション)がどーのということにこだわらず、このえげつなくも最高のドラムにびっくりしたほうがいいと思います。いやー、これはドラムが凄い。テナーもがんばっているが、アンサンブルがそれを上回る猛烈な演奏をしていて3回4回聴くだけでは全部を味わえない。そして、オルガンが過激なソロをするが、これもバックの妙味……つまるところはアレンジとリズム(カラフルで強力なパーカッション軍団)がいいのだ。最後に出てくるドン・エリスはアレンジとか変拍子とか関係なくこの時代のトランぺッターとしては最高の演奏を見せる。ウディ・ショウやフレディ・ハバードが目をこするだろうソロ。このアルバムはここを聴かないと……! これはフリージャズにも共通するすさまじいパワーの噴出であって、のちのハンニバル・マービン・ピーターソンなどとも同じものを感じる凄さである。エリスの壮絶でヒリついたソロが変拍子がどーのこーのですげーんだ、みたいな評価に埋没しないでほしいと思います。傑作!
「DON ELLIS AT FILLMORE」(SONY MUSIC LABELS SICP 4278〜9)
DON ELLIS
フィルモアで演ることの意味……みたいなことはよくわからないが、マイルスの例のアルバムのことを思っても、フィルモア=ロックファンということで、ここで演奏することはロックの殿堂で「わしらはぶちかますんじゃい」みたいなことなのかと推察される。例のモンタレーのライヴから4年。変拍子でぴりぴりするような空気感のなかでのスウィングを力強くぶち上げていたあの作品は、聴くたびにエリスの意欲とそれが成功した感動を味わうことができる傑作だと思うが、本作はガラッと趣向を変えたアルバム。ロックリズム〜エレクトリックなサウンドに移行した……と言われており、たしかに激しくストレートなビートとエレキギターなどのフィーチュアぶりから、そう受け取られてもおかしくはないが、1曲目のエリスの曲が4+5の変拍子であることをみても、やっぱりドン・エリスはドン・エリスなのだ。全編を通じてとにかく大活躍なのがドラムでふたりの名前がパーソネルに書かれていて、どっちがどっちだかわからないが、とにかくめちゃくちゃタイトでテクニックがあるドラマーふたりがバリバリに叩きまくっていることはまちがいない(ラルフ・ハンフリーというひとはフランク・ザッパに引き抜かれたとのことなので、このひとかもしれない。とにかくこのバンドの魅力のかなりの部分をドラムの凄さが占めていることはまちがいない)。1曲目の後半でトランペット(?)とドラムが息の長いフレーズでタイマンをはるような部分が延々と続き、すさまじい。2ドラムとコンガのトリオになり、そのあたりもたぶんめちゃくちゃウケただろうと思う。過激なロックビートの合間にスウィングっぽい、ゆるいサックスセクションのハーモニーが聞こえたり……と一筋縄ではいかないのである。2曲目はジョン・クレマーの曲で自身のテナーも無伴奏ソロなどでフィーチュアしまくっている。このあたりはまさにクレマーの音楽性そのままなのである。途中、声であおっているのはエリスかも。3曲目は3+5の曲……ですよね。短い演奏である。4曲目はプランジャー(?)トランペットが無伴奏でフィーチュアされ、そのまま4ビートジャズの重厚なアンサンブルに移行するが、ここはエリントンのパロディというかトリビューションなのだろう。これがドン・エリスなのか他のメンバーかどうかは私のアホ耳ではわからないが、すばらしい演奏ではないでしょうか。5曲目は牧歌的な曲調で、だれだかわからないが豪快なテナー(サム・ファルゾーンらしい)がフィーチュアされる。6曲目はゆったりした曲だがじつは7拍子(ですよね?)というひねった曲。一枚目最後の7曲目は……これは6曲目のエンディングということなのか、超短い演奏なのかよくわからん。
2枚目の冒頭はディストーションをかけたギターのようなノイズ(トランペットかなあ……)ではじまるが、これが過激で強烈といえば強烈、アホといえばアホ……な感じで笑ってしまう。大袈裟やねん。そのあと「ヘイ・ジュード」になるのだが、よく知られたメロディをとにかくいじめてやれ、みたいな雰囲気のあと、なんだか牧歌的になったり、テケテケの「エレキ」な感じになったりしてここも笑うところである。ラストはまたトランペットのハーモナイザー的な音のソロになって、最後は突然ビッグバンドジャズ的なサウンドになる。これもギャグなのか、それともシリアスなのか。つぎの曲はけっこう露骨な変拍子(七拍子?)だが、結局エリスの狙いは変拍子の曲をロックのように見せかけて演奏するということだったのか……。3曲目はトランペットをフィーチュアしたバラードっぽい曲だが、ドラムが爆発しているのでめちゃくちゃかっこいい。トランペットの無伴奏ソロの部分もすごくがんばっている(エリスか? だとしたらすごい実力のひとだよねー)。4曲目はジョン・クレマー(だと思う)テナーががんがんぶちかましていて、正直こういう曲の方が楽しい。アルトもかなりがんばっていて、この二枚組のクライマックスを形作っているような気がする。エンディングの前あたりの混沌としたなかでのブチかましと、それに続く展開はすばらしい。観衆の盛り上がりも最高潮で、思わずギャハハハハとわらってしまうような展開である。ラストの5曲目はカントリー・アンド・ウエスタン的な曲調のアップテンポの曲だがじつは7拍子という、どういう意味があるのかわからん趣向で、一種のソロ回し曲。テナー〜エレピ〜トランペット(ペダルトーンを駆使したパーカッシヴな演奏。この2枚組中いちばんアグレッシヴで面白いソロかも)〜ドラムの競演となり、全体の雰囲気としては完全にベイシー路線の正統ビッグバンドジャズ的なアレンジで、そういう風に楽しめるのだ。
うーん、なぜ7拍子なのか。不思議ふしぎ。ドン・エリスの演奏についてはよく「彼は〇〇拍子でもスウィングすることを証明してみせた」とか言われるのだか、なぜ「〇〇拍子で演奏したかったのか」は評論家は書いていないのだ。4拍子系でいいのに(というか聴いた印象としては4ビートや8ビートの演奏と同等の感銘を受ける)なぜ……といつも思います。「必然性」というやつでしょうか。しかし、こういうプログレタイプのビッグバンドは、その変態的枠組みが奔放さを抑制してしまいがちなのかもしれないが、エリスのバンドはそんなこともなく自由なので、そこがかえって「なんで……?」と思ってしまうのである。
というわけで、変拍子のひりひりした音楽からロックに転向しました的に言われているかもしれないエリスだが、実際はまったくそんなことはなく、変拍子の嵐なのです。今なら「普通」かもしれないこれらの演奏がものすごくいきいきと熱気をともなってフィルモアでぶちかまされているのは感動であります。11曲中、リーダーのドン・エリスの曲が5曲。ソロイストでもあるジョン・クレマーの曲が2曲、ビートルズナンバーが1曲、
1枚目の6曲目と2枚目の2曲目を提供しているハンク・レヴィは「モンタレー」でも曲を提供していたアレンジャー。1枚目の3曲目を提供しているのはフレッド・セルデンである。