emerson lake & palmer

「TARKUS」(SHOUT FACTORY 826663−10448)
EMERSON LAKE & PALMER

 約30年ぶりに聴いた。プログレなるものは、学生のころ軽音ロックのベース弾きがプログレ好きで、いらんと言うとるのに、むりやりレコードを大量に貸し付けられたのだ。イエスとかピンクフロイドとかクリムゾンとかそういったものをいっぺんにまとめて聴かされたので、わけがわからなくなり、はあー、こういうものですか、と思っただけに終わった。だから、いわゆる「プログレ体験」みたいなものはないのです。そのときまとめて聴いたなかにELPもあったと思う。だいたい、そいつが貸してくれたアルバムはどれもすり減っていて全体が白く粉をふいているような状態で、かけるとスクラッチノイズがひどすぎて、内容云々よりもそっちが気になってしかたない、というようなものばかりだった。そのことを言うと、本人は「ノイズなんか関係ない。ええやろ? な、ええやろ?」というばかりで、つまり、あまりにそれらの盤を愛しすぎていて、スクラッチなんか気にもしていないのだ(耳に入っていないらしい)。しかし、はじめて聴く人間にとってはただの雑音である。あと、SF関係者にはなぜかプログレのウケがよく、SF大会では毎回プログレの部屋が企画されるし、難波博之などのライヴも催されるが、昔はSFといえばジャズだったのでは? 山下洋輔とかさ……と思う旧弊な人間にとってはSF=プログレみたいな図式はなんーか面白くない。というわけで、私のプログレへの理解は、決して好意的なものばかりではないのだが、変拍子の魅力とインプロヴィゼイション、なおかつキャッチーさを保つ音楽性というあたりはめちゃめちゃかっこいいと思う。変拍子というのは現代音楽でもよく使用されるわけだが、プログレのそれはまるでとりつかれたようなこだわりを感じるし、よい意味でのしつこさが底に感じられる。ジャズだと、ドン・エリスをのぞいては、変拍子、変拍子とこだわっていたミュージシャンはあまりいないわけで、そういうあたりはプログレのほうが私にははるかに好ましい。で、ですね、最近、アルタード・ステイツのキング・クリムゾン再現とかもあって、いろいろとプログレなるものを聞き返していたのだが、やはりそういう年齢のときにがっつり聴いたという原体験がないので、なるほどかっこええなあぐらいの感想だったが、例の『ウンディーネ』という超傑作アルバムを聴いて、冒頭にも書いたように「タルカス」を30ねんぶりに聴いてみたわけです。おおおおおっ、かっこええ。なーるほど、これはたしかにかっこええわ。リフがキャッチーなので変拍子がそれと気づかないほどだが、独特の緊張感は伝わってくる。たった3人なのにオーケストラのような荘厳なサウンドが展開されていて、しかもジャズ的な即興の部分もスピード感があり、すばらしい。最後の曲は、なぜか突然リズムアンドブルースというかヒルビリーみたいな曲調でめんくらうが、これもなんかようわからんけど意味があるのでしょう。私がぐだぐだとここでなにかを述べるような作品ではないので、ここらで口をつぐもう。今回、10回ぐらいリピートして聴いたので、少しは「タルカス」が身に染みこんだと思う。プログレについて語ることは指先ほどもないけれど、「タルカス」については指先ぐらいは応対できまっせ(たぶん)。でも、今気がついたけど、これって管楽器が入ってないんだよね。どうでもいいこと? いやいや……。