「PHASE1」(EMIKO SEGAWA ECLC−003)
EMIKO × DAIRO SUGA
「実力派ボーカリストEMIKO待望のデビュー作は、フリージャズピアニスト、スガダイローによる大胆不敵、空前絶後のピアノとの新感覚デュオ」という帯のあおりを読むと、これは聴かねば! と思うわけだが、そのあとに書かれている「大人の夜のジャズ」という締めの一言はよくわからんなあ、と言いつつ、とりあえず聴いてみた。全曲、ボーカリスト本人による解説がついているのだが、1曲目に関する「リズムをキープしない、フリースタイルな彼のピアノのうえでは歌うほうは必死」と書いてある。うーん、聴いたかぎりではピアノはずっとリズムキープしているし、とくにフリーな感じもなく、めちゃめちゃちゃんとした歌伴に聴こえる。2曲目のスキャットなどは正直言ってジャズボーカルというものに無知な私には善し悪しがさっぱりわからないのだが、うーん……もっとがっぷり四つでバトルしたらいいのに、と思ってしまうのは無知ゆえか。とにかく全編、ものすごーくしっかりとちゃんとしたすばらしいスガダイローのジャズピアノが聴ける。4曲目のボーカリスト本人解説には「曲のコード感は完全に無視されています」とあるが、じつはこの曲がいちばん聴きやすかった。「無視されている」というより「コード感を出すまい」というコンセプトのアレンジなので、「無視」という言い方はちょっと誤解を招くかも。いちばん過激なスタイルなのは5曲目だが、これとてフリーというよりパッションが先行した感じで聴きやすい。7曲目はマイルスの「リトル・ウィリー・リープス」でいわゆるバップボーカリーズ的な演奏なのだが、ボーカルのかたの声がかわいらしくて、つい微笑んでしまう。8曲目はおなじみの「ムーディーズ・ムード」だが、ピアノが怒濤の迫力すぎて、リズムは大木のようにしっかりしているしフレーズも多彩でちょっと対等感がないが、そこがおもしろい。9曲目は手垢のついた「バイバイブラックバード」をちょっとハーモニーをいじったりしてかっこよくしているところが聞き物。ただ、ピアノがずっとしっかりドライブしているので、なんら聴きにくいとか前衛な感じはない。ただただかっこいい。本作中の白眉といえる内容かも。最後も手垢のついた感のある「ザ・マン・アイ・ラヴ」だが、それをどう「今の音」として聴かせてくれるのか期待していると、最初はずっとものすごく当たり前の展開で、ピアノソロになったあたりからアクセントのつけかたがキツイ感じになり、ここはほんとにすばらしい。前半のアンニュイな「ジャズボーカル」とのギャップがすごい(というか、なにを考えとるのか)。そこにふたたびボーカルが入ってくるあたりのわけのわからないかっこよさはなんともいえない。つまり、最初の部分のボーカルの普通さは伏線だったと考えられるわけで、ちょっと凝った仕掛けになっている。たぶんこれがEMIKOというひとの実力のすべてではなく、ちょっと見せてみました的なものだろうからこのアルバムだけで推し量るわけにはいかないと思いました。