booker ervin

「STRUCTURALLY SOUND」(PACIFFIC JAZZ TOCJ−50131)
BOOKER ERVIN

 傑作です! アーヴィンのフレーズのラストで音程を下げる感じがよくも悪くもこのひとの個性なのだと思う。これが嫌だというひともいると思う。私もそうでした。あと、ラーセンメタルの音色も独特で、もしリンクだったらどんな音を出しただろうと想像したりする。トランペットを相棒にするときは、ウディ・ショウやカーメル・ジョーンズ、リチャード・ウィリアムス、そして本作でのチャールズ・トリヴァー(全編ヒリつくぐらいすごい熱気のソロを繰り広げている)などやや硬派なひとと組むことも多かったような気がする(トリヴァーやショウは同時期のジャッキー・マクリーンの相棒でもあるかも)。ピアノがジョン・ヒックス(勢いがモーレツなので心をつかまれる!)かっこよすぎる)で、ベースがレッド・ミッチェル、ドラムがレニー・マクブラウンという大物揃いなので悪いわけはない。めちゃくちゃテクニックがあり、音楽性も凄いのに、どこか「妙」な感じというか異物感というか異様さがあるのは、唐突にフラジオを吹いたり、早吹きをぶち込んだり、繰り返しを多用したりするこの性格が一筋縄ではいかない個性を感じさせるのだろう。私も昔はよくわからなかったが、今ではブッカー・アーヴィンが唯一無二の存在であることが貴重に思う。さすがはミンガスバンドにいたひとだ。あんまりアーヴィンのことをテキサステナーとは思わないのだが、こういうアクの強さを耳にするとやはりテキサステナーという感じはする。CDには「シャイニー・ストッキングス」と「ホワイト・クリスマス」という美味しい未発表が付け加えられ、2曲の別テイクも収録されてより充実したものになっている。どの曲も5分前後の長さだが、テナーもトランペットもピアノも手応えのあるソロを繰り広げていて腹いっぱいになる。

「TEX BOOK TENOR」(BLUE NOTE RECORDS 0946 3 11439 2 2)
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 かっこいい! とくにロングトーン! ブッカー・アーヴィンのアルバムのなかではいちばん硬派というかハードバップから抜け出したものではないかと思う。ウディ・ショウやケニー・バロン、ビリー・ヒギンズといったサイドマンの音楽性を見事に吸い上げて自分のものとし、いつもどおりのテキサスの一徹親父といった、身の引き締まるようなシリアスなブロウはそのままに、モーダルかつスピリチュアルな演奏に対応している。39歳の若さで亡くなる2年まえであることを考えると、このあと長生きしていたらどんなすごいテナーマンになっていたかとどうしても考えてしまう。1曲目はケニー・バロンのまさにモーダルかつスピリチュアルな曲でアーヴィンのロングトーンが空間をひりつかせて厳しい。その雰囲気をクールダウンするようなウディ・ショウの落ち着いたソロ、ケニー・バロンの水面をキラキラとかき回すようなモーダルなソロは最高です。2曲目はアーヴィンの曲で、マイナーのファンキーチューンのように聞こえるが、かなりゴリゴリのブロウで、豪快でしかもコルトレーン的な新しい表現に挑戦している「空気」がひしひしと伝わってくる。フレーズの最後にピッチを下げる癖はあいかわらずである。ウディ・ショウとバロンはここでも完璧にアーヴィンに寄り添いつつ自分たちの演奏をぶちかましている。3曲目はウディ・ショウの「イン・ナ・カプリコーニアン・ウェイ」で、ウディのファンにはめちゃくちゃおなじみの曲である。まるで自分の曲のようにアーヴィンが奔放にテナーを吹きまくっているのがすばらしい。ウディが、さすがに緊張感あふれるぶりぶりのソロをしていて聞き惚れる。4曲目はアーヴィンの曲で、歌ものみたいな感じのかわいらしい曲だが、ここでウディ・ショウとケニー・バロンの歌心あふれるソロに続いてアーヴィンが豪快にテナーを吹く……この感じはこれまでのアーヴィンとこれからのアーヴィンを象徴しているように思える……が、彼の死によってその先の展開は断たれてしまった。最後の5曲目もアーヴィンの曲で超アップテンポのマイナー曲。アーヴィンは超絶テクでこのテンポをバリバリと吹き切ってリスナーを圧倒する。フラジオの使い方もエグいのだが、とにかく全編本作の白眉としか言いようがない圧倒的なブロウである。そこにウディが煽りまくるような演奏で参戦する。ここはもうウディの独擅場で、ブルーノートにその足跡を残したショウのフレージングとテンションを堪能するしかない。つづくバロンもひりひりするようなピアノで、めちゃくちゃかっこいい。とにかく全員が「ここからどこかに行こう」という感じで、しかもそれはフリージャズの方向性ではないので、もっと出口がない、凄まじいエネルギーの行き場所を必死で探しているような……うまく言えないがとにかくこの2年後にアーヴィンが亡くなったのは本当に残念です。傑作。