「LIVE AT FIREHOUSE 12」(SUNNYSIDE COMMUNICATIONS SSC 1379)
THE WAYNE ESCOFFERY QUINTET
テナーのウェイン・エスカファリイのクインテットによるライヴ。ワンホーンでピアノとキーボードがひとりずつ参加している。シンセがさまざまな音(水の流れる音やストリングスによるオーケスラ的な音などいろいろ)を操って周到に用意した隙のない「場」のなかでテナーがそこに太い筆で墨痕黒々とした文字を描いていくような1曲目、それをクインテットという形で一歩進めた感のある2曲目。テナー自体はいわゆるジャズテナーのスタイルで真摯に吹く感じで、低音部での運指のコントロールから高音部やフラジオでの縦横の吹きまくりに至るまで、現代のジャズテナーのテクニックをきちんと身に着けているひとだと思うが(音程とかもピシッとしている)、やはり完全に行き届いた構築が本作を聴きものにしている。なんといってもピアノとキーボードを併用したメンバー構成とジェイソン・ブラウンのすばらしいドラムが要でありましょう。とくにドラムの圧倒的なプレイはほれぼれする。逆にいうと、リーダーによる隅々にまで目が行き届き過ぎたそつのなさが「破綻がないよねえ」とおっさん的ジャズファンの憎まれ口を引き出すかもなあ、と思う程度である。キーボードがふたりという編成も即興を大事にするライヴという場では絶妙の効果を挙げていると思う。1曲を除いてオリジナルという気合いもいい(ただし1曲目はエスカファリイとキーボードのライヒェル Zの共作)。聞いているときはひたすら気持ちよかったのだが、聴き終えて感じたのはおなじ名前(ウェイン)のテナー奏者のことである。ショーターのようなえげつない変態性はなくて、そういう真面目さがこのぐらいのジャズミュージシャンには共通しているような気もするが、それでもかっこいいので問題ない。真面目のどこが悪いのだ。コルトレーンを見よ。というか、このひとのプレイは音色もスタイルもかなりコルトレーンを意識しているようにも聞こえる。私はめちゃ好きです。ラストの4曲目はかなりながいテナーの無伴奏のイントロがあって、そこも聞きどころ。正直、ドラムを聞いているだけでも気持ちいいアルバム。ドラムがどんなに速い曲でも3連や16分をベースに叩いているように聞こえて、わくわくします。