ellery eskelin

「PREMONITION」(PRIME SOURCE CD2010)
ELLERY ESKELIN

 しっかりしたリアルトーンのうえに積み上げられた即興で、ひじょうにテクニシャンでもあり、フレーズも多彩で、ジーン・アモンズを尊敬していてマクダフバンドにいた経験があるだけあってブルージーなブロウもみせ、フリーキーな絶叫もできる。それなのに……ああそれなのにそれなのに、なぜ心が踊らないのだろうか。3回聞き返してみたが、どうも途中でふっとこちらの集中力がとぎれる瞬間があり、そこからはもう興味が戻らない。いつもどこかで、聴き手である私が森へ迷いこんだみたいに置いてきぼりにされてしまう。それで気づいたのだが、私が好きなサックスソロと彼のソロのちがいというのは、どうやらサックスソロを独立した演奏形態とみているかどうかによるのではないか。つまり、エスケリンのソロというのは、どこをとってもサックスのカデンツァに聞こえるのだ。コルトレーンの「ライヴ・アット・バードランド」の「アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー」の最後、延々とコルトレーンがソロで吹きまくるところがあるが、あの部分だけをクローズアップした感じで、実際にはそのまえにちゃんとリズムセクションとの演奏があって、そこをカットしたような……。うまく表現できないが、なんかそんな雰囲気なのだ。チューンをやる場合も、たとえばデヴィッド・マレイがソロでスタンダードをやっても、それは「ソロによるスタンダード」にきこえるのだが、エスケリンのは「スタンダードのカデンツァ」もしくは「スタンダードの家での練習」にきこえる。これは、たぶんサックスソロに対する考え方が根本的にちがうのだろうと思う。ラストでベサメ・ムーチョをやっているが、なぜかチープなリズムボックスとともに演奏しており、これはいらんやろ。