「LET THE JUICE LOOSE」(PONY CANYON/JAZZ CITY PCCY−00054)
BILL EVANS GROUP LIVE AT BLUE NOTE TOKYO
このアルバムはめちゃくちゃ好きなのだが、久しぶりに聞いてみてその理由がわかったような気がする。マイルス復活盤である「ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン」などで突然名を知られることになったビル・エヴァンスだが、そのたった8年後の堂々たる演奏である。ぶりぶり弾きまくるダリル・ジョーンズ(ミスター・グルーヴと紹介される)のファンクなチョッパー、デニス・チェンバースの馬鹿テクかつドカドカ……と腹に響くドラムという重量感あふれるリズムセクションの凄さもあるのだが、なんといってもまだ31歳の、若くて溌剌としたリーダーのすばらしいブロウ、そして大物ミュージシャンたちを見事に仕切るリーダーっぷりが凄い。シンセの使い手でコンポーザーとしてもすごいジム・ビアード(8曲目で聴かせるピアノも凄い)、歌いまくるギタリストとしてフュージョンシーンにはかかせないチャック・ローブの活躍もある。このころのフュージョンの特徴といってもいいかもしれない凝りまくったアレンジの妙もある。しかし、とにかくエヴァンスのキレキレのブロウによって引っ張られたメンバーが完全に一体化して、燃え上がる火球のようにぶっ飛んでいくさまが感動を呼ぶのだ。4ビートの曲は1曲もないのだが(6曲目はちょっとシャッフルっぽい)、これをジャズじゃないというひとはまあいないだろう(ステップスとか、4ビートなのに「ジャズじゃない」というひとがいっぱいいたから、もしかしたらいるのかもなあ)。まあ、カテゴリーは知らんけど、ストレートアヘッドな熱い音楽だと思う。マイルスとやってたころは「長いソロを吹いたら自分で飽きてしまう」とか現代っ子ぶりをアピールしていたが、ここではソロの途中で合図を出してクールダウンする親分(マイルス)もおらず、フリーキーな表現にまで至るほどの熱血ブロウを聴かせてくれる。テナーは(3曲目でわかるように)シャープで細身でエッジの立った音……という当時の流行りではなく、かなりぶっとい、テナーサックスの王道的な音を聴かせてくれるが、ソプラノでは抑制の利いた、一音一音を愛おしむような吹き方をしていて、これまた最高なのだ(7曲目では、冒頭のバラードっぽい部分はソプラノで吹いていて、途中からのドラムとデュオになる部分はテナーに持ち替えている)。サックスの全音域を使って頭の血管がぶちぎれるぐらいゴリゴリに吹きまくっていても、ソロパートが終わったら、びしっとアンサンブルに戻るあたりのクールネスがまたかっこいいのだが、そういう感じはマイケル・ブレッカーとも共通するかもしれない。バンドとしてのサウンドはもちろんだが、7曲目のデニス・チェンバースとのガチンコのデュオ部分の過激さは筆舌に尽くしがたいぐらいのえげつなさでボーゼンとするし、ラストの「クウィッチュア・ペリアキン(文句を言うなよ)」という曲の冒頭でのテナーの無伴奏ソロ(3分ぐらいある)も聴きものである。ビル・エヴァンス凄い! 全編圧倒的な快演ばかりで、聴きごたえありまくりの傑作であります。でも……ジャケットが青すぎる!