douglas ewart

「NEWBEINGS」(AARAWAK AA005)
DOUGLAS R.EWART AND INVENTIONS

 ダグラス・ユアートのこの名前のグループはときどきいろいろなコンセプトでアルバムを出しているようだが(全然聴けてないです)、本作はパーカッションと朗読で、各地のミュージシャン(?)が参加している。ユアートは基本的にソプラニーノが中心で、それをまるで民族楽器のように吹いている。一曲目はソプラニーノのひとりデュエット(だと思う)。幽玄な世界。2曲目は「ブラック・ウーマン」というタイトルだが、和旋律を感じる。3本のソプラニーノが重ねてあるが、「間」もインタープレイ的なものもすばらしく、ひとりアンサンブルとは思えない出来。3曲目はアルバムタイトルチューンでもある。ユアートはソプラニーノだけでなく、ピアノ、ゴング、ヴォイス、エレクトロニクス、各種パーカッション、民族楽器的な笛、ディジリドゥなどを駆使している。そこに、各地の(おそらく)パフォーマーたちが加わり、一種の演劇的な空間を作り出しているようだが、かなりスピリチュアルな内容らしく、断片は聞き取れるものの全体的にはよくわからない。ただ、圧倒的に濃厚な演奏。4曲目はソプラニーノ二本を重ねた演奏。クアコ(と読むのか?)という奴隷が主導した、1712年にニューヨークで起きたガーナのコロマンティー族の反乱をテーマにしているらしい。この反乱では結果6人の黒人が自殺し、27人が逮捕され、そのうち21人が火あぶりの刑などに処せられた(妊娠中の女性も含まれていた)。そういう背景を知らなくても、とにかく非常に感動的な美しさのある、リリシズムあふれる演奏。5曲目は「ソング・フォー・チルドレン」という曲で、子どもの教育に携わっていたときに、楽譜が読めない子どものためにグラフィックなスコアを書いてみたというものらしい。ソプラニーノの無伴奏ソロで非常に説得力がある。6曲目は二本のソプラニーノが重ねてある。7曲目はダビングなしのソロで、かなり哀愁のメロだが、パッショネイトな演奏でもある。
 ダグラス・ユアートは2024年の時点で78歳である。なので、このアルバム録音時はなんと55歳で、私の今の年齢より若いのだ。本作のジャケットには音楽的な情報と並んで「AACMの36周年を寿ぐ」とか「水を浪費するな! 使ってないときは電気を消せ」とかのメッセージがあちこちに書き込まれていて、主張もぐいぐい来てる感じ。いやー、堪能しました。傑作! なお、ライナーはワダダ・レオ・スミスが書いている。