joe farrell

「VIM’N’VIGOR」(TIMELESS SJP197)
JOE FARRELL−LOUIS HAYES QUARTET

 なんやねん、このジャケットは、と憤っているかたも多いでしょう。女性ボディビルダーがビキニを着てコントラバスを演奏しているアップなのだ。ジョー・ファレルとルイス・ヘイズの双頭バンドなのに、なぜコントラバス? それに、だいたいなぜ女性ボディビルダー? 裏ジャケットには、この女性がポーズを決めている写真が6枚掲載されている。アルバムタイトルにもなっている「ヴィム・アンド・ヴィガー」というのは元気はつらつとか精力もりもりというような意味らしいが、それにひっかけてあるのか?ライナーノートを書いているトッド・バルカンというひとが、このジャケットのコンセプトを決めたらしいが、ライナーを読んでも、なんでこんなわけのわからんジャケットにしたのかということは書いていない。ちなみに、この女性はミス・オランダでマリー・ホセ・ヴァン・デル・ラーンというひとらしい(どうでもいいけど)。さて、内容だが、じつは早世したファレルには申し訳ないが、私はずっとファレルが苦手なのでありまして、テナーならたいていのひとが好きな私だが、ファレルはあきまへんねん。理由は単純で、あのラーセンのラバーの音がダメなのだ。ラーセンというマウスピースは、たいがい良い音、心地よい音を作り出すが、ときどき私にとってちょっと受け付けない音になるときがあって、ファレルはその典型なのです。そんな、音の多少のちがいぐらいどうでもええやんか、と怒るひともおられるだろうが、これは案外大問題なのでありますよ。だから、エルヴィンとやっているやつも、リターン・トゥ・フォーエバーもあの「スケート・ボード・パーク」あたりも、私はあんまり聴かないのです。ところが、なぜかこのアルバムだけは、このアルバムでのファレルだけはそういう拒絶感が出ないのである。ソプラノやフルートが多いから? いや、そうでもないようで、A面1曲目はソプラノによる曲(ファレルの曲だが、非常に丁寧にすばらしいソロをしていると思う)、2曲目の「ベサメ・ムーチョ」はフルートによる演奏(これもめちゃいい。フルート、あほみたいにうまいぞ)だが、3曲目の「スリー・リトル・ワーズ」はルイス・ヘイズとファレルのテナーのデュオで幕ををけ、延々とふたりで演奏するのだが、この部分なんか垂涎で、めっちゃかっこいいし、うまいし、音もいいし、大好きなのである。なんで、このアルバムだけいけるのかよくわからんが、とにかく本作でのファレルはめちゃめちゃ好きなのだ。個人的にはこのA3の「スリー・リトル・ワーズ」での神業的ブロウ(ほんまにすごいです)が本作の白眉だと思う。A1やB1「マイルス・モード」(これもめちゃかっこいい)でのソプラノではコルトレーン的なアプローチをしているのだが、A3のドラムとのデュエットでは、もろハードバップ的なフレージングでそのうまさに驚く。ラストの曲はタイトルチューンで、本作でもっとも長尺な演奏。バラードかと思ってかなり長いイントロを聴いていたら、インテンポになると一転、じつはファンキーなミディアムテンポのブルースなのだった。ここでのファレルも、基本的にはハードバッパー的なフレージングで押す(ちょっと長すぎて後半、フレーズが出てこないような箇所も多々あり。でも、とにかくひたすら死ぬまでやる、という感じのブルースなので、そういうあたりもドキュメントとして聴き所。「ラメント・フォー・ブッカー・アーヴィン」を思い出したりして)。とにかくほかの作品はいざ知らず、本作でのファレルは死ぬほど好きなのです。個人的意見では、本作はファレル生涯の大傑作だと思っている。それがこのジャケットとはなあ……という気持ちと、いやいや、そういうのにこういうジャケットというのもおもろいやん、という気持ちが入り乱れている今日このごろであります。