「SAMUEL」(NEW WORLDS RECORDS 80695−2)
SCOTT FIELDS ENSEMBLE
スコット・フィールズのギターに、ジョン・ホーレンベックのパーカッション、スコット・ローラーのチェロ、マティアス・シューベルトのテナーサックスが加わったカルテット。タイトル通り、サミュエル・ベケットの戯曲「私じゃない」「幽霊トリオ」「ねえ、ジョー」の3作にインスパイアされた曲なのだが(「ベケット」というアルバムも出ていて本作はその続編)、どのように音楽化しているのかはよくわからない。ドン・ウォーバートンというひとによるかなり長文のライナーというか解説がついているのだが、一生懸命読んだが、結局どのように戯曲を音楽に移し替えているのかはわからなかった。単純に「戯曲を読んで、そこから得た感じで即興演奏しました」というものでないことは明らかだ。かなりの部分が即興だと思われるのだが一応のテーマらしきものやキメ(?)があるので、もしかすると細かく書き込まれた譜面やコンダクション、なにかの合図、ルールなどがあるのかもしれない(とくに3曲目はそうとうしっかりアレンジしてある)。ライナーには「インスパイアド・バイ」ではなく「ベースド・オン」とあるので、スコット・フィールズは戯曲を独自の方法で音楽に移行させたのだと思うが、それは雰囲気とかだけじゃなくてベケットの書いた言葉そのものに基づいているのだ(とライナーに書いてある)。でも、結局、よくわからない(私の英語読解力のなさのせいです)。そのあたりを知りたいんだけどなあ。まあ、そんなことはどうでもよくて、単純にすばらしい即興だとして聴くという考え方もある(実際、めちゃめちゃいい演奏なのだ)。スコット・フィールズの人選は大成功で、チェロもパーカッションもリーダーの意図を完璧に把握してそこに貢献している。とくにシューベルトのテナーはか細い音からエッジのたった力強い音、サブトーンまで表現力が半端ではなく、聴いているだけで心地よい。音色のちょっとした変化やアーティキュレイションなどでじつに繊細な表現を試みている。たとえば、同じ音を続けて出すときもニュアンスを変えたり、ハーモニクスなどもギャーッといわない抑えた吹き方がいい。正直、このひとはほかではギャオオオッ、ギョエーッ、ピーギャー、とフリークトーンを吹きまくったり、すごいテクニックでフレーズを吹いたりするので、この抑えた演奏における充実感は予想外だった。3曲目の最後のほうで急にジャズっぽいブロウをするが、あそこは「いつものシューベルト」という感じだった)。でも、よかった。というか、ほかの4人もほぼ同じようなタイプのひとを集めているような気がする。というわけで、いろいろ謎が残ったが、すごくいいアルバムでした。