「WHIRL OF NOTHINGNESS」(FAMILY VINEYARD FV43)
PAUL FLAHERTY
誰やねん、このハゲで白ヒゲのめっちゃ長いジジイは……ダーウィンか? といいたくなるほど、このひとに対する知識のなかった私だが、そうかすごく有名なひとだったのね。知らなんだ、ああ知らなんだ。というわけで、とりあえずアルトとテナーを吹くこのポール・フラハーティというジジイのサックスソロアルバムを聴いてみた。とにかく曲名が長くておおげさ。「コンパッション・ロスト・アンド・ファウンド・アゲイン」とか「スウィートリー・ダンスド・イン・タイムズ・オブ・ハートフル・プレジュア」とか「イフ・ユー・ステップ・バック・ファー・イナフ……イット・ル・ビー・オール・ライト」とか……どうせ全部即興なので、後付けでこういうおおげさなタイトルをつけるというあたりで、このジジイの感性が尋常ではない、というか異常、というか、アホというのがよくわかっておもしろい。演奏も、これがなかなかいいんですよ。ただ、おおっ、という驚きも、すげーっ、という感動もそれほどなく、外観その他からこちらが勝手に予想していた際物性というかでたらめさみたいなものも全くなく、逆に、あまりにきっちりサックスを吹くので驚いた。拍子抜けしたといってもいいかも。テクニックもあるし、安定しているし、ギャアギャア叫んでも、ベーシックな部分でサックスがきちんと吹けているので、うるさくない。でも……なんというか、こういう演奏にある程度必要と思われる「狂気」の要素が希薄なのだ。外観は、この爺さん、ムーンドックというか、ダーウィン(さっき書いた)というか、かなりなもんなのだが、音はおとなしめかも。ただ、それはソロというフォーマットのせいかもしれないので、ほかのアルバムを聴いてから判断しなくては。それと、盛り上がるときはかなりガーッといくのだが、どの曲も(これもソロゆえの限界かもしれないが)同じような感じなので、ちょっとダレる部分もある。音色的にはすごく好みなのですが。あと、変なボーカル(叫び?)はよかった。
「THE BELOVED MUSIC」(FAMILY VINEYARD FV39)
PAUL FLAHERTY−CHRIS CORSANO
おもいっきりドラムによりかかった演奏である。このメンツでほかにもアルバムが出ているらしいが、やっぱりこのポール・フラハーティというひとはソロよりも共演者がいたほうがいい。ドラムの刺激でソロのときよりも緊張感のある演奏をする。それに、サックスが単調になっても、ドラムのリズムの多彩さに救われる。というか、全体にサックスがダレそうになるとドラムが活躍する、という感じの演奏である。正直、このサックスは個性には今一歩欠けるところもあるし、徹頭徹尾ぎゃあぎゃあいうだけで深みもないし、ブロッツマンのような乾いた狂気も感じさせないし、諧謔味もない。ずっと直球しか投げないピッチャーみたいなもんだ。しかし、とにかくドラムがものすごくいい。芳垣さんを思わせるような、パワフルかつ手数が多く、テクニック抜群で、場面をどんどん変換していくし、イマジネイティヴな音をぶつけてくるドラマー。めちゃめちゃかっこいい。そんなドラムに助けられて、サックスもがんばり、非常に真っ向勝負でコルトレーン〜ラシッド・アリの伝統に連なる演奏を繰り広げ、好感が持てる。私のいちばん好きなタイプのデュオといっていいかも。こういうひねりのないストレートアヘッドなテナー〜ドラムデュオは実際少なくなっているかも。そういう意味でも貴重である。たしかに、フリージャズというのは、どれだけイマジネーションを出せるかが勝負、という部分があり、その意味でこのサックスのひとはかなり苦しいのだが、このジジイがこの歳(何歳かは知らないが、写真を見るかぎりかなりの年齢では?)でこれだけパワフルにブロウできる、というだけですばらしいことではないか? 応援しますよ、このデュオ。