「FEET MUSIC」(JAZZLAND ACOUSTIC 016−558−2)
ATOMIC
ミュージック・マガジンでえらい評価の高いグループ。だけど、1枚目を聴いたときは、全然よい印象がなく、なーんや、新主流派っぽい感じやなあ、と忘れていた。で、2枚目がめちゃめちゃ評判なので、あわてて1枚目を出してきて聴き直したが、うーん、やっぱり同じような印象だ。つまり、トランペットがあかんすぎ。1曲目とかとくに、音出てへんがな。もろ、バテまくっている感じ。テナーの人は、いいのか悪いのかという以前に、あんまり表に出てこないので、ちょろっとしたソロを聴くかぎりでは「うーん、なかなかええやん」と思うのだが、もっとたっぷり聴かせてもらわないとよくわからん。ピアノはすごくよくて、すごくまともな、モーダルなソロから、モンク〜セシル・テイラー的な奏法まで、個性を発揮する。ドラムはニルセンラヴだし、ベースも有名な人なので(ベースがリーダー格らしい)リズムセクションはもう言うことないのだが、いかんせんラッパがなあ……。たぶん、録音時に最後に録った曲で、もう唇が言うことをきかない状態になっていたのだろうが、そういう状態での曲をアルバムの冒頭にもってくるというのはいかがなものか。このラッパのバテバテ状態を聴くだけで、このアルバム全体の印象が決定してしまったわけで、それはすごくマイナスなことだと思います。曲は、どれもなかなかの佳曲で、アコースティックな編成のなかでコンポジションと即興の融合を目指しているグループという、やる気みたいなものはひしひしと伝わってくるのだが。なお、対等のグループと思われるが、一応、リーダー格のフラーテンの項に入れた。
「BOOM,BOOM」(JAZZLAND ACOUSTIC 0044003824627)
ATOMIC
1枚目が、世評に反していまいちの印象だったアトミックだが、二枚目は、ミュージックマガジンで年間ベスト1位の評価を与えられ、びっくりして聴いてみた。1枚目よりははるかによくて、心配していたトランペットも、かなり荒っぽい、イケイケの演奏ではあるが、エキサイティングなソロを展開している。とくにアップテンポの曲では、ニルセンラヴのドラムにあおられて、プラグドニッケルのマイルスを思わせるブローイングをみせる。やっぱり1枚目の前半の曲は、きっとバテてたんだよなー、と良い方に解釈したくなる。テナーも短いソロスペースに個性をしめし、リズムセクションの好調さはあいかわらずで、シンプルだが味わい深い作曲も1枚目よりもいいかも……というわけで、なるほどこれなら傑作といってもいいなあと思ったが、でもさ、年間ベスト1位といわれると、ちょっと首をかしげてしまう。要するに、私はもっと、ギャーとかグワーとかいうやつが好きなんだろうね。こどもっぽい? ほっといてくれ。今の、4ビートジャズの新譜にあきたらない、大人のジャズファン向けかも。でも、私はもっと、えぐいやつでないとダメみたいです。すいませんすいません。なお、ライナーノートはヴァンダーマークが書いている。
「DOUBLE BASS」(SOFA 511)
INGEBRIGT HAKER FLATEN
こいつはすげーっ。アトミックやヴァンダーマークのスクールデイズ、ガスタフスンのザ・シングなどなどで大活躍中のベース弾きインゲブリッド・ハーカー・フラーテンのソロアルバム。最近、ベースの無伴奏ソロのアルバムをみんなやたらと出しており、なかでは北川潔のものが群を抜いてすばらしかったが、このアルバムは、北川のものがいわゆるモダンジャズの範疇に根底を起き、そこからはみだしていくような自由さが感動を与える仕上がりになっていたのに対して、最初からフリーフォームに根底を置いているにかかわらず、一種の構築美すら感じさせるような鮮烈な演奏になっていて、好対照である。一曲目は「デンジャラス・ミュージック」というタイトルだが、ウッドベース一本で、「たしかにこの演奏はヤバい」と感じさせる、ぎらぎらしたジャックナイフのようなソロを展開するフラーテンはほんとにすげーっ。アルコも指弾きもどちらもよくて、ああ、こんなベース弾きが出てきたんだなあ、それも北欧からなあ……と感慨を覚える。今後、このひとはヨーロッパだけでなく、世界の音楽シーンをリードしていくにちがいない。
「ELISE」(HEMLANDSSANGER COMPUNCTIO COMPCD0029
INGEBRIGT HAKER FLATEN HAKON KORNSTAD
1枚組のくせに箱に入っていたりして、なんだか思わせぶりな作りのアルバムだが、フラーテンとコーンスタのデュオということで、期待半分、まあだいたい予想はつくわなあ的気持ち半分であった。というのは、コーンスタは作品によってはごくフツーのジャズ的プレイをする場合もあるから、そうなってしまうとおもろない、というか私の興味の範疇からはずれるなあ、と思って、とりあえず聴いてみた。すると……うわあ、すいませんでした。私がまったく悪かった。というのは、あまりにすばらしかったからで、しかも、ここでのコーンスタは「ジャズ的」なのである。それなのに、全体が超一級の前衛ジャズに聞こえる。たとえばアーチー・シェップとペデルセンのデュオによるパーカー曲集「ルッキング・フォー・バード」という、私が偏愛しているレコードがあるが、あれなどはひたすらパーカーの曲をふたりでやっているのに、なぜかフリージャズを聴いた満足と感動が聴くたびにあふれる稀有な作品である。そして、本作もまさにそんな感じ。これはもう、コーンスタのテナーももちろんよいのだけれど、かなりの部分、フラーテンの変態かつ正統ベースの力でしょう。ちょっと予想外のパンチを腹にくらったような、そんな傑作だった。びっくり!
「THE YEAR OF THE BOAR」(JAZZLAND RECORDINGS 062517617643)
INGEBRIGT HAKER FLATEN QUINTET
サックスがデイヴ・レンピスだというのに、なぜか購入してしまった。しかし、聞いてみて愕然。めっちゃええやん。もちろんリーダーであるフラーテンの強力なベースがひっぱっているし、随所にナイフのように鋭く、ド迫力の低音を響かせているのがすべての鍵であることは承知のうえで、レンピスの圧倒的なブロウが本作に多大な貢献をしているという点を大々々評価したい。アルトだけでなく、テナーとバリサクもよい。ジェフ・パーカーのギターとオラなんとかかんとか(読めん)というひとのバイオリンもよい。こういうのが現代のアンサンブルなのだろうな。しかし、デイヴ・レンピス、最近どんどんよくなっていて(というのも上から目線の言い方でいやなのだが)、最初ヴァンダーマーク5に入ったときは、まったく好みではなかったのに、いつのまにかすごく好きになってしまった。やられたなあ……。