jimmy forrest

「NIGHT TRAIN」(DELMARK RECORDS DL−435)
JIMMY FORREST

 ジミー・フォレストといえば「ナイト・トレイン」だが、私がはじめてその演奏を聴いたのは映画「カンサスシティジャズの侍たち」をサンケイホールに観にいったときだった。大画面いっぱいに映し出されたフォレストが、ベイシーオーケストラをバックに、ブルースシンガーのようにテナーでシャウトするその大迫力に小便をちびりそうになった。そこで、フォレストが「ナイト・トレイン」をベイシーバンドで演奏しているアルバムを探したのだが、そんなものは存在しない。なんでやねんと思っていたころに発売されたのが、デルマーク音源をPヴァインが日本編集したブラックミュージックシリーズの1枚「サックス・ブロワーズ・アンド・ホンカーズ」だった。これは今聴いてもよくできた編集盤だと思うし、サヴォイ音源の「ハックルバック・ライング・オン・ヒズ・バック」とともにあの時期日本にホンカーを紹介するには格好のアルバムだったと思うが、そのA−1に入っていたのがこの「ナイト・トレイン」に入ってるまさにこの音源だった。コンガが入った、のんびりしたテンポの演奏で、しかも異様にエコーがきいている。ベイシーでの壮絶なブロウを期待した私は「えっ」と思ったが、考えてみると、この曲は夜汽車ががったんごっとんとのんびり進んでいくさまをあらわしたものだから、こういう感じでいいのだ。速いテンポで演奏すると、エリントンの「ハッピー・ゴー・ラッキー・ローカル」になる。エコー過多なのも、ここに収められた短い音源はどれも、ユナイテッドという(たぶん)ローカルレーベルに、(たぶん)ジュークボックス用として録音されたものだと思われるので、これぐらいチープにうわんうわんいってたほうが味わい深い。しかし、内容はとにかくすばらしくて、どの曲もフォレストの圧倒的な音量・音質とテクニックに裏付けられた歌心と完璧なホンキングが聴ける。「ソフィスティケイテッド・レディ」などのバラードも、まさにジュークボックス的な感じの至芸で、ええわー。フォレストの特徴というか魅力というのは、低音から高音まで変わらないソノリティ、正しい音程、しっかりしたリアルなフレージングなどといった、かなり「基本的」な部分の正確さがその土台になっているのだが、こういう演奏においてもそのあたりがちゃんと伝わってくる。そして、もちろんこの時期の演奏なので、鬼面人を驚かすような奇抜なフレーズや狂ったようなホンキングも聴けます。「スウィンギン・アンド・ロッキン」という曲はどう聴いても「ジャンピン・ザ・ブルース」なのだが、そのあたりはゆるゆるだったのかなあ。とにかくフォレストファンは必聴でっせ。

「OUT OF THE FORREST」(PRESTIGE RECORDS P7202)
JIMMY FORREST

 ピアノがジョー・ザヴィヌルだが、黒人としか思えんソウルフルなバッキングで、なんの違和感もない。たとえばこれがレッド・ガーランドとかバリー・ハリスだったらフォレストとは逆にミスマッチになっていただろう。ワンホーンで心ゆくまでフォレストのテナーを味わえる好盤。フォレストというひとは、いつも思うのだが、この時代の黒人のホンクもやるスウィングテナー奏者としては、トップといっていいぐらい、コードや理論のことが完全に理解できていて、それを自分の楽器で表現できたひとだと思う(とはいえ、考えてみたらデクスター・ゴードンより3歳年上なだけだが)。しかもアイデアが明確だ。1曲目のスローブルースはデルマークの「ナイト・トレイン」にも短いバージョンが収録されているが、至芸としか言いようがない。2曲目はミディアムテンポの歌物で、テーマは軽く吹いているが、その音の良さに惚れ惚れする。アドリブに入るとパワフルな音と完璧なアーティキュレイションでフレーズを構築していくその見事さにほとんど呆然とする。ラストテーマでのホンキングも、その音、リズム……どれを取ってもすばらしい。3曲目はバラード。これまたテナーでバラードを吹くときのお手本のような演奏。泣ける。男性的というのか、サブトーンで情感たっぷりに吹いていたかと思うと、濁った音色でググググ……と持ち上げていくその押し引きの良さ! 一瞬のブレイクもかっこいい。4曲目は、アップテンポのスウィングする曲で、ラストのカデンツァのところなど、思わず唸りますよ。B面にいって1曲目は、ミディアムテンポの小唄みたいな曲。低音部からはじまるテーマの吹き方だけでもかっこいいです。トミー・ポッターの趣味の良い、よく歌うベースソロがフィーチュアされる。ラストテーマのあと逆循になるところのコード感など、ためになるなあ。2曲目はドラムのマレットロールをバックにしたテナーのソロではじまる「イエスタデイズ」。このテーマの吹き方が死ぬほどかっこいいのだ(もともと好きな曲なのだが、このフォレストのバージョンはかなり上位です)。高音部での歌い方は、小便ちびるレベルですよ。もうめちゃくちゃ凄い。このアルバム中の白眉の1曲。3曲目は「クラッシュ・プログラム」という変な名前の曲。かなり速いテンポのブルースで冒頭からフォレストが飛ばしまくる。例のシドド♯レを上昇させていくフレーズも出ます。途中ブレイクがあって、そこも完璧なリズムで吹きまくるフォレスト。最高です。4曲目は、これも好きな曲やなあ。「ザッツ・オール」。最初、ピアノとのデュオでしっくりとテーマを歌い上げる。9小節目からリズムが入ってくるが、そこもかっこいい。この曲でのフォレストの歌い上げは本当に心に響く。というわけで、名盤であります。

「FORREST FIRE」(PRESTIGE RECORDS NEW JAZZ 8250)
JIMMY FORREST

 たぶんプレスティッジにおける初リーダーアルバム。オルガンにラリー・ヤングが入っており、ギターにソーネル・シュワルツが入っている。ライナーには書いてないが、コンガの音も聞こえます。A面1曲目はのんびりしたテンポの歌物だが、フォレストの圧倒的な上手さに比べて、それに続くギターソロとオルガンソロはかなり聞きおとりがする。2曲目はデクスター・ゴードンの曲だそうで、ストップモーションを多用したイントロからはじまるリフのブルース。こういうの、フォレストは好きそうですなー。これも見事なソロで、文句のつけようがない。最後はホンキングも見せる。オルガンソロもギターソロも快調。3曲目はフォレストのオリジナルというか、1分で考えついたようなちょっとしたリフのブルースで、どスローなナンバー。こういうのにはオルガンがぴったりであります。フォレストも本領発揮で絶妙にブルースをつむいでいく。その根性座ったようなブロウとユーモア感覚は、本当にかっこいい。ギターソロとオルガンソロ(痙攣するような、変態的なソロ)になって、すぐにテーマに戻る。B面に行きまして、またまたブルースで「バグス・グルーヴ」。鮮やかで「しっかりしている」という感想がぴったりの、まさに非の打ち所がないソロをフォレストが展開する。こうなるとほとんどビバッパーだが、やはり随所にブローテナー的な「見得を切る感じ」の大仰なフレージングがあって、そこがいいんです。ラリー・ヤングのソロはやっぱり変態です。ギターも、なかなか変態で、このコンビはヤバい。2曲目はミディアムテンポの洒落た歌物だが、なぜかフォレストはテーマを吹く段階からグロウルトーン全開でこってりと吹きまくる。これはフォレストの独壇場といってもいいショウケースでひたすらフォレスト節が堪能できる。最後の曲は、ダグ・ワトインスの曲でジャッキー・マクリーンによって吹き込まれたことがあるそうだが、3拍子のマイナーブルース。ラリー・ヤングは相変わらず変態で、ソロはなにがやりたいのかよくわからない。フォレストのソロは、どのフレーズもしっかりしたアイデアに基づいて、それを発展させるやり方なので、気持ちいい。でも、「破綻がない」とかいうひともいるだろうな。いいんです、私はフォレストが好きなのです。

「SIT DOWN AND RELAX WITH JIMMY FORREST」(PRESTIGE RECORDS 7235)
JIMMY FORREST

 久しぶりに聞き返してみて気づいたのは、おお、ピアノがヒュー・ロウソンなのだった。A面1曲目はグレン・ミラーでおなじみの「タキシード・ジャンクション」だが、これがめちゃめちゃかっこいい、スウィンギーなブロウナンバーに仕上がっていて、つかみはバッチリという感じ。本作はタイトル通り、リラックスした演奏が多いが、この曲は一番ハードに攻めてくる雰囲気。ギターがカルヴィン・ニューボーンなのもええなあ。このひとは、ブルース系の世界では有名だが、スウィング感のあるソロも、ブルースっぽいソロも、ねちっこいノリのソロもできる名手だ。2曲目はブルースです。「オルガン・グラインダー・スウィング」をゆったりとしたテンポで。こういうテンポのときは、腕の差が出ますよ。もちろんフォレストは超うまいけど。本物のドブルースが吹けるひとなのに、ここでのフォレストはあまりブルース臭を出さずに、あっさりと歌っていく。渋い。ピアノソロのあとに出てくるギターがいいっすねー。そのあとふたたびフォレストのソロになりテーマへ。3曲目は「ムーングロウ」という古いポピュラーソング。この曲のテーマを、フォレストは露骨な下降グリッサンドをしながらも、さらっと吹く。そこがかっこいい。ソロに入ると、コブシを回しながらも淡々と着実に……といった感じで吹いていく。ピアノソロのあとふたたびフォレストが軽くソロをして(うまい!)、テーマに戻る。B面に入り、1曲目は「ティン・ティン・ディオ」。ラテンリズムのマイナーの曲。フォレストはA1に続いて、ダーティートーンもまじえてけっこうハードに吹くが、いわゆるホンキングや派手なブロウはしない。あくまで「シット・ダウン・アンド・リラックス」である。テーマの吹き方がかっこいい。こうして聴くと、「ティン・ティン・ディオ」ってええ曲やなあと再認識。2曲目は、フォレスト次作のスローブルースだが、A2とはうってかわって、ドブルースの様相を示すロウダウンした演奏。テーマにからむカルヴィン・ニューボーンのギターも冴え渡る。フォレストはソロの出だしから堂々たる吹きっぷりでブルーステナーとしての実力をこれでもかと見せつける。こういうソロは丸々コピーするとたいへん勉強になるけど、この「音」あってのこのソロやからなあ。ドロドロの熱いブルースだが、派手なブロウはここでも見せない。やっぱり「シット・ダウン・アンド・リラックス」……あ、これはさっきも書いた。ギターソロの粘っこいノリはもうどうしようもない。ヒュー・ロウソンのピアノソロもいいっすね。最後の曲は「月は黄色かった」という意味深なタイトルのマイナーラテンナンバー(ただし、ソロになると4ビートになるのもお約束)。この曲はソロはテナーのみで、ソロが終わると再びラテンリズムのテーマ。全体に「手堅いなあ」という演奏が多く、バラードがないというのもフォレストのアルバムとしては珍しい。ジャケットが黒一色でかっこいいのも印象深い。

「ALL THE GIN IS GONE」(DELMARK RECORDS DL−404)
JIMMY FORREST

 ギターにグラント・グリーン、ピアノにハロルド・メイバーン、ベースにジーン・ラメイ(ジャケット裏にラムゼイとなっているのは誤記)、ドラムに(なんと)エルヴィン・ジョーンズという超々豪華なメンバーによるフォレストのデルマーク吹き込み。これをめちゃめちゃ豪華やん、ととらえるべきか、いやー、ミスマッチちゃうの? ととらえるかでアルバムへの期待値も変わってくるだろうが、まあとにかく聴いてみましょう。A−1はアップテンポの曲で、フォレストはテーマの吹き方すらかっこいいし、その快調さはソロに突入してもまったく衰えず吹いて吹いて吹きまくる。汲めどもつきぬフレーズの泉で、それをエルヴィンが見事にプッシュする。エンディングはちょっとぐだぐだだが、モダンジャズとしてはこれ以上ない内容ではある。しかし……なーんか物足らない部分はある。A−2「ローラ」は軽いノリの小唄的な曲調で、フォレストも力を抜いてノンシャランに吹く。こういうフォレストも悪くない。途中で、ソロイストが変わったかと思えるほどに吹き方や音色が変化する箇所があるのだが、これはどういうことだろう。前半分は音も小さく、ノリも柔らかで、フレーズもまさにバップであるが、後半は音がでかく、ノリもしっかりしていて、スウィング的なフレーズを多用している。ソロを継ぎ足したわけでもあるまいし、まさか先発ソロはフォレストではない? いやいや、そんなこともないか。エルヴィンはほとんどレガートだけでバンドをスウィングさせている。でも、これまたやはり物足らないといえば物足らない。A−3は、やっと、というべきか、フォレストの本領発揮吹きまくりのブルースナンバー。この曲のソロの出だしの部分を聴いてくださいよ。この鬼面人を驚かすあざといフレージング。つかみはOK。そして、濁った音でのブロウ。エルヴィンのリズムはちょっとシャッフル気味。ギターソロもピアノソロもええ感じではあるが、そのあとのフォレストとエルヴィンとの4バースの「普通さ」加減といったら……。フォレストはユーモアをまじえたスウィンギーなブロウでがんばっているのだが、エルヴィンはいまいち噛みあわず、マイペース。まあ、こんなもんでしょうね、この顔合わせなら。B面に行って、「キャラバン」。グラント・グリーンがテーマのところで弾くリフがおもしろい。ソロに入ると4ビートの普通のジャズになる。エルヴィンはブラッシュで達者なサポート。エルヴィンもこんな風に「名人」的に上手く吹くソロイストにはなにもできないだろう。エルヴィンのバッキングが冴えるのは、ソロイストがあくまで、リズムセクションと対等の刺激を欲しがっている場合だけなのだ。こういった、いらんことはせんでええ、俺勝手に吹くからね、的なソロイストに対して無駄なことはなにもしないというのはよくわかる。しかし、そうは言ってもエルヴィンもこういうスウィンギーなセッションにおいても名人だから(オーバーシーズとか)、このトラックなど、ブラッシュワークを聞いてるだけでも心躍るし、楽しいけどね。そしてエルヴィンのソロになるのだが、ここはやはりかなりおもろい、ああ、エルヴィンやなあという演奏が展開されて笑える。2曲目はバラードで「ファッツ・ニュー」。これはテーマから気合い入りまくりで、高音部の美しさといい、ガッツのある中音域といい、見事なまでのビブラートといい、まさしくフォレスト節で、彼の面目躍如という感じの演奏だが、じつは基本的にはテーマを一回吹くだけである。しかし、そのテーマの吹き方のなかにさまざまな小技があり、アドリブの要素も含まれていて、聴き応えのあるバラードになっている。一人舞台というやつですね。最後の曲はアップテンポのブルース。これまたフォレストのバップ〜スウィングなソロが炸裂する演奏で、すばらしい。しかし、このアルバム全体を通して、なーんか物足らない感じが残るというのは、やはりリーダーであるフォレストとエルヴィンのミスマッチということではないか。このふたりなら、なにか凄いことが起きるのでは、という勝手な期待感があり、それが(あたりまえだが)フツーのジャズになっていることへの不満がどこかにくすぶっているのかなあとも思った。このアルバムを聴いて、「おお、なかなかいい感じじゃないの」と思うひとは、フォレストの真髄を知らんと思う。ほんまのフォレストはここで聴かれる千倍ぐらい凄いんだからねー。それはエルヴィンにも言えることで、フォレストのファンにしろエルヴィンのファンにしろ、聴くべきアルバムはほかにある。

「BLACK FORREST」(DELMARK RECORDS DL−427)
JIMMY FORREST

「オール・ザ・ジン・イズ・ゴーン」のときの残りテイク集。グラント・グリーンが入っていない曲もあるし、フォレストが入っていないギターカルテットの曲もある。A−1はアップテンポのリフブルース。フォレストのソロは、バップ風ではなく、ブルーノートを強調したブルースサックス的。ギターは入っていない。ジーン・ラメイのウォーキングソロがある。全体にフォレストのソロも荒く、なんとなくだがウォーミングアップがわりに録っている感じもする。A−2はA−1よりややテンポが遅いが、またしてもブルース。ギターは入っていて、テーマのテナーとギターのハモリ方がかっこいいのだ。そして、先発ソロがギターというのもいい感じで、またこのソロが泣けるんです。つづくフォレストは軽い吹き方でブルースフィーリングを感じさせるソロをする。このソロにはバップ臭はほとんど感じない。後半ホンクもあり、いかにも「フォレスト!」というタイプの演奏。3曲目はバラードで「ジーズ・フーリッシュ・シングス」。これもどうして「オール・ザ・ジン・イズ・ゴーン」に収録されなかったのかわからないほどのいい演奏。テーマの吹きかたがもうしびれます。テーマにからむグリーンのギターも最高っす。6分強と、ちょっと長いのが収録されなかった原因かも。フォレストは柔らかい音色で、バラード王(勝手に命名するな)の真髄を発揮して歌いまくる。かっこいい! 4曲目は「オール・ザ・ジン……」にも入っていたブルースの別テイク。こっちのテイクのほうがええやん。フォレストの絶好調の見事なソロが聴ける。なんでこっちを使わんかったんかな。どういうこっちゃ。グラント・グリーンの出来かな? というわけでA面は4曲中3曲がブルースという驚くべき曲選択になっている。B面にまいりまして、一曲目はバラードで「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」。これもフォレストのバラード解釈のすばらしさに涙がちょちょぎれる名演だが、いきなりバラードかあ(グリーンは休み)。2曲目はA−1の別テイクで、こっちのほうがフォレストの演奏は音色もノリも安定感もはるかによい。ただし、全体に短い。3曲目はまたバラードで「ファッツ・ニュー」。「オール・ザ・ジン・……」にも入っていた演奏の別テイクらしいが、これまたすばらしい感涙のバラード。ただし、ギターは入っていない。少し力技なところもあるが、なかなかこうは吹けまへんで。あまりに短くて1分50秒しかない。でも、堪能した気分になります。4曲目は、フォレストが入っていないギターカルテットによるバラードで「バット・ビューティフル」。これがけっこういいのです。フォレストの演奏というのは良くも悪くもアクが強いので、こういう息抜き的なスタンダードが入るとほっとする。エルヴィンのブラッシュも快調です。最後は「オール・ザ・ジン・イズ・ゴーン」の別テイク。この曲に関しては、本テイクのほうがいいかもと思ったりして。というわけでB面は5曲中3曲がバラードと、デルマークのプロデューサーはアルバムにおける曲順というものをどう考えておるのかとききたくなるが、そういうことは置いといても、どちらかというとフォレストがフォレストらしいのはこの別テイク集である本作のほうかもしれないなあと思った次第。フォレストとエルヴィンの関係については「オール・ザ・ジン……」の感想参照。

「HEART OF THE FORREST」(PALO ALTO JAZZ RECORDS PA−8021)
JIMMY FORREST

 私がこれまでに聴いた範囲では、ジミー・フォレストの最高傑作だと思う。学生時代に三宮の輸入レコード専門店でこのアルバムを買い、その足で西宮北口のジャズ喫茶「コーナーポケット」に持っていって掛けてもらったとき、あまりの感動にびっくりして、「生涯の宝を得た」みたいな大げさな気分になったことを思い出す。コーナーポケットのマスターもすごく感銘を受けたらしく、「明日、その店に行って、もう一枚買ってこい」と言われたのでそのとおりにしました。まあ、それほど、パッと聴いてだけで、これはすごい! となる内容である。フォレストが亡くなったあと、未亡人のプロデュースで出されたライブ音源だが、結果的にこれが一番、我々の思うフォレストを体現したような作品になっている。シャーリー・スコットのオルガンとドラマーというトリオ編成で、ギターもベースもいないが、それがかなりの自由さとリーダーのフォレストのソロ負担増を生んでおり、本人は大変だったろうが、我々聴き手にとっては美味しい状態といえる。そして、
小編制のおかげで、フォレストの晩年の、もっともすばらしいところである「音色」、あの音色……ラーセンのメタルを使っているひとのめちゃめちゃいい音の状態の場合にのみ到達しうる、あの、リンク系の芯のある音とはちがっていて、芯はあるんだけど、全体が芯であって、柔らかくて全体がとろけてひとつになっているような、ああ、なんと表現すればいいのかわからないが、あの音がたっぷり浴びられるという意味でも本作はありがたやマーク100個進呈なのである。1曲目、いきなりオルガンがイントロを弾いてはじまる「A列車」だが、オープニングにふさわしい、迫力ある演奏で、フォレストが歌いまくり、吠えまくり、大技・小技のすべてを出して我々を圧倒してくれる。何度も聞きまくったので、フレーズや、持って行き方を覚えてしまっているほどだ。そして、このアルバムの白眉はなんといっても2曲目の「ナイト・トレイン」。フォレストは、この曲があまりにヒットしすぎたため、ユナイテッドに吹き込んだシングルのオリジナルバージョン(デルマーク盤「ナイト・トレイン」に入ってるやつ)のほかは、ドットというレーベルにマンボバージョンを吹き込んだだけで、ずっと封印しており、ライヴでもリクエストされないかぎりは演奏しなかったらしいが、ここではその封印を解き、最高の演奏を繰り広げている。あの「カンサスシティジャズの侍たち」でベイシーオーケストラをバックに吹きまくっている演奏にも匹敵するような、圧倒的な迫力とブルースフィーリングがひしひし伝わってくる快演で、例の倍テンになるところのお決まりのフレーズ(かなりむずかしくて、コピーしてもなかなか真似できんのだ)などもバッチリきまってる。それもまるでオーケストラのように盛り立てるオルガンもすばらしい。この一曲のためだけでも、このアルバムを聞いてほしいのです。3曲目はアップテンポで大迫力の「ラヴ・フォー・セール」。これもええなあ。フォレストは、濁った太い音色を駆使して、吹いて吹いて吹きまくる。この演奏も、ほんとによく聴いたので、フレーズを覚えてしまってるなあ。B面1曲目はかなり長尺の「アニー・ローリー」のジャズバージョン。そして、ラストはバラードでしみじみ泣ける「ジーズ・フーリッシュ・シングス」。この歌わせ方は本当にかっこいいっす! 難を言えば、このアルバム、ベーシストが参加していないことで、シャーリー・スコットはオルガン奏者としてはフットペダルを弾くのが苦手なのか、ほとんどの参加作でベーシストを使っているが、本作ではベースもギターもいない。つまり、ベース部分もシャーリー・スコットに任されているわけだが、やはり、ちょっとそのあたりがつらい。でも、そういうことを感じさせないぐらいフォレストは熱く燃えたぎったブロウを繰り広げ、シャーリー・スコットも全力でそれをバックアップしている。最晩年のライヴではあるが、フォレストをこれから聞きたいというひとにはまっ先におすすめしたい熱い熱い熱いライヴ盤であります。傑作!

「MOST MUCH!」(PRESTIGE RECORDS PR7218)
JIMMY FORREST

 ジミー・フォレストというひとはテナーの演奏技術だけでなく、スウィング〜モダンジャズ〜R&Bにまたがって完璧な仕事ができる凄いテナーマンなのだが、ある意味職人芸的な側面もあるので、どんなアルバムも不安感なく安心して聴ける。ある一定以上のレベルはかならず維持しているはずだ、という安心感がある。桂米朝師匠の高座のようなものだ。それがいいか悪いかということではなく、とにかくそういうひとなのだ。本作もまさにそういう一枚で、1曲目からめちゃくちゃ安定しているが、このすばらしさはなんだ。身震いするような最高の音色といい(すでにラーセンのメタルに移っている)、ノリといい、フレージングといい、文句のつけようがない。テナーサックスという楽器の魅力があっさりととことん表現されている。ヒュー・ローソンのピアノも案外このひとにはまっている感じだし、レイ・バレットのコンガもにぎやかである。2曲目の「アニー・ローリー」もまるでブルーズに聞こえる。3曲目に「枯葉」が入っているが、これもピアノにテーマを任せたあと、すーっと入ってくるところの「音」の良さ! ぞくぞくします。あっさりした演奏のようだが、じつは濃い。この曲の名演のひとつではないでしょうか。4曲目のバラードもサブトーンとビブラートを駆使した職人芸的な演奏だが、こういうのはじつはものすごくセンスが問われるので、本当はたいへん芸術的なのである。6曲目はベニー・グッドマンの曲だそうだが、変形ブルースということらしい(ソロは普通のブルース)。7曲目はフォレストのほれぼれするような無伴奏のイントロからゆったりとした「ロビンズ・ネスト」になる(ジャケーのヒット曲)。ここでのフォレストのソロはゴリゴリ吹いているわけではないのだが、5小節目からのコード進行のこなしかたといい、ほぼ完璧といっていい、すべてのテナーマンにとってのお手本になるようなすばらしい演奏である。ヒュー・ローソンのピアノもフィーチュアされる。8曲目はタイトル曲だが、フォレスト作のミディアムスローのブルース。渋くて、濃くて、ねちっこい。しかし、フォレストはホンカー的なブロウもR&B的な表現もせず、ひたすらジャズ的な8分音符をつむぐようなソロに徹する。しかし、それが、なんともいえずブルースを感じさせるすばらしい演奏になっている。大ヒット曲「ナイトトレイン」やマクダフバンドなどで名をあげたフォレストはその気になればいくらでも聴衆を圧するような大向こう受けする大ブロウも可能だったはずだが、ここではそういう表現は(ほぼ)封印している。ええ感じである。本作がフォレストの代表作かどうかはよくわからないが(デルマークのアルバムは録音の面でやや難があるので)、正直、このひとの魅力は全開だと思います。ここに収められた演奏が気に入ったら、フォレストのほかのアルバムを聴いて、最終的には「カンサスシティジャズの侍たち」の「ナイトトレイン」に行きついてほしいと願う次第であります!