fred frith

「I DREAM OF YOU JUMPING」(VICTO CD072)
FRED FRITH−JEAN−PIERRE DROUET−LOUIS SCLAVIS

 ちょっと珍しい組み合わせじゃないでしょうか(そうでもないのかな)。ライヴ即興2本勝負(1曲目はなんと48分以上)。冒頭からあまりの面白い展開に耳が離せない。緊張感もあるし、ドライヴするし、場面はどんどん変わっていくし、ダレないし、さりげなく超絶技巧が使いまくられているし……途中随所て挿入されるヴォイスも効果抜群。心を遊ばせてくれる、こういうタイプのインプロヴィゼイションが結局私は一番好きなのだと思う。聴き手を排除するような、こちらの遊び心の入り込む隙間もないような峻厳な即興も好きなのだが、やはり、スカスカなほうが即興としてはこちらの感情移入がしやすいのだ。アート・アンサンブルとか、その極北だもんなあ。即興とはなにか、とか、即興の正しいやりかたとは、とか、考え過ぎて煮詰まったようなときに聴くべきアルバムではないかと思う。これを聴くと、「いろいろある」ということで全て解決するような気がする。傑作。

「YOU ARE HERE」(INTACT RECORDS INTACT CD 286)
FRED FRITH HANS KOCH

 フレッド・フリスとハンス・コッホのデュオなんて面白くないわけがないではないか。さっそく聴く。思っていたとおり、めちゃくちゃ良い。全編即興。コッホのテナーとソプラノ、それにバスクラはどれもあいかわらず絶品。音が太くて、アーティキュレイションも絶妙で、音程もよくて、言うことないのだが、しかも個性的で聞き惚れる。木管楽器が上手く吹けるというのはこういうことなのだと思う。音色、音の大きさ、アクセント、アーティキュレイション、音程などすべてのことに気配りが自然にできて、なおかつオリジナリティがあふれまくる……という感じ。とにかく圧倒的にすばらしい。バスクラの「木」の鳴りなど、もうそれだけで別世界に連れていってくれる。とにかく「管楽器を吹く喜び」に満ちた演奏だと思う。フレッド・フリスについてはもう言うまでもないので省略。こちらもオリジナリティの塊のようなひと。どの曲も、「間」や「静寂」をいかしたインプロヴィゼイションで、超かっこいい。ときに北極の氷山のなかで溶けた氷のひとしずくが落ちる音のように、ときに宇宙の果てでだれも聴いていないのに鳴っているノイズのように、ときにアマゾンの密林の奥でオオトカゲが腐った葉を踏みしめた音のように……今この世のどこかで鳴っている「音」ってもしかしたらこんなものかも……と想像してしまうぐらい、この演奏は幽玄かつリアルである。それにハードなグルーヴとユーモア感覚もあって最強である。ふたりの出す音がコロコロと風に転がるように触れあって、ひとりでに新しいものができあがっていくみたいです。傑作……いや大傑作と言ってもいいかも。みんな聴いてね。ところでコッホの使用楽器のところに「バスクラリネット、ソプラノ・アンド・テナーサキソフォンズ、スピット」とあるのだが、スピットってなに? 辞書を引いても「唾を吐くこと」「焼肉の串」とか書いてあるけど、絶対ちがうわなあ。ということでいろいろ検索してみてなんとなくわかったのは、あるホームページに本作での「スピット」について次のような記載があったからで、それによると「ねばねばした唾液がマウスピースとチューブを通してたえず行き来することで喉やシューシューいう音のアクセントをリードに与える」楽器(?)がある、ということなのかな。それともコッホのある演奏形態をそう表現したのか。英語力が完璧に不足していて全然わからんなあ。