fuigoza

「フイゴ座の怪人」(KETTLE RECORD FUIGO−0607)
鞴座

 鞴座というグループがあることは知っていたが、そうか、こういう感じなのか。メンバーのひとりでかつてはおかげさまブラザーズで大活躍し(対バンも二度ほどしたことがあります)、最近もいろいろなグループで活躍しているサックスの金子さんが参加した、あるグループの演奏を聞きに行ったときに、物販で購入したのであるが、すごくよかった。まず、曲がよい。こういうアイリッシュというかケルトというかミュゼットというか、そういった系のバンドはピンからキリまでたくさんあるが、本当に単なる物真似というかコピーバンドから、現地で修行したりして本格的な「本物」を志向するバンド、そして、このグループのように、それを土台にしてオリジナリティあふれる音楽を作りあげるもの、などいろいろだと思う。このバンドは、基本的にはソプラノサックス、アコーディオン、ギター(とパーカッション)というアンサンブルだが、スカスカのようで、それでいて無限のひろがりを感じさせる。金子さんはソプラノ(とイーリアンパイプという楽器とティン・ウィッスル)しか吹いていないが、それがまた温かいサウンドで、アンサンブルに溶け込んでいる。アチラの曲をほとんど使わず、オリジナルで勝負しているのに、こんなにも「本物」を感じさせるのはすごいのひとこと(でも、どことなく日本風の旋律も感じるなあ)。もちろんBGM的に、なにかをしながら延々と聴くのにも最適だが、ちゃんと向かい合って聴いても十分応えてくれる。ええ音楽っていっぱいそのへんにあるんやなあとも思うが、なかなかそれにめぐりあうことはむずかしい。この出会いには心底感謝。考えてみれば、ドラムがあって、ベースがあって……という今どきの音楽の常識から考えるとかなり偏った楽器編成だが、この安定感、そして疾走感はほんとに自然で、すばらしい。とくにアコーディオンがまるでジミー・スミスのオルガンのように分厚くえぐるところなど、戦慄する瞬間だ。そして、メロディの魅力というものはいつの次代もずっと残るのである。なお、普通はグループでもだれかミュージシャン個人の項に入れるのだが、この鞴座に関してはそれがむずかしいので、「鞴座」という項を立てた。

「ふいごまつり」(KETTLE RECORDFUIGO−0811)
鞴座

どうしても聴いてみたいっ、と思わせるタイトルがつけられた各曲。たとえば「八つ峰の夜明け」「パンが焼けるまで」「クロイネン伯爵の黒い欲望」「空中歩行機械」「蓄光」……そして、メンバーを模しためちゃめちゃかわいいぬいぐるみを使ったジャケット。これはどう考えても癒し系の音楽だろうと思わせる。それはまちがってはいないのだが、鞴座の(おそらく)現在における最新作は、前作と同様、音楽的基盤をアイリッシュ、ケルト、ミュゼット、シャンソン……的な西欧音楽に置きながら、同時に日本的なものを連想させるような、けっこうハードな部分もある「本物」であって、そこにはのんしゃらんとした雰囲気に見え隠れする暗さ、無鉄砲な明るさ、せつなさ、破天荒さ、過激さもじつは同居している。癒し系という言葉から連想されるひ弱さ、惰弱さ、そういうものはここにはない。癒しを求めるひとには癒しを与えるだろうが、そんな上っ面の演奏ではない。もっと深くて、強くて、堂々と根を張っている。こういう音楽は、BGM的に聴くことももちろん可能だが、真剣に向き合って聴くこともでき、そういう場合、このトリオの演奏のなかから驚くほど豊穣なさまざまな要素、聴くものを魅了し愉しませなごませ奮い立たせ勇気づけるいろんなものが溢れ出てくる。いやー、すばらしいですね。こういうアルバムがある私の狭い部屋は、見かけとちがって、じつにふくよかな音楽で埋まっているのだ。ありがたいことですね。