「EDGE OF THE GUITAR」(FULLDESIGN RECORDS FDR−1020)
EDGE
EDGEは、ドラムの藤掛正隆とベースの早川岳晴によるユニットで、本作はそこに4人のギタリストが曲によって加わっている。全曲ライヴで、しかも、ギターがかぶっていないのがミソ(7曲目だけ例外的に加藤崇之とYOSHITAKE EXPEのふたりが参加)。聴いてるものは、4人のギターの特徴や個性を聴き比べできるという、めちゃめちゃ興味深い趣向。この4人は日本を代表するギター奏者ばかりで、ものすごく贅沢なアルバムだ。1曲目のYOSHITAKE EXPEさんは二重三重に積み重ねた空間を感じさせる演奏でスピード感もあり、音色もかっこよくて、アルバムのつかみとしてはばっちり。ドラムはストレートアヘッドに叩いている。2曲目冒頭の加藤さんの過激なソロギターから、リズムが入ってからの展開もすごい。組曲のようにも聞こえる大作で最後はフェイドアウト。3曲目は内橋さんで、不穏さを滲ませるベースに、ギターがカラフルな音色で幻の楼閣を作り上げていく。すばらしい。途中からドラムがシンプルなエイトビートを叩きはじめ、のりのりの演奏になっていくが、こういうあたりもいいなあ。4曲目は加藤さんで、ベースとドラムが躍動感のあるからみをするなか、ギターが鉈のように重く、鋭いフレーズでそれをぶった切っていくような演奏。かっこいいけど短い。5曲目はYOSHITAKE EXPEさんでドラムのステディでパワフルなビートと、暴れまくるベース、カッティングですべてを表現するギターの3者が一体となった爆走が印象的。シンプルに徹しながらもかなり凄まじい展開になります。6曲目は内橋さんで、グルーヴ感出まくりのロックな演奏。7曲目はさっきも書いたがギターはふたり。このふたりのからみはほんとにすごい。つぎにどうなるのかわからないスリル、それが見事にうまく展開していく心地よさ、こちらの想像を上回る方向に転がっていく大胆さ……全部そろってる。8曲目は加藤さんで、最初はスペーシーでフリーな感じだが、途中からエイトビートになり、ベースが前面に出てギターとからむような展開になる。9曲目は、石渡さんで、石渡さんはこの曲だけの参加。ベースが7拍子のようなラインを弾き、それが崩れてまとまるような感じで8ビートになる。一曲だけど個性が際立つ。長いベースソロもあり、そこにギターがからんでくるあたりのおもしろさはなかなか。最後の10曲目は内橋さんで、バラード風にはじまり、しだいにフレーズにフレーズを重ねて燃え上がっていくが、ドラムとベースはあくまでスローバラードに徹し、感動的な演奏となった。ああ、やっぱり内橋さん好きやわー。というわけで、このユニットは「EDGE」というアルバムがファーストで、本作は二枚目らしいので、そちらもぜひ聴いてみたいです。あと、各曲につけられているタイトルがおもしろすぎる。「バンコクの商人」とか「類推の河」とか「マウスの思春期」とか……なんのこっちゃねん。それにしても、フルデザインレコード、ほんまに私の好みのアルバムばっかり出すなあ。全部聴きたいぐらい。一応、藤掛正隆さんの項に入れておきます。
「LIVE AT STORMY MONDAY MAY 22 2008」(FULLDESIGN RECORDS FCDR−2004)
辰巳光英+佐藤帆+早川岳晴+藤掛正隆
これがデビューライヴらしいが、あまりの迫力にこれ以降バンドとしてレギュラー化した、というのもうなずける。信じられないような傑作で、四人ともひたすらアツい、暑苦しいまでにアツい演奏が延々と展開する。とくに暑苦しいのはテナーの佐藤帆で、このひとのいちばんいいところが出た演奏だと思う。いわゆるモードジャズ的なフレージングをこれでもかというぐらい熱を込めてデフォルメする。フラジオは叫びとしてのフラジオであり、中音域はグロウルでガンジス川のように濁り、替え指を使ったフレーズなども原型をとどめないほどにゴリゴリのものになっている。その説得力たるやものすごく、聴いていると鼻血が吹き出そうなほどの熱狂的な演奏なのだが、テナーのリズムがいいからすべてがバシバシとはまり、暴走のようで暴走でない、めっちくちゃ美味しいところをまっしぐらに突き進むソロになる。辰巳さんのトランペットも、さまざまなエフェクトがかけられているのたが、それが全部このバンドのサウンドにはまりまくり異常なかっこよさ。そして、ベースの凄さは言葉が見つからないほどで、このベースじゃなかったらまるでちがった展開になっていただろうと思う。ドラムもめちゃ上手くて、手数が多い叩き方もシンプルなグルーヴもなんでもできる。あまりにすばらしいので、あっという間に聴きとおしてしまうが、これはもうジャズ史に残るほどの高みに上り詰めた演奏だと思う。よくぞまあ録音してくれていたものだ。そして、CDとして出してくれたものだ。フルデザインえらい。えらすぎる。ちょっと元気がないとき、疲れたとき、このアルバムを聴くとあれよあれよと元気が出てくるんだもんね。私にとっては○醒剤、あ、いやいやいや、精力剤みたいなもんか。とにかくほんとにすばらしいので、騙されたと思って聴いてみてほしい。こんなにすばらしいんですよ日本のジャズは。
「QUARTET EDGE」(FULLDESIGN RECORDS FDR−1030)
EDGE
エッジというのは、私の理解によるとドラムの藤掛さんを中心にした崖っぷちセッションというやつで、ギターエッジとかカルテットエッジとかそのときそのときにゲストを加えることもある。このカルテットエッジは上記のストーミーマンデイのライヴとまったく同じメンバーで、しかもコンセプトもたぶん一緒という、つまりはおなじバンドだと考えられるのだが、聴いてみるとどこかちがう。それは、こちらがわへの迫り方なのだと思う。そして、じゃあ演奏がしょぼいのか悪いのかといわれると、なんども聴き返してみたが、演奏はすばらしいのです、マジで。あと考えられるのはたぶん録音でテナーとかが上記アルバムよりも若干オフ気味なので、たとえば佐藤帆さん特有のあの汗水たらした熱狂的なパッションがちょっとだけ伝わりにくかった……程度のことだと思う。こちらを先に聴いていたら、まったく気にならないぐらいのちがいだろう。それにしても佐藤帆はいいなあ。ある意味、理想なのだ、私にとっては。
「とりおネジ×坂田明」(FULLDESIGN RECORDS FDR−1031)
とりおネジ×坂田明
加藤崇之、かわいしのぶ、藤掛正隆によるトリオねじの前作は林栄一をゲストを迎えてのものだったが、本作でのゲストは坂田明。ゲストといっても、完全に一体化したカルテット状態である。ドラムとベースは安定のかっこよさなのだが、坂田のひたむきかつ圧倒的かつ暴走的ブロウに対する加藤の反応が見事のひとことで、ふたつの違った演奏がぶつかり合い、まったく異なった新しいものを生み出す瞬間が何十カ所もある。こういう、バックアップとは違うアプローチ、ソロイスト(という言葉は適当ではないが)に対してべつのものをぶつけるというやり方は、うまくいくときはうまくいくが、相手が未熟だったり、かたくなだったりすると、大失敗に終わることも考えられる。しかし、本作ではまさにそれが極上の音楽的極楽浄土を生んでいるわけで、美味しくて美味しくてよだれが出る。こういうのはギターのひとに多いのかもしれないが、なかでも加藤さんの凄さはいつも驚愕する。思い切りがよくて、アイデア豊富で、凄みがある。なんというか「ぶちかます」という感じだ。それをここにぶち込んでくるか? という驚き。それを受けて立つ坂田さんのかっこよさ。ときにがっぷり組み、ときに無視し、ときにうっちゃる。もちろん加藤さんのソロもいい。そして、坂田明のブロウの突出ぶりは凄すぎる。まるでヴァンダーマークのように、ひとつのリフに固執したり、太い独特のトーンで吹きまくる坂田さんは、山下トリオのころよりも完全に進化しているし、深くなっている。最近、生で聴くたびにそう思う。坂田さんのこういうパフォーマンスを、ルーティン化していると言った批評も耳にしたが、絶対違うって。その場その場に感じたことをアルトで、ヴォイスで叩きつけているのだ。ああ、またハナモゲラヴォイスか、またフリーか、などと言ってるやつは、即興というものをわかっとらんなあと思う(音楽とか演奏を、わかるわからんということ自体が滑稽だが)。フリージャズを担ってきた闘士たちがつぎつぎと失速していき、あるひとは耳なじむ音楽に向かい、あるひとは演奏そのものをやめていくなか、坂田明が最近共演者に選んでいるひとたちを見よ。まさに世界のオルタネイト音楽の最先端で身体を張っているではないか。マッツも言ってたけど、坂田さんは今や世界中の若手たちに影響を与えているのだ。これを聴いて熱くならないなんて信じられない。本作には、そんな坂田明と、思いを同じくするトリオねじの3人による最高の演奏が入っているのでみんな聴くべし。
「TEN−SHI V」(FULLDESIGN RECORDS FDR−1048)
TEN−SHI WITH HIROSE JUNJI OTOMO YOSHIHIDE
いや、もう、このメンバーだと聞くしかない、という感じである。私が好きな要素が全部そろっている。加藤崇之、大友良英の2ギター(!)というだけでなく、サックスは広瀬さん! そしてレーベルオーナーの藤掛さん、ということで、正直夢の顔合わせなのだ。だれがどの音を弾いているか、とかはこうなったらどうでもいいのであって、海鮮丼をガバッと食べて、そこにイクラがウニがカニがホタテがサケが……というのがまったく意味がないように全体の音を全身全霊で味わうようにしたい。演奏がはじまってすぐに刺激的な展開になるので、もう最初からわくわくである。ドラムのシンプルでパワフルなリズム、ギターのキャッチーなリフ、ふたつのギターのソロ……など聴きどころ満載。2曲目は期待どおりテナーが咆哮するインプロヴィゼイションで、手に汗握るめちゃくちゃかっこいい演奏。広瀬さんは、とにかく音色がいいので聴いていてほれぼれする。ほかの3人がエレクトリック寄りの音を出しているなかで広瀬さんのテナーのアコースティックな音はじつにバランスがいい。とにかく生音でどんなノイズでもスクリームでもマルチフォニックスでも出してしまうのだからすごいよなあ。いろんなフリーキーなテナーを聴いてきたが広瀬淳二は別格だ。音色と技術と音楽性とがそろっていて、つねに高みを目指している。それはほかの3人も同じだ。3曲目の即興も心地よい。ノイジーなのに聴きやすい。インパクト大なのに繊細だ。もう一度書くと、ここには私が好きな要素が全部そろっている。3曲目の6分過ぎぐらいからテナーがリズミカルに吠えはじめ、そこにすかさずギターがべつのリズムをぶつけるあたりの感動をなんと表現したらいいのか。4曲目で好き勝手のかぎりをつくしていた4人が、突然ボサノバのような軽いリズムに移り、じわじわとそこから盛り上げていくあたりの快感。5曲目はバラードっぽい短い演奏(広瀬さんのサブトーン!)。最後の6曲目はガチンコのぶつかり合いで(まあ、どの曲もそうなのだが)、聴いていて顎がはずれたかと思うほどよだれがだらだら落ちる演奏。これだけの怪物が四人そろうと、混乱の果てに崩壊……という展開もありうるわけだが(それがインプロヴィゼイションなのだ)、本作では四人それぞれのパワーと音楽性が見事に融合し、ドッカーン! と爆発した。壮絶な傑作。至福の贈り物。フルデザインレコードに感謝。とりあえず藤掛さんの項に入れた。