「SLIDING EASY WITH THE CURTIS FULLER SEXTET」(UNITED ARTISTS RECORDS GXC 3141)
THE CURTIS FULLER SEXTET
ユナイテッド・アーティスト・レコードができた翌年に吹き込まれている。ユナイテッド・アーティストというのはなかなか一筋縄ではいかないレーベルでさまざまなミュージシャンのアルバムを発売している。映画会社が映画のサントラを出すために作ったレーベルだからなのかもしれないが、ジャズ以外もたくさん出ているし、ジャズも節操がないほど多種多様である(セシル・テイラーもある)。しかし、金はあったらしく、本作も超豪華といっていい内容である。フラー、モブレー、リー・モーガンという3管にフラナガン、ポール・チェンバース、エルヴィンというオールスターメンバーであるが、それだけでなく、ベニー・ゴルソンとジジ・グライスという両巨頭をアレンジだけのために参加させているのだ。正直、私はフラーのトロンボーンはちょっと苦手で、茫洋とした音色、かなりの前ノリなど、申し訳ないが私の興味の範疇ではないのだが、このアルバムだけは昔から偏愛していてめちゃくちゃ好きなのである。フラーの演奏もびっくりするぐらいすばらしくて、フレーズは歌いまくっているし、なによりもノリがどっしりと腰が据わっている。晩年になればなるほど前につんのめるような演奏になっていたフラーだが、このころは本当にゆったりと聴かせるし、音もしみじみといい感じに響く。1曲目はフラーのオリジナルで、ベニー・ゴルソンの編曲も最高で、最初のテーマでリスナーをとりこにする。たった3管でこいういう世界観を作り上げてしまう手腕は本当にすばらしい。マイナーの、いかにもハードバップという感じの曲で、ブルーノートっぽくもある。ソロはどれも短いが、モブレーの柔らかな音色で切々と歌うソロ、モーガンの張り詰めたなかに哀愁を漂わせるソロ、フラーのざらっとしているが黒々と深い音色でのソロ、フラナガンのいい意味での職人芸的なソロなどがチェイスされ、アンサンブルからテーマに戻る。ハードバップとして完璧、といっていいのでは。2曲目は一転して明るい曲。これは……「プリーチャー」では? と言いたくなるぐらいよく似ているが、その問題には触れないでおこう。3人のホーンは「ほいきた。おまかせ」的に2コーラスずつをつむぐが、60年も経つと、おそらく軽ーく吹き込んだこのソロが美味しく感じるようになるのだ。とくにフラーのソロは最高であります。3曲目はフラーのトロンボーンをフィーチュアしたバラードだが、ゴルソンのアレンジによって、「アイ・リメンバー・クリフォード」のような、甘さを排した切々とした硬派のバラードになっていて感動的である。たぶん会心の演奏なのだと思う。B面に移りまして、1曲目はパーカーの「ボンゴ・バップ」で、ワンコーラス目をフラーのトロンボーンだけでテーマを吹いて、2コーラス目で3管が入るアレンジは、ありがちかもしれないがすごく美味しい。フラーの先発ソロは本当に輝かしい(途中で「あれ? ここで終わりじゃなかったっけ?」的な部分やいろいろあるけど、そういうのも含めて、このソロの輝かしさをマスターテイクにせざるを得なかったということでしょう!)。つづくモブレーも美味しいフレーズを連発するが、そのあとのリー・モーガンがヘンテコなソロを吹きまくって見事だし、フラナガンはもう最高! チェンバースはあのアルコのギコギコというソロをぶちかましてくれます。エルヴィンは、おまえほんまにエルヴィンか? というような超まっとうなソロでそれも面白い。2曲目は「フェン・ライツ・アー・ロウ」で、ここでのフラーのソロは、私のフラー観とはまったく逆の最高の演奏で、レイドバックしたノリで歌いまくっている。本当にすばらしい。3曲目は本作のハイライトといっていい演奏で、アップテンポの「CTA」(B♭の循環。マイルスとかもやってる)。モブレ―、フラーと続くソロはハードバップとしては最高だが、そのあとに登場するモーガンのブリブリしたソロ、フラナガンの疾走感あふれるソロは「ひょえっー」となる。名盤!