hiroshi funato

「LOW FISH」(OFF NOTE ON−54)
HIROSHI FUNATO

 船戸さんはオフノートを中心に数多くのアルバムに参加しているし、双頭リーダーものとしてふちがみふなとの諸作品があるが、単独のリーダーアルバムははじめてである。これで、船戸さんの「本音」がわかるのではないか、という期待があった。初リーダー作に船戸さんが相棒に選んだのは、中尾勘二、関島岳郎のふたり。中尾さんはマルチプレイヤーで、本作品でもトロンボーン、テナーサックス、ソプラノサックス、クラリネット、ドラム、各種パーカッションなどを使い分けているが、正直、どれも「へたうま」系である。生で見ても、「へたやなあ」という感想がまず先に立つ。しかし、その演奏は心のこもったものであり、楽器とたわむれる遊び心をいつまでも失わない稀有な奏者であるといえる。これほど堂々と、金管から木管、ドラムなど多様の楽器を演奏するひとがいるだろうか。さて、曲のなかに「マラカイのひとりごと」とか「AEC」という名前のものがあることからもわかるように、船戸さんのバックボーンのひとつにアート・アンサンブル・オブ・シカゴがあるのはまちがいないと思う。もちろん船戸さんのふところの広さはそれだけでは語れないけれど、今回のアルバムにはたしかに、アート・アンサンブル的な感覚がある。マルチプレイヤーの中尾さんを相方に選んだところもそうだし、全員が複数の楽器を使っているところもそういう感じ。だいたい、アート・アンサンブルの人って楽器はうまくないと思う。とくにサックスのふたり。しかし、それがマイナスどころかプラスになっているのが音楽のおもしろいところ。クラシックのオケなら、最初に省かれてしまうような人たちがものすごい音楽を作り出す。船戸さんの演奏は、もともとアート・アンサンブル的なところがあり、いや、というより、船戸さん自身がアート・アンサンブル的といおうか……演奏中に起こるちょっとしたハプニングをすごくおもしろがって、どんどん演奏に取り入れていったり(ベースを弾きながら身体をゆらしていると、あたまが天井からぶらさがっていた鳥のフィギュアにぶつかり、変な音がしたので、次からはわざと弾くたびにその鳥にあたまをぶつけだしたり、とか)、つねにいたずらっぽい目で共演者の演奏や動きを追っていたり、なにかおもしろいことを考えているような表情は、まさに「ひとりアート・アンサンブル」である。本質的に自由な人なのだ。このアルバムからもそれが伝わってくる。ただ、アート・アンサンブルほどのいい加減さはなく、今回のアルバムは、前もって準備された素材をていねいに扱っている。大原さんの「名無しのストリッパー」をとりあげてくれているところがうれしい。なーんか仕事に煮詰まったときに、ぽっかり穴をあけたいとき、おりにふれて聴きたくなるであろうアルバム。

「Q−ON RADIO」(OFF NOTE/AURASIA AUR−3)
LOW FISH

 船戸博史のリーダーバンド「ロウ・フィッシュ」の北海道でのライヴ。もう、すばらしいとしか言いようがない。中尾勘二のサックス、トロンボーンなどがじつにいい雰囲気でバンドの要となっており、こういっては失礼かもしれないが、テクニックとか楽器の鳴らしかたとか、そういった点でうまい奏者は世の中に腐るほど存在するが、そういったひとたちよりもはるかに、演奏者の伝えたいこと、表現したいことを楽器を通じて「出せる」というのはすごいことだ。そして、リーダーである船戸は、ベーシストとしてはもちろん、曲の選定、共演者の選定……だけでなく、共演者をうまく遊ばせて音楽に作りあげるという点や、自由な、わくわくするような雰囲気作りなども含めて、まさにバンドリーダーなのである。オリジナルも昔の曲もなにもかもがこのバンドのサウンドになっていて、コンポステラなどとはまたひと味ちがった世界が構築されている。この、たるーい感じがたまらんのう。一生聴き続けるであろう傑作。