grady gaines

「FULL GAINES」(BLACK TOP RECORDS BT−1041)
GRADY GAINES & THE TEXAS UPSETTERS

 このアルバムは、社会人のころ、なんの先入観もなく、レコード屋で「テナーを吹いてるジャケットのブルース系のアルバムあるな。なんか、よさそう」と思って買ったアルバム。あとで知ったのだが、主役のグラディ・ゲインズはR&Bのテナー奏者として有名なひと。裏ジャケットに、リトル・リチャードの弾くグランドピアノのうえに飛び乗ってホンクするゲインズの1955年の写真が載っているがそのころからバリバリ演っていた。これまた有名なロイ・ゲインズ(ギターとボーカル)の兄である。ジョニー・エイス、ゲイトマウス・ブラウン、ボビー・ブランド……といったひとたちのバックでキャリアを重ね、自己のバンド「アップセッターズ」でリトル・ウィリー・ジョン、ジェイムズ・ブラウン、サム・クック、ジャッキー・ウィルソン……といった錚々たるスターのバックを務めてきた。本作はブラックトップにおけるグラディ・ゲインズ渾身のリーダー作で、ゲストも多彩で豪華だが、あくまで本人のテナーに重点が置かれており、それをたっぷり聴かせながら、ゲストも上手く配置されていて、大成功した作品といえるのではないかと思う。今はDEMONというレーベルからCD化されているらしい。未発表とか入ってるかどうかは知らない。ブラックトップからはもう一枚、「ホーン・オブ・プレンティ」というのが出ていて(日本盤も出てる)、それはCDで持ってるはずなのだが、どこに行ったのか探しても見当たらない。このアルバムがすばらしいと思うのは、基本的にはこのひとがいつもやっているであろう「シンガーのバックで吹く」ということに徹している点で、自分のリーダー作だからといって、テナーをひたすらフィーチュアする、という感じではないところだ(インストは3曲だけ。そのうち1曲は影響を受けたキング・カーティスの「ソウル・ツイスト」)。しかし、ゲストボーカルがすばらしい歌を披露しているあいだの1、2コーラスのテナーソロがどの曲においても凄まじいまでのパッションに満ちている。なんというか、「この道に徹した」感じがすごくて、その職人技には感動せざるをえない。にわかホンカーとはキャリアも心構えもちがうぜ、とばかりにブロウしまくるその姿はまさに筋金入りの強烈さでめちゃくちゃかっこいい。グロウルというものが、単に音を濁らせるだけでなく、もっと深いものだということがわかる。グロウルでここまでひとの心を動かすことができるのだ。メンバーをちらっと見ても、私のような門外漢でもよく知っている名前が並んでおり、グラディ・ゲインズの人脈の広さを思う。弟のロイ・ゲインズはもちろん、クラレンス・ホルマン、ジョー・メドウィク、ロン・レヴィ、カズ・カザノフ……といった綺羅星のようなメンバーなのである。しかも、全員がいい演奏をしていて、このアルバムの成功に貢献している。とにかくホンカー好きのひとはこのアルバムを聴き逃すな、と言いたいぐらい、すばらしい内容であります。傑作!