roy gaines

「GUITAR CLASHERS FROM GAINESVILLLE, TOKYO」(BLUES INTERACTIONS PCD−5583)
ROY GAINES & MITSUYOSHI AZUMA

 ロイ・ゲインズといえば、テキサスのギタースリンガーで、テナーサックスのグラディ・ゲインズの弟で、クルセイダーズにも参加していて、ブルースには疎い私でも何枚かアルバムを持っているというビッグネームだが、そのゲインズが日本でのライヴの直後(30分後だったらしい)スタジオ入りして、吾妻光良をはじめとする日本の精鋭ブルースマンたちと共演した記録だが、吾妻氏によるライナーを読むと、夜の11時にスタジオに入り、そこから打ち合わせをして、リハをして、初対面の日本人ミュージシャンと10曲録音して、朝の6時に終わり、そのまま成田へ直行したらしい。なんちゅータフなおっさんや! この録音の時点(1999年)で62歳……って今の俺よりも歳上やん。あー、俺もなにかにつけてしんどい、だるい、もう無理、とか言うてられんなあ。ゲインズは演奏もタフで、とにかくバリバリ弾く、という印象だが、よく聴くと豪快でパワフルなだけではなくすみずみまで配慮が行き届いたプレイである。ゲインズはもちろんだが、吾妻さんのボーカルも冴えわたっている。私はじつはこういう「ギター」を全面的に押し出した、ギターを弾くひとたちが舌なめずりするような演奏は苦手で(管楽器なもんで)、たとえばジョン・マクラフリン、パコ・デ・ルシア、ラリー・コリエルとかああいうやつはあかんのですが(亡くなった津原泰水さんともそういう話を何度もしたなあ)、このふたりの顔合わせだとまったくそういう気持ちにならないのは不思議だ。ふたりともギターのソロがまるで「しゃべっている」もっと言えば「ストーリーを語っている」ように聞こえる。私が偏愛するアーネット・コブ、バディ・テイト、クリーンヘッド・ビンソンの「ミューズ・オール・スターズ・ライヴ・アット・サンディーズ」でバディ・テイトがアーネット・コブのことを紹介する際に「テナーサックスの巨人が皆さんにストーリーを語ります」と言うのだが、これがそのままこのふたりの演奏に当てはまるような気がする。いくらトリッキーでエキサイトするようなプレイをしても根本的なところで「それぞれのストーリー語っている」から好きになるのだ。ゲインズ作の「トーキョー・ウーマン」がめちゃくちゃいい加減な歌詞であるのもすばらしい(トーキョーを世界中のどんな都市に置き換えても成立する)。タフさの塊のようだったロイは2021年に亡くなったが同じ年にグラディ・ゲインズも亡くなった(1月に兄のグラディが亡くなり、8月にロイが亡くなっている)。本当に残念だが、本作は日本のブルースミュージシャンがロイとともに作り上げた傑作であります。ブルースだけでなく、「Aトレイン」やデュオで演る「ヴァーモントの月」「アイ・ウォントゥ・ア・リトル・ガール」といったジャズ曲、ゲイトの「オーキー・ドーキー・ストンプ」やアルバート・コリンズに捧げた曲など、選曲もバラエティにとんでいて飽きさせない。本当に一期一会というか、すばらしいアルバムを残してくれたものです。