hal galper

「SPEAK WITH A SINGLE VOICE」(ENJA RECORDS 4006)
HAL GALPER QUINTET

 当時、マイケル・ブレッカーが4ビートをやっているアルバムというのはあまりなかったので、テナーを吹いている先輩はたいがい持っていた。ジャズ喫茶でもよくかかっていた。まあ、なんというか、我々の手の届かないところにある楽理とかテクニックが必要な音楽、という印象で、真似しようとかそういう気持ちは最初から捨てて、ただひたすら「ははーっ」と拝みながら聴く、という感じのアルバムだった。それほど凄すぎて、雲の上の作品だった。とにかく、マイケルのテナーは、テーマを吹くときのちょっとした持ち上げ方までもしびれるほどかっこよくて、当時ジャズ雑誌とかで「メカニカルで、テクニックをみせびらかすような演奏は好きになれない」みたいなことをいう評論を見るたびに、この凄さがわからんか馬鹿ものっと叫んでいた。それにしても、ブレッカー兄弟がそろうと、音圧がものすごいなあ。テーマのハモリの圧倒的な迫力も尋常じゃないっすよ。ハル・ギャルパーといえば、フィル・ウッズやキャノンボールとの演奏が有名だが、自分のリーダー作はあまりサックス奏者との共演がないような印象が私にはありまして(あってもアルト)、ピアノトリオやギターを入れたものはあるのだが、そういうなかでブレッカーのテナーがほんとうに凄まじく暴れまくる本作は、姉妹品ともいえる「リーチ・アウト」とともに珠玉のアルバムである。最近も活躍するハル・ギャルパーだが、ピアノトリオばかりなので、また、えぐいテナーを入れて、このアルバムで聴かせたようなえぐいモードの曲を書いて、ガンガンやってほしいものだ。(あくまで私にとっては)ハル・ギャルパーがいちばん輝いていたのはこの78年を中心とするブレッカー兄弟をフロントに置いていた時期だと思うから。作曲がね、とにかくモードジャズなのだ。なお、現在は「チルドレ・オブ・ザ・ナイト」というタイトルになっているらしい(2曲プラスされている)。同様のメンバーのものはさっきも書いた「リーチ・アウト」や「ゲリラ・バンド」そして本作と同日時の録音である「リダックス78」というのがあってどれもいいが、私がとにかく一番好きなのはこの「スピーク・ウィズ・ア・シングル・ヴォイス」である。なんちゅーたかてタイトルがかっこええやん。「一言で語れ」ということか? ちがうのか? それがあなた「チルドレン・オブ・ザ・ナイト」て……。私にとってはあくまで「スピーク……」なんですよ!わかる? この気持ち。さて、本作だが、A−1の「ウェイティング・フォー・チェト」も凄いし、B−1の唯一のスタンダード「アイ・キャント・ゲット・スターテッド」もめちゃめちゃいいし、ラストのタイトル曲「スピーク……」も死ぬほどかっこいいのだが、なんといっても興奮しまくるのはA−2の「ナウ・ヒア・ジス」である。この曲をタイトルにしたアルバムもエンヤにあり、そちらは日野さんのワンホーンでトニー・ウィリアムスが入ってる豪華メンバーだが、いやいやいやいやいや、マイケルがいないもんなー。この曲をジャズ喫茶で大音量で聴き、何度泣いたことか。もうかっこよすぎる。リーダーのハル・ギャルパーも、ランディも、マイケルも、とにかく自分の言いたいことをすべて吐き出して、言い終わるまではソロをやめないもんね、という態度で演奏にのぞんでいるのがよくわかる(ライヴですからね)。どのソロも盛り上がる盛り上がる。超絶技巧、和声の解釈、ポリリズム、あざといフレーズ、複雑なフレーズ、超速いフレーズ、まだほかのだれもやっていないフレーズ……ここには当時の最先端の4ビートジャズの凄みがぎっしり詰まっている。これを聴いて興奮しないやつがいるのか?とくにマイケル! 今聴いてもこいつは人間じゃねーっと叫びたくなるほど。ハーモニクスから3拍フレーズ、5拍フレーズ、フラジオ、クラスター……ありとあらゆる技巧を組み合わせて吹きまくるマイケルの雄姿はまさに怪物だ。ああ、すごいなあ……といいつつ、もっかい聴くのである。名盤! 傑作! 

「REBOP」(ENJA RECORDS ENJ−90292/CDSOL6570)
HAL GALPER

 スイスでの録音だそうだが、どこを見ても録音場所も書いていないし、演奏のあとの拍手を聞いて、はじめて、ああライヴかとわかる。2曲を除いてジェリー・バーゴンジが入っていて、もちろん私はバーゴンジ目当てで買ったのだ。このひとのテナーは、どう聴いてもグロスマンがバップをやったときとそっくりで、フレージングもそうだが、音色や雑なアーティキュレイション、音を吹きだすときのぶっきらぼうな感じ、濁ったフラジオ、メカニカルなパターンを急に入れてくるところ、低音の音を割るような形でのハーモニクスなど、「ゴリゴリ吹く」という雰囲気も含めてめちゃめちゃ似ていると思う。まえにも書いたが、私はこのひとがグロスマンをコピーした結果そうなったのだと思っていたが、そうではなくてバーゴンジのほうが年上なのである。たぶん(あくまでたぶんだが)そのおおもとであるコルトレーンをそれぞれが研究していった結果、独自にふたりともこういったスタイルになっていったのだろう。なにを聞いてもおんなじだ、という意見もあるだろうが、私はやはりこのひとのテナーは好きだ。本作でも、聴くべき瞬間がいっぱいあり、とても勉強になる(勉強になるという言葉は嫌な表現かもしれないが、ほんとにそうなのだからしかたがない)。音色や音量変化での表現をあまりせず、音はつねにほぼ一定の音量・音色で吹かれ、フレージングだけで勝負する、というあたりが、いかにもコルトレーン以降のひとだなあと思う。潔くて好きなのよ。この作品は、タイトルでもわかるが、ビバップを現代的に解釈しようという試みなのだろう。たとえば一曲目は「オール・ザ・シングス・ユー・アー」のコード進行で新しいメロディを乗せるという、バップ初期の手法による演奏。でも、聴いてみればなんのことはない、フツーの「オール・ザ・シングス・ユー・アー」のすごくいい演奏にしか聞こえない。ギャルパーのソロも、バップ的な歌心とメカニカルなブレッカー的なフレーズが織り交ぜられていて、めちゃかっこいい。でも、全体としてはやはり「バップを聴いた」という感じなのである。日本語ライナーノートで、評論家がしきりに「リハーモナイズ」ということを書いているが、ちょっと意味合いがよく取れない。私の解釈では、リハーモナイゼイションというのは、曲のメロディはそのままで、コードチェンジをいろいろいじって独自のものにして、あらたに作曲したに等しいオリジナリティのある状態にすることだが(ビル・エヴァンスとかコルトレーンとかがよくやるやつ)、このひとはどうも、アドリブソロにおいてソロイストがべつのチェンジを設定して、それに基づいてソロを吹くというのとごっちゃになっているのではないか。というのも、たとえば1曲目などは私には普通の「オール・ザ・シングス……」のチェンジにほぼ等しく聴こえるからだが、そこで「バーゴンジのテナーも縦横無尽、リハーモナイズしたコードを目まぐるしくブロウしていくさまは云々」と書いているのは、たぶんそういうことだと思う。あと、ビバップの定義はコードを分散分解することだと何回も書いてあるが、これもようわからん。コードを分解するというのはわかるが、コードを分散するというのはなんのこと? 分散和音ってこと? アルペジオのことか? でも、それがバップの定義だというのは意味がわからない。書いたひとがまちがっているのかこちらの受け取り方がおかしいのかもわからず、なんだかもやもやする。ついでにいうと「いつも通りの回転系ピアノから」というのもよくわからん。コードの回転系のことか? 書いた本人はわかっているつもりなのだろうが読み手にわからんとなんにもならんのだ。だから日本語ライナーなんかいらんのだ。

「REDUX’78」(CONCORD RECORDS VICJ−101)
THE HAL GALPER QUINTER LIVE

「スピーク・ウィズ・シングル・ヴォイス」という大傑作がある(今はなぜか「チルドレン・オブ・ザ・ナイト」というタイトルに変更されてリリースされているみたいだが、なんで?)ハル・ギャルパーだが、本作はそれとほぼ同じ頃の、同じメンバーによるライヴ。というか、同じときの録音の残りテイクということらしい。ニューオリンズのロージーズという店でのライヴである。79年と書いてある資料もあるが、たぶん78年が正解だと思う。1曲目(ギャルパーの曲)のテーマを聞くだけで興奮する。柔らかい音で鋭いフレーズを吹きまくるランディ、エッジの立った音で当時としてはかなり過激なブロウを繰り広げるマイケル(1曲目で珍しく引用フレーズを吹いていて、リラックスしていることも伝わってくる)、さまざまな「技」を繰り出すリーダーのギャルパー、ベースもドラムももちろんすばらしい。このひとたちの世代になると、ひとりひとりがいろいろな音楽的知識や技術を持っていることはもちろん、それらを一本調子にずっとつむいでいくのではなく、組み合わせたり、ちょっとずつずらしたりしていくことで複雑なものに見せている。それが「×5」なのでかなり複雑でカラフルな音楽的な高みが聞こえてくる。かっこいい。2曲目の「マイ・マンズ・ゴーン・ナウ」はギャルパーの無伴奏ソロ。3曲目はこのバンドならではのエグい曲調。邦文ライナーがウディ・ショウバンドとの比較をしているが、たしかに気持ちはわかる(とくにピアノソロ)。4曲目はマイケルをフィーチュアしたスタンダードのバラードで、ピアノとのデュオ。ため息が出るようなすばらしい演奏で、マイケルのテナーの音色も輝かしい。ラストのカデンツァはもはや「しつこい」といってもいいレベルで延々フィーチュアされる。5曲目はサンバで、こういう曲調だといかにも手慣れた感じのソロが続く。マイケルはテーマ部分でフルートを吹いている。6曲目は「シャドウ・ワルツ」というタイトルだが、あまりワルツっぽくない。ランディがフィーチュアされる。マイケルはラストテーマだけテナーを吹く。最後の7曲目は、これもいかにもこのバンドという感じの曲調のアップテンポのサンバっぽい曲。全員ガンガン行く(というか行くしかない)が、ライヴならではのボブ・モーゼスのすばらしい超ロングソロが歌いまくる(ダレない)。残りテイクなどとはとんでもない内容の作品。傑作。

「THE GUERILLA BAND」(P−VINE RECORDS PCD−23922)
HAL GALPER

 70年録音のハル・ギャルパーの初リーダー作だそうである。ツインドラム(片方はドン・アライアスで曲によってはパーカッションを叩いているようであります)で、ギターは延々と16のカッティングをしているし、ギャルパーはずっとエレピ。マイケルは1曲目いきなりソプラノでソロをしているし、ランディはエコーマシンを使ったソロ……というゴリゴリのフュージョン的なサウンドだが、曲もソロもかなり荒っぽくて強引なところもあり、そのあたりが「ゲリラバンド」というバンド名の理由だろうか。70年といえば「ビッチェズ・ブリュー」が出てすぐだが、その時点でこのサウンドというのはすごいと思う(ウェザー・リポート結成も70年)。でも、このレーベル(メインストリーム)の当時のラインナップからすると、マイルスというよりはジャズロックやファンキーなオルガンジャズなんかの流れかもしれない。3曲目のエレピソロなんかはかなりエゲつなくノイズっぽくて面白い。4曲目はスタンダードをこのバンド風にアレンジしたものでソロはエレピのみ(それも短い)。5曲目は硬派なようでメロウなようでもある曲。ギターのカッティングが時代を感じさせる。ソロはランディとギャルパーで、ギャルパーのエレピソロはめちゃかっこいい! ラストの6曲目は跳ねるリズムの曲でマイケルとエレピのソロがフィーチュアされる。全体にポップさの少ない辛口の曲〜演奏が多く、1曲を除いてすべてギャルパーのオリジナルで固めた意欲作。収録時間も短くて、全部で36分ぐらいしかない。それにしてもこのメインストリームというレーベルは、音質というか録音も含めて、サウンドに独特のものがありますなー。なんかちょっとコテコテっとしたジャケットも。