kenny garrett

「TRIOLOGY」(WARNER BROS. 9 45731−2)
KENNY GARRETT

 ケニー・ギャレットのリーダーアルバムのなかでは一番好き(彼のあまり熱心な聴き手ではないが、現在のモダンジャズのアルト吹きとしてはかなりいけてるほうだと思う)。ブライアン・ブレイドのドラムと北川潔のベースというピアノレストリオで、ケニーのサックスが存分に暴れまくる。選曲もよく、聴き応え十分の重量作であるが、うーん……これは好みの問題としか言いようがないけれど、アルトの音色に「色気」が足らないようにおもう。音量もだいたい一定で、なんというか一枚通して聴くと、途中で飽きてしまう。これがテナーだったらそんなことはないんだろうな。何度も公言しているが、私はテナー好き、アルト嫌いである。どんなすごい演奏でも、アルトだというだけの理由でいやなのである。わがままなリスナーである。だから、このアルバムの良さもじゅうぶん認識したうえで、もの足らなさを感じてしまうのである。これは、ケニー・ギャレットの問題ではなく、あきらかに聴き手である私の問題なのだ。すんませんなあ。でも、北川さんのすんばらしいベースを聴くだけでも価値あるアルバムだと思うよ。ケニーのソロを支え、ときに主役を食うぐらいに躍動するベースラインを聴いていると、芦屋の「メルティング・ポット」の熱気がよみがえり、涙がちょちょ切れます。

「BEYOND THE WALL」(NONESSUCH RECORDS 7559−79933−2)
KENNY GARRETT

 これは傑作だ。私が苦手とするアルト奏者のリーダー作なのになぜ買ったかというともちろんファラオ・サンダースが入っているからだが、聴くまえは、なんでケニー・ギャレットとファラオ……? という疑問符が頭のうえに点灯しまくっていた。(過去そういう例が多々あったように)ファラオを疑似コルトレーンのように扱って、大失敗しているのではないか、と。しかし、案ずるより聴くがやすし。ファラオはいつものファラオでした。しかも、近来まれにみるほど、調子がいい。これは、強力なメンバー(なんとボビー・ハッチャーソンも参加して、すばらしいプレイを披露する)のせいもあるだろうし、ケニー・ギャレットの書いたオリジナルがファラオの咆哮をひきだすのにぴったりの曲調だったせいもあるだろうが、なんといってもこのアルバムの統一的な雰囲気であるところの「スピリチュアル」な感じ(コーラスが入ったり、変なお経みたいなのが入ったり、ものすごーくいかがわしい。まさにスピリチュアルジャズ!)が、まさにファラオの独壇場といっていい好プレイをうんだのだろう。とにかく本作のファラオはいい。まだまだいけるやん! と、私は自宅で聴きながら思わず叫んでしまったがやはりファラオのベストプレイ(つまり絶叫)を引き出すには、曲や雰囲気、メンバーなどが大事ということだろう。え? ケニー・ギャレット? そんなもんどうでもいいんです……といっては失礼か。ファラオやほかのメンバーに触発されて(というのも失礼だが)、ケニーもなかなかがんばっています。でも、私はファラオがギャーギャー吠えてくれているだけで満足でげす。

「SKETCH OF MD:LIVE AT THE IRIDIUM FEATURING PHAROAH SANDERS」(MAC AVENUE MAC1042)
KENNY GARRETT

 ファラオ・サンダースをゲストに迎えた「ビヨンド・ザ・ウォール」というアルバムがめちゃめちゃよかったので、ファラオ(ほとんど全曲参加)の入ったライヴ、ということで、期待はどんどん上がって、天井に達するぐらい。きっとケニーとファラオが聴衆をまえにフリーキーに吹きまくり、もうノイズの嵐、ボルテージ絶頂……みたいになってるにちがいない、とわくわくどきどき、そういう状態で聴いてみると、おや? 意外とおとなしいやん。ケニー・ギャレットはますますアルトらしからぬ太い音色に磨きが掛かり、こういうモーダルな70年代ジャズ的な曲だとじつにかっこいい……とは思うが、ファラオがえらい控えめだ。歌を歌ったりもするのだが、いまいち「沸騰」というところまではいかぬ。うーん、これなら前作の「ビヨンド・ザ・ウォール」のほうがずっとファラオはぶち切れていてよかったなあ。全体にスピリチュアルジャズ的な雰囲気は十分にあるので、そちらのファンのひとは満足するかもしれないし、もちろんファラオの年齢を考えると、元気でライヴでこれだけ吹いてくれるだけで喜ぶべきかもしれない(アンサンブルから全部参加している)が、「ビヨンド……」や、カヒール・エルザバーのアルバムでの大暴れを聴いているだけに、もっと無茶苦茶やってほしかった。ギャレットワンホーンでの曲がいちばん良かったというのは(私にとっては)皮肉だが、ギャレットの実力を証明することにもなった。ええ音しとるのう。