paul giallorenzo

「EMERGENT」(LEO RECORDS CD LR 641)
PAUL GIALLORENZO’S GITGO

 今年(2023年)も新作が出ているシカゴのピアニストポール・ギアロレンツォ(ロレンゾ?)のリーダー作でマーズ・ウィリアムズとジェブ・ビショップがフロントという作品。今聞くと、この強力な2管編成といい、エネルギッシュなリズムセクションといい、フリージャズというよりも、現代のハードバップといってもいいのではないかと思う。それぐらいしっかりとジャズをルーツにしている……というか、まさに現代ジャズそのものなのだ。全体にシカゴの匂いがぷんぷんするすばらしいリーダーのコンポジション、そして人選によってどの曲もかっこよく、作曲とソロのバランスがすばらしい出来映え……なのではあるが、もうちょっとめちゃくちゃというか破綻があってもいいのでは、というぐらい端正な仕上がりである。作曲にはドルフィーやモンク的な香りもして、フロントのふたりも最高の演奏である(マーズはソプラノ、アルト、テナーを駆使している)。からみ具合もいい感じだし、全体にパワフルだし、さまざまな展開というか場面が用意されていて飽きさせないし、それぞれのソロの微妙な表現もすばらしい。やはり予定調和のなかの計算された過激さ、過剰さという風に思えるかもしれないが、そのあたりの匙加減こそがリーダーの意図のなかもしれない。もう少しでたらめな部分があったら……と思わぬでもないが、そのかわり、何度聴いてもしっかりと音楽的感動を得られる「作品」に仕上がっている。4曲目や8曲目のビショップとマーズの掛け合いなども、無心に聴けばめちゃくちゃ面白いのだが、やはりこのひとたちの狂気はリーダー作において最大限に発揮されるものなのかもしれない。リーダーのピアノは(ライナーにはマル・ウォルドロンとあるが、それもわかる)リズミカルで調性をぶっ飛ばすようなもので、かっこいいです。このコンポジションとアレンジ力はすばらしいとしか言いようがないし、たとえば7曲目のオールドスウィングスタイルの曲で、ビショップとマーズがすぐに対応してそういう雰囲気のソロをするあたりの面白さはさすがの人選であります。それが「今」の音楽にどんどん昇華していくあたりもわくわくする。ポール・ギアロレンツォのなかには、シカゴジャズの伝統と前衛性がかなりしっかりした形で同居しているようです。録音もよい。アンドリュー・ショエイト(と読むのか? シュート?)というひとのライナーノートも面白いです。傑作!ピアノレスで、フロントのテナーがこのふたりとならば買わざるをえない……という感じで購入。最近はまたテナーも吹くようになったリーブマンだが、ジャンマルコ(と発音するらしい。ギアマルコではなく)はブレッカー的なテナーと認識しているので、ふたりの激突はさぞやえぐい展開になるだろうと期待した(購入店で立っていたポップのあおりも、そんな感じだった)。その期待は半ば裏切られた。いえいえ、決して悪いアルバムではありません。こっちが勝手に、エルヴィンのライトハウスのようなものを想像したのがまちがっている。クエスト以後の内省的なリーブマンの世界がやはりここにも展開されていて、ギアマルコもそれに寄り添うような形での演奏となっている……ような気がする。もちろん、ときにはごりごりと吹きまくるような瞬間もあるのだが、すぐにしぼんでしまう……ような気がする。遙か昔、はじめてギアマルコの初リーダーアルバムをレコードで買ったときは「イタリアにもすごいテナーがいるもんだなあ」と感心し、いろんな人に聴かせたりして宣伝したものだが、その後、いっぱい出たやつをいろいろ聴いてもどうもそれ以上のものがないのは不思議。このアルバムでも、バップ風の曲でバトルがあるのだが、技の見せあいで終わっている……ような気がする。

「FORCE MAJEURE」(DELMARK RECORDS DELMARK DE 5015)
PAUL GIALLORENZO’S GITGO

 シカゴのピアニストのリーダー作。最近もばりばり新譜を出している。プレイもすばらしいがコンポジションとアレンジに強烈な個性を発揮する。マーズ・ウィリアムズとジェブ・ビショップの2管のクインテットで、シカゴのフリージャズの王道的な演奏。めちゃくちゃかっこいい。パワフルでストレートアヘッドなビショップのトロンボーン、流暢でフリーキーで圧倒的なマーズのサックス……もう至福の境地である。ぐちゃぐちゃにブロウするところはブロウして、ビシッとアンサンブルを決めるところは決める……この感じはフリージャズ初期から与えられていた心地よさなのだ(山下トリオなどもその系譜なのかも。もちろんそういうのに飽き足らないひとはたくさんいたわけですが私はこういうのが超かっこいいと思います)。2曲目はマーズのテナーの無伴奏ソロではじまる。こういうゴリゴリの演奏にはどうしてもひかれてしまう。そしてモンク的というのか、そういうコンポジションがはじまりテナーとトロンボーンが混雑する展開もめちゃくちゃかっこいい。非常に「ジャズ」である。モンクやドルフィの面影が感じられるインプロヴィゼイションが展開する。ピアノのソロも非常に具体的でパワフル。ビショップの真っ向勝負のソロ(ベースとのデュオ)もめちゃくちゃいい。圧倒されるが、ラストはテーマをビシッと終わる。3曲目も変態的なリフ曲で、変拍子かどうかもよくわからない……けどたぶん変拍子ではないと思う。これもモンクというかドルフィというか、そういう曲で、すごく気に入った。4曲目もコンポジションの狙いがものすごくはっきりしていて、しかもすごく成功している。この不穏な雰囲気ななんともいえない。それがずっと持続するのだ。5曲目も同じ感じで、こういう不気味なリフをずっと人力で鳴らしながらそのうえで即興をつむいでいくやり方は独奏ではないかもしれないが、めちゃくちゃ効果的だ。リーダーのピアノをはじめ、ビショップやマーズ(アルト)のソロがあまりにすばらしいのでよだれを垂らして聞き惚れてしまう。いや、ほんま。6曲目は全編即興。ラストの7曲目は「ロスター・ファー・アイ」というタイトルで、ロスコ―はたぶんロスコー・ミッチェルでしょう。印象的な2ビートで進行するこの物語は、マーズの躍動的なアルトが縦横無尽に吹きまくられる。いやー、シカゴのスーパーバンドというか、このメンバーを集めて、このリーダーのコンポジション、アレンジをやった、というだけで、もう大成功すると確信できるが、それ以上の結果が生まれた……という感じ。全員すごいっす。傑作! ああ、マーズには来日してもらって、坂田明さんと共演してほしかった……。なにを言うてんねん。