「TRAV’LIN’ LIGHT」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION ATLANTIC1282)
JIMMY GIUFFRE 3
ジャズ史上特筆されるべき超強力ユニットであるジミー・ジュフリー・スリー。サックス、バルブトロンボーン、ギターという変則的な編成ですげーことをやる。3人とも強力すぎるひとなので可能になっているわけで、なかなかこんなえげつないことはできない。ボブ・ブルックマイヤーのバルブトロンボーンのリズムがすごい。これはもしかしたらスライドではなくバルブであることがある種のポイントなのかもしれないと思う。このバンドのすごいところは、アンサンブルとソロが同時進行し、あらゆる瞬間がインタープレイであることで、このグループが成功したからこそ、こののちさまざまなミュージシャンが、ジャズはリズムセクション+フロント……というような固定観念から解放されたのではないか。ある意味、ジャズ史を変えたといってもいいと思う。こんな演奏は一夜にしてできあがるとは思えず、おそらく形になるまでリハーサルを繰り返したのではないかと思うが、3人の天才的なプレイヤーによってジュフリーの脳内にあった「音楽」は最良の状態で形になった……とかうだうだ言うよりも、とにかくこの、一見軽いようでじつはヘヴィなリズムが疾走する心地よさや、この編成でしか成立しない見事なバラードなどを楽しめばよいのである。「旅」をテーマとした本作は、ジャズというよりいわゆるブルーグラスとかヒリビリーなどのトラヴェリンソングやホーボーものの趣もあってすばらしい。だいたい似たようなコード進行のものが多いが、そこからここまでバラエティを感じさせる演奏を生み出すとは驚き。あと、邦文ライナーによると、ジム・ホールはこの編成での演奏をするにあたってフレディ・グリーンのリズムを徹底的に研究した、とあるが、たしかにここでジム・ホールはフレディ・グリーンのようなカッティングではなく、単音でフレーズをずっと弾いているわけだが、それなのにベイシーバンドでのあのジャッジャッジャッ……というフレディのノリが感じられる……ような気がする。傑作!
「WESTERN SUITE」(ATLANTIC RECORDS 1330/WPCR−29233)
JIMMY GIUFFRE WITH BOB BROOKMEYER & JIM HALL
このあたりのジュフリーはなにを聴いてもすごいが、本作もめちゃくちゃすごい。ベースもピアノもドラムもいないこのアンサンブルの緻密さには驚嘆しまくるが、同時にそういう楽器がいないことによるゆるゆる具合も驚嘆べきであって、この編成は、超緻密で超ゆるゆるという相反するふたつの状態が同時に行われるというアクロバットを可能にした。しかも、アドリブの瑞々しさ、スウィング感など本来ジャズにあるべきそういった要素もちゃんと備わっていて、もはや無敵、パーフェクトなのだ。もちろん、こういう楽器編成にしたらだれでもできる、というわけではなく、この3人でないとできなかったにちがいない。だから、結局はジュフリーの人選の妙なのである。そして、ジュフリーの功績は単にすごいアルバムを作った、とうだけでなく、それによって、どんな楽器編成でもジャズはちゃんとできる、ということを世界に知らせたことにもある。キリストのように自由の門を開いたのだ。極端にいえば、ドラムとドラムのデュオでスタンダードをやってもかまわんのだ。そういうことがいくらでも試せる、ということをこのトリオは教えてくれた。
1曲目は4つのパートからなる組曲で、いわゆる西部劇というかウエスタンの世界を表しているらしいが、ヒルビリーとかカントリー・アンド・ウエスタンみたいな雰囲気は薄く、あくまでジャズっぽい。こういうのをアメリカーナ・ジャズとかいうそうだが、よくわからん。軽快なテーマではじまる緩急のついた見事な演奏で、いきなり心をつかまれてしまう。たった3人なのに、ちょっとビッグバンド風の趣きもあったり、それぞれの無伴奏ソロが挟まれていたりするのに、なんの違和感もなく、ただただかっこよくて呆然。結局、人間の耳って、聞こえてない音をちゃんと補う能力が備わっているのだなあ。だから、必要な音を1から10まで揃えて提示しなくても大丈夫なのだ。そこから、バルブトロンボーンに導かれる不穏なテーマが現れ、これがどうやら「アパッチ」というパートらしい。ここは西部劇のサントラでも使えそう。そして、3連によるテーマの曲がはじまり、これが「サタデイ・ナイト・ダンス」らしい。一筋縄ではいかない曲で、いろいろな要素が組み合わさっており、現れては消える。最後のギターの「ジャン!」がかっこいい。組曲の最後は「ビッグ・パウ・ワウ」という曲で、ギターのざくざくいう重いカッティングに乗ったリズミカルなパートから、リズムが消えるパート(2管のロングトーンと、そこに乗る単音ギターがかっこいい)の対比がいいっすね。ジム・ホールすばらしい。
2曲目「トプシー」でのジム・ホールのリズムギターは、この曲のオリジナルであるベイシーバンドを(つまりフレディ・グリーンを)意識したものに聞こえる。ジュフリーのクラリネットとブルックマイヤーのミュートトロンボーンは(このトリオとしては)ストレートなアドリブをしていて、気楽に聴けるが、それもこのホールのすばらしいバッキングあってこそなのだ。そのあと、ホールのソロになるが、コード楽器がまるでない状態でのギターソロの凄さですねえ。リズム的にも自由で、しかもちゃんとストーリーとしてまえのふたりからつながっているように聞こえる。インテンポに戻り、2管のからみになってテーマ。
ラストの「ブルーモンク」は、簡単な編曲はなされているがこれもストレートな演奏。ジュフリーもブルックマイヤーも歌いまくるすばらしいソロで聞き惚れる。そのあとホールのアタックを強調したようなリズムソロに受け継がれるが、そこからの展開がめちゃかっこいい。ホールのギターのリフに対してジュフリーとブルックマイヤーはぐっと音量を下げ、ホールが今度は絞った音量でリズムソロをはじめるとそしてジュフリーはほとんど聞こえるか聞こえないかというクラリネットのサブトーンを使って、全体が蚊の泣くような音量になる。そこからのテーマ……というあたりのかっこよさはなに? という感じです。傑作。
「THE JIMMY GIUFFRE 3」(ATLANTIC RECORDING CORPORATION ATLANTIC 1254)
JIMMY GIUFFRE
ジュフリーとギター(ジム・ホール)、ベース(ラルフ・ペーニャ)のトリオ。室内楽的といったらいいのか、ドラムとかがいないので、三人の交感する様子をより深く味わうことができる。ジュフリーのサックスの音がかすれ具合や息遣い、細かいアーティキュレイションまではっきり聞こえるが、これはそういう細密な襞の部分まで聴き取らねばならない、聴きとってくれ、というような演奏なのだ(ジュフリーはだいたいそうかも)。「真夏の夜のジャズ」での演奏で、なんとなく引っかかりというか「おや……?」という感じを覚えたひとがこういう作品にたどりつくのではないかと思う(編成はちがうが「トレイン・アンド・リヴァー」も最後に入ってる)。ジム・ホールの単音の演奏が光っており、三つの単音楽器が絡み合いながら繰り広げるこの世界の心地よさを一度味わったらもう抜けられないのではないか。とにかくかっこいいのである。コンセプトというか目の付け所がすごい。クラシック的なもの、フォーキーなもの、ブルース的なものなどが根っこにあるが、軽々とスウィングしているし、一点の破綻もない、ある意味緊張感の持続する音楽だが、そんなことを微塵も感じさせない楽しく飄々とした演奏だ。こういったジュフリーの音楽やちょっと方向はちがうがリー・コニッツの音楽などが、フリージャズミュージシャンにも受け入れられているのだから、すばらしいことであります。学生のころはこういう吹き方のひとが苦手で、もっと腰を入れてガーッと吹けよ、と思ったりしていたものだが、もちろん今はめちゃくちゃ好き。ベースの活躍も特筆すべきですね。帯には「ギターとベースをバックにした……」とあるが、ここまでくるとだれがバックなのかだれがフロントなのかわかりません。傑作。