frode gjerstad

「SHARP KNIVES CUT DEEPER」(SPLASC(H) RECORDS CDH 850.2)
FRODE GJERSTAD TRIO WITH PETER BROTZMANN

 傑作。このひと、たくさんアルバム出てるんだけど、なんと読むのかなあ……まあ、ここでは仮に(仮に、ってなんだよ)フロード・ジャースタッドと読んでおこう(ちがってたらすんまへん)。ほかのアルバムを見るかぎりでは、このひとはテナーとアルトの持ち替えで、テナーを主にしたアルバムもあるようだが、このアルバムでは全編アルトに徹している。それは、ゲスト(といっても全編に参加)のブロッツマンのテナーとのバランスなのかもしれないが、結果としてひじょうに好ましい。本作の聞き所のひとつは、なんといってもドラムがニルセンラヴであることで、彼の変幻自在かつ「行くときは行く」ドラミングが全編にわたってすばらしい効果をあげている。一曲目は、冒頭、ジャースタッドのバスクラとブロッツマンのクラリネットの二本だけで、幽玄な感じの即興が展開する。それが、みごとなハーモニーの吹き伸ばしの音をきっかけに、ドラム、ベースが入り、ブロッツマンのクラリネットがそのリズムに乗る。途中からキイキイキイキイという小鳥の大群がひしめきあい、叫びあっているようなサウンドになり、おお、これはすごい、と思っていると、つぎはジャスタードのバスクラ。中音域から上では、テナーサックスのような激しいブローをみせ、延々と過激に吹きまくる。ニルセンラヴもフルボリュームのロールでそれに応える。最後、ブロッツマンのクラリネットが戻ってきて、バシッと演奏は終わる。この一曲目のすばらしさがこのアルバムの質を物語っている。そして、つづく2曲目以降も同等かそれ以上のすばらしくも凄まじく、やかましい演奏なのである。2曲目のブロッツマンのタロガトとドラムの凄まじい交歓や、3曲目のブロッツマンのテナー炸裂の全力疾走的演奏は「ものすごい」という言葉がぴったり。4曲目は、1曲目にもどって、クラリネットによるフリーバラード的な演奏だが、それでもテンションは異様に高い。ブロッツマンがリーダーより目立ってしまう部分も多いが、ブロッツマンにこういうハイテンションの全力プレイをうながしたのは、やはりジャースタッドのセッティングのゆえなのである。こういった、パワージャズ的なフリージャズのすばらしさをもっと多くのひとに伝えるためにも、こういうアルバムこそ日本盤を出して欲しい(むりだろうな)。聞きおえたあとはぐったりして、文字通り大ぶりのジャックナイフで内臓をえぐられたような気持ちになる。もう一度言います。傑作。