aaron goldberg

「OAM TRIO & MARK TURNER LIVE IN SEVILLIA」(LORA RECORDS LR 1008)
OAM TRIO & MARK TURNER

 1998年にニューヨークで始まったOAMトリオに、マーク・ターナーがゲストで入ったカルテットによる2001年のライヴアルバム。OAMトリオは、イスラエルのアヴィタル、バルセロナのミラルタ、ボストンのゴールドバーグによるグループで、ニューヨークを拠点に活動している。今となってはドリームバンド的なメンツである。本作はスペインのセビリアでのライヴ。なんでこのアルバムを買ったのか、はっきりとは覚えていないが、たぶん「ファンタジー・イン・D」が入っているからだと思う。シダー・ウォルトンによるあのジャズメッセンジャーズの「ウゲツ」である。ウォルトンはボブ・バーグをフロントに、「イースタン・レベリオン2」や「サード・セット」などでも演奏し、ピアノトリオでの録音もある愛奏曲だが、超難しい曲でもある(キーが……)。ボブ・バーグはそういう意味で凄いのだが、ここでOAMトリオがマーク・ターナーを迎えてこの曲を演奏している……というところにひかれて買ったのではないか、と思う(正直、あまり覚えていない)。ターナーは、テナーの超高音域での演奏が有名だが、ここではあまりそのあたりのアクロバチックなプレイは聞かれない。全曲カルテットでの演奏なのでゲストというよりカルテットの一員という感じで、マーク・ターナーも完全にできあがっている感のあるトリオに対してもそのあたりは容赦なくバリバリ吹いているのがすがすがしくていい。マーク・ターナーというひとは、音色的には柔らかく、高音から低音まで均質に吹く感じで、「ピアノのようにテナーを吹く」タイプのサックス奏者だと思う。例のフラジオのコントロールもそういう音楽観の延長上にあるのではないかと思う。めちゃくちゃ上手いやん、と思う反面、いわゆる一般的に言われているテナーサックスとしての魅力(おもに音色の面)とは違ったところで勝負しているので、かなりのスタイリストだと思う。微妙な音色のコントロールをはじめ、繊細な技の数々で表現する。トリオもばりばり疾走し、三人とも自分を出しながらマーク・ターナーに遠慮せず、容赦のない演奏をしまくっているが、ターナーもレギュラーメンバーのようにそれに応えていて、まさに相性抜群である。
 1曲目は「おひつじ座」という意味で、ゴールドバーグの曲。いかにも現代のピアノトリオという感じではじまる、異常なほどかっこいい曲。ベースがメロディアスに炸裂し、ドラムのからみかたも超美味しい。テナーソロもすばらしい。途中でテナーとピアノのチェイス(?)があって、そこもめちゃ盛り上がる。2曲目はさっきも書いた「ファンタジー・イン・D」で、ターナーのかなり長尺の無伴奏ソロからはじまり(ここも聴きどころのひとつ)、3分20秒を過ぎたあたりで例のテーマに。ターナーはテーマも中音域で柔らかく吹く。先発のピアノは奔放に、自由自在に弾きまくる。つづくベースソロも思い切りのいい超かっこいいもので聞き惚れる。めちゃくちゃ上手い。そして、テナーソロだが、柔らかい音色でくねくねと蠢くような長いラインをしっかりしたアイデアに基づいて延々と吹きまくるターナーはすごい。16分を越える本作最長の演奏で、聴きごたえ十分。ライヴなのに最後がフェイドアウトということは、このあとどれぐらい演奏していたのかと興味深い。3曲目はミラルタの曲で、ドラムの空間的なソロにはじまり、ベースがゆったりしたパターンを弾き出す。ターナーのテナーが、愛おしむようにテーマの美しいメロディをつむいでいく。めっちゃええ曲。ドラムのブラッシュがすばらしい。ほとんどテーマだけの演奏。4曲目は、OAMトリオの3枚目のアルバムタイトルにもなった「フロウ」で、かっこいいリフをベースとピアノが力強く繰り返し、ドラムが暴れまわる。テナーは最後のテーマのみ参加。なかなか複雑な構成を持った曲であります。5曲目はコルトレーンの「エキノックス」を新解釈で。(たぶん)タブラをバックにしてベースソロがフィーチュアされる。それに続くピアノソロも圧巻! なぜかテナーソロはない。6曲目はゴールドバーグのブルースで、ターナーのソロはほとんどコード感を感じさせないように吹かれているようだ。ベースを聴いているかぎりではブルースはブルースだと思うけど。ターナーの「まともなブルースは吹かないぞ」という強い意志を感じる。とにかく凄まじいブロウで、斬新なフレーズがバンバン出てきて興奮しまくり。ドラムもめちゃくちゃあおっている。本作中もっともアグレッシヴな演奏かもしれない。とにかくターナーは凄すぎる。正直、ターナーのリーダー作でもなかなかこういう激しいプレイに接することはまれではないか。ドラムソロはかなり自由度の高いもので、それでいて客を興奮させずにはおかない強烈なリズムを感じる。そのあとベースとピアノによる激しいリフをバックに(これはもうブルースではありません)ターナーがゴリゴリ吹きまくるというパートに突入。組曲みたいな感じか? ほんとにこのひとはワンフレーズのラインが長く、ソロの構成力も抜群だ。だんだんテンポが上がっていき、全員でリフを吹いてエンディング。ラストはアヴィタルの曲でたぶんアンコールナンバー。アルコベースから入り、ベースが一旦止まってから、ピアノがソロで美しい旋律を弾く。そして、4人でテーマ。適度にセンチメンタルで適度に現代的でめちゃくちゃいい曲だ。ピアノソロが炸裂し、テナーはマイペースで自分の歌を歌う。最後のほうはまたまたターナーとゴールドバーグがからみあい、そのまま終演。いやー、さすがです。全曲が名演という稀有なアルバム。そして、マーク・ターナーの曲が一曲もない。いやー、傑作としか言いようがない。じつはこのOAMトリオ+マーク・ターナーという組み合わせには第二弾もあって、それはスタジオ録音である。三人対等のトリオだと思うが、便宜上ゴールドバーグの項に入れた。