benny goodman

「AT CARNEGIE HALL−1938−COMPLETE」(SME RECORDS SRCS 9610〜1)
BENNY GOODMAN

名高いカーネギーホールのライヴだが、よくぞこんな音源が録音されていたものだ。個々の曲に印象を語っていくと、膨大になってしまうので、全体的なハナシにとどめるが、私はベニー・グッドマンのアルバムはこれと「プレイズ・フォー・フレッチャー・ヘンダーソン」しか(たぶん)持っていない。私のような門外漢にとってはそれで十分である。本作は、曲ごとに編成がかわったり、ゲストが加わったりと飽きさせない工夫もほどこされ、しかもどの演奏もほぼ完璧に近い完成度で驚く。というか、あまりに密度が濃くて、とうてい一度には聴き通せない。アンサンブルと即興の双方に力点が置かれ、ソロもグッドマンのテクニカルかつ歌心あふれるクラリネットを中心に、レスター・ヤング、ジョニー・ホッジス、ハリー・カーネイ……といった最高の奏者がつぎつぎとびっくりするぐらいすばらしいソロを披露する。それは、メンバーが豪華で、俺も負けてられない的な「負けじ魂」のような気持ちが少しは働いているからにちがいない。ジーン・クルーパのドラムの推進力もすごくて、このひとはきっと最盛期のベイシーオーケストラに入ってもぴったりはまっただろうと思う。スウィングジャズとしては異例の過激さ、過剰さがある演奏の連続だが、それをそうとは思わせないのがベニー・グッドマンの美学なのだろう。オブラートにたくみに包まれた猛毒である。こういう演奏を聴くと、ベニー・グッドマンのすかんぴんなクラリネット云々と感情のまま書き散らす評論家は信用できないなあと思う。ええやん、すくなくともこのアルバムは。

「BENNY’S BOP VOL.2」(V−DISC JAZZ SESSION SERIES VC−5023)
BENNY GOODMAN SEPTET & ORCHESTRA

ワーデル・グレイが入っている、というので学生時代に買ったレコードだが、これがまあすばらしいのです。たぶん放送用録音をV−DISKにしたものなので、司会者のMCが入っているが、それも含めて臨場感がある。A面はグッドマン、スタン・ハッセルガード、ワーデル・グレイの3管にビリー・バウアー、テディ・ウィルソン……といった豪華セプテットだが、なんといってもグレイが快調そのもので低音から高音まで無理がなくて芯のある音色といい絶妙のアーティキュレイションによる軽快なノリといいくめども尽きぬ歌心といいスウィングとバップの両方の良さを併せ持った、どちらのファンにもアピールするわかりやすくて説得力のある音楽性といい……とにかく一度聴いたらトリコになる。パティ・ペイジの「ザ・マン・アイ・ラヴ」(ともう1曲)もめちゃくちゃかっこいい。3曲目に入っている「インディアナ」はテーマを聴けばわかるが実質的には「ドナ・リー」で、あのベニー・グッドマンが「ドナ・リー」をなあ……と最初に聴いた時には驚いた。クラリネット2本とテナーで一糸乱れずばっちり奏でられるバップのテーマはめちゃくちゃいい感じで、とにかくグレイのテナーのテーマの吹き方(余裕しゃくしゃく)とアドリブの歌い方が「ベニー・グッドマンが惚れるわけだな」と納得させられるすごさである。テディ・ウィルソンもさすがの貫禄で随所に見せ場を作っている。B面はワーデル・グレイも入ったオーケストラで(スタン・ハッセルガードとテディ・ウィルソンは入っていない)、メンバーは多くなったが、私がかろうじて知っている顔ぶれ的にはピアノにバディ・グレコ(!)、トロンボーンにミルト・バーンハート、エディ・バートがいるぐらいである。しかし、なにしろこちらはワーデル・グレイのソロが聴きたいだけなので、なんら問題はない。しかも、どのソロイストもなかなか見事で聞きごたえがあるのです。たぶん、こういう方面のジャズを私がよく知らないからだろうが、きっとグッドマンが雇うぐらいだから皆凄腕のひとなのだろう。もちろんアンサンブルもばっちり。2曲目にフィーチュアされるテリー・ソープというボーカルのひとがなかなか渋いのだが、全然知らん。4曲目は選抜カルテットだが、やはりグッドマンはこれぐらいの編成の方がいいっすね。

「THE BENNY GOODMAN TRIO PLAYS FOR FRETCHER HENDERSON FUND」(CBS SONY 20AP 1438)
THE BENNY GOODMAN TRIO

 このアルバムは、いくら父親に「ジャズはいいぞ。ジャズを聴いてみろ」と言われ続けてもまったくその気にならなかった私が高校生のとき突然、日野皓正や渡辺貞夫を聴き始めたので、しめしめと思ったのか、父親が自分で買ってきて「こういうのもいいぞ」と渡されたアルバムである。うちの父親は南里文雄のファンであり、聴くものはデキシーからスウィングであって、とても私とは好みが合わないのだが、正直、このアルバムは一発で好きになった。これが「ダメだ」とか言うひとっているのかな。あまりにすんなり耳に入ってくるし、押しつけがましくなく、軽快で、楽しい。もちろんグッドマンのクラリネットの「上手さ」というのも重要な要素を握っていると思うが、それだけではなく、やはり音楽性なのである。ジャズ評論家のなかにはグッドマンをけなすひともいるが、私にはそういうひとの考えはよくわからん。本作は、グッドマン楽団にアレンジを提供し、ピアニストとしても貢献したあのフレッチャー・ヘンダーソンが病気だというので、グッドマンが催したチャリティーコンサートの模様である。基本的にはグッドマン〜テディ・ウィルソン〜ジーン・クルーパという黄金の(?)トリオがベースになっている。グッドマントリオはベースがいないのが特徴で、テディ・ウィルソンのコードワークの強力さはベースなどなくても十分に音楽を成立させているし、違和感はゼロ、しかもベースがいない分、グッドマンのクラリネットが軽々と飛翔するような印象がある。10曲中5曲がこのトリオによる演奏で、あとの曲はそれぞれゲストとして、ベース(エディ・サフランスキー)やギター(ジョニー・スミス)、トランペット(バック・クレイトン)、トロンボーン(ルー・マクガリティ)などが加わるが、最大でもセプテットなので、グッドマンのクラリネットをたっぷり味わうことができる(思えば、父親に連れていかれた第一回のオーレックスジャズフェスティバルでのベニー・グッドマンもこんな感じだった。基本は(テディ・ウィルソンを含む)トリオで、曲によってベースやトランペット、トロンボーン、ボーカルなんかが加わってた。やはりシンプルなトリオ編成へのこだわりがあったのだろう)。A−1は圧倒的なスピード感の「チャイナ・ボーイ」。クルーパのブラッシュソロもフィーチュアされ、いきなり一曲目から聴衆大興奮。ベイシーやエリントンのスウィングに比べてベニー・グッドマンやグレン・ミラー、トミー・ドーシーは余所行きのおとなしいソフィスティケイトされたスウィング……と言われているが、ベニー・グッドマンはなかなか激しいのである。2曲目はおなじみ「ボディ・アンド・ソウル」で変な装飾なくあっさりとストレートに演奏されるが、深い。3曲目は「ランニン・ワイルド」だが、この演奏がベースレスとは言われないと気づかないひとも多いだろう。テディ・ウィルソンすげー。グッドマンとクルーパのいきいきしたからみは、ああ、このころのひとはこういう演奏をポップスとして聴いて熱狂し、楽しんでいたのだろうな、と思う。ええことやん。最後はしつこくクルーパがぶちかまし、客(?)が「ワン・モア・キック!」と叫んでどんどん盛り上がる。4曲目は「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」でベースが入る。グッドマンがテーマを淡々と吹けば吹くほど原曲の良さが浮かび上がる。かなり長いベースソロがあって、グッドマンが高音でサビから入ってきてエンディング。5曲目はアップテンポの「アフター・ユーヴ・ゴーン」でジョニー・スミスのギターが加わって5人になる。このテンポでクルーパはブラッシュでぐいぐいバンドを前進させる。グッドマンの華麗なソロに続くジョニー・スミスのギターソロはめちゃくちゃすばらしいとしか言いようがない。ジーン・クルーパの洒脱なドラムソロのあと、グッドマンの華麗なブレイク、そこにピアノとギターが絡み合う。6曲目はおなじみ「ベイズン・ストリート・ブルース」で、この曲はやはりトロンボーンがいないとねー、ということなのかどうなのか、トロンボーンをフィーチュアしたセクステット。ルー・マクガリティは朗々とテーマを吹く。グッドマンのクラもデキシーっぽい雰囲気を醸し出す。B面に参りまして、1曲目はまたトリオで、「ローズ・ルーム」。ゆったりとしたテンポで軽〜くスウィングするグッドマンには風格がある。2曲目は「ハニーサックル・ローズ」で、バック・クレイトンが加わり、ミュートで豪快に歌いまくる。ジョニー・スミスのソロもテディ・ウィルソンのソロも、おしゃれなようでポイントポイントは力強く、けっこうガンガン来る感じである。つづくベニーのソロも同様。つねにスウィングするリズムを送り出しているリズムセクションだが、ジョニー・スミスのギターが重要な役割を果たしていると思う。ラストはリフの応酬。3曲目は「アイ・ファウンド・ア・ニュー・ベイビー」で、またまたトリオの演奏。まさに、ちょうど「スウィング」というテンポがあるとしたらコレ、という感じのテンポで演奏される。ドンツクドンツクという和太鼓っぽいジーン・クルーパのけったいなドラムソロにグッドマンがからみ、デュオになるが、コード楽器がないのでベニーも奔放に吹きまくっていて、なおかつ外さないあたりはさすが。案外、自由なひとだったと思うけどね。ラストの4曲目は「ワン・オクロック・ジャンプ」で、手拍子が入るノリノリの演奏。ピアノのイントロのあとキーが変わるのはベイシーのそれを踏襲している。バック・クレイトンが先発ソロだが、まあ、ベイシーのひとですからね。ばっちりキメたあと、グッドマンも手慣れた感じで吹きまくる。この余裕が大事ですね、スウィングには。トロンボーンは豪快だが、歌心のある演奏で短いコーラスをバシッと決める。テディ・ウィルソン、ジョニー・スミス……と快調にソロがリレーされ、ラフなアンサンブルのあとようやくテーマが出て、観客ギョエーッと熱狂。いやー、選曲等も含めてなかなかすばらしいアルバムではないかと思う。傑作。