「BLUES WALK/THE MONTMARTRE COLLECTION VOL.U」(BLACK LION BLP30157)
DEXTER GORDON
ほんと、よく聴いたよなあ……としみじみ回顧するアルバム。第一集とこの第二集は、ほんとうによく聴いた。本作に関しては、とくに「アナザー・ユー」、「ブルース・ウォーク」とつづくB面ですね。67年のカフェ・モンマルトルでのライヴで、ケニー・ドリュー、ペデルセン、アルバート・ヒースのリズムは、当時のモンマルトルのハウスバンドである。ゴードンの、ときにぶっきらぼうとも思える、直線的なフレーズ(テーマの吹きかたも)や、引用フレーズ過多なユーモア感覚、四角い(という表現で、楽器をやらないひとに伝わるかどうかわからないが)ノリ、高音部で顕著な、急に音色のかわる豪快な音遣いなど、ゴードンの個性はほぼ全開になっているし、とにかくすばらしいリズムセクションを得て、おいしいフレーズが泉のようにつながっていくさまは圧巻だし、いうことはないのだが、じつは60年代のこの時期は、まだまだゴードンとしては、「ちゃんとしている」時期であって、このあとスィープルチェイスなどの録音において、あの「ノリ」が露骨になっていくのですねー。ブラックライオンの時期では、まだまだノリは普通である。このあとが、真に個性的というか、むちゃくちゃというか、凄まじいゴードンのノリが発揮されていくわけで、本作は一般のジャズファンにもお聞かせできる最後の姿といえようか。ドリューも、自分の範囲を心得たうえでの暴れかただし(ライヴということもあってか、奔放に弾きまくっている)、ペデルセンはもちろん文句ない出来ばえだし、傑作だと思います。
「THE MONTMARTRE COLLECTION VOL.T」(BLACK LION BLP30157)
DEXTER GORDON
順序が逆になったが、モンマルトルコレクションの第一集。これも毎日のように聴いた。なぜか「ソニー・ムーン・フォー・トゥ」「ドキシー」と、ロリンズナンバーを二曲も演っているが、たまたまだろう。ゴードンはよく「テナーマドネス」とかも演るので、後輩であるロリンズからの逆影響とか再影響とか評論家は言うが、ロリンズの曲はたぶん素材のひとつとして演奏しているだけで、それほど大きな意味合いはないと思う。ゴードンがロリンズから再影響を受けているというなら、ゴードンのプレイのどの部分がと具体的に指摘してほしい(たしかにメカニカルなフレーズはちょっと増えたかもしれないが、ロリンズねえ……)。そんなことはともかく、すごくいいアルバムで、汲めどもつきぬバップフレーズのオンパレードは、見事というしかない。一曲目の「ソニー・ムーン・フォー・トゥー」はようするにただのブルースだが、単なるブルース進行からこれだけ延々とフレーズを引きだしてくるゴードンは天晴れ。しかも、吹けば吹くほどノリまくってくるようにも聴こえる。そういう点がポール・ゴンザルベスやブッカー・アーヴィンの垂れ流し的ロングソロとちがうところ。まだ、スティープルチェイスやCBS期ほどは後ノリが顕著ではないので、普通のテナーファンにも楽しめます。このころが好きか、このあとにくるスティープルチェイス期が好きかで、ゴードンファンとしてのディープさが分かれると思うが、私はどちらかというと後期のほうが好きだが、このころも大好きで、そういう意味では節操がないかもな。
「DEXTER:THE DIAL SESSIONS」(STORYVILLE RECORDS ULS−1547−V)
DEXTER GORDON
パーカーが録音したことで有名なダイアルレコードは、要するにマイナーレーベルだが、バップ初期の貴重な録音が多い。本作はデクスター・ゴードンのダイアルセッションを集めたアルバムだが、ゴードンのワンホーンものだけでなく、ワーデル・グレイとの「ザ・チェイス」チームの初録音や、テディ・エドワーズとの「ザ・デュアル」セッションなどのテナーバトルを別テイクも含めて収録している。どれもすばらしいが、ゴードンのスタイルが初期から死ぬまで、フレーズ的にはさほど変わりがなかったことがわかる。ワーデル・グレイとのバトルはさすがで、ジョニー・グリフィンが言うように、ゴードンとグレイはスタイル(というかフレージング)がほぼ一緒なので、音色やノリ、くせなどで聞き分けねば、どちらが吹いているのか当てるのはなかなかむずかしい。しかも、このアルバムに収められている音源などは音質もあんまりよくないので、よけいにむずかしい。でも、本当に双子のようなブロウの応酬が聴ける。どっちもうまいよなあ。私は心情的にはワーデル・グレイ派なのだが、スムーズなグレイに比して後年のノリを早くもかいま見せているのったりしたノリのゴードンは、同じスタイルとはいえ、明らかな個性の違いを感じさせて、きわめてハイレベルなテナーバトルになっている。ワンホーンの曲も全曲すばらしいので、ほんと、聴き入ってしまう。このあたりの「古さ」っていいよね。
「THE MASTER SWINGERS!」(BLACK LION PA−3145)
DEXTER GORDON・WARDELL GRAY
上記ダイアルセッションよりちょっとあとの、50年代初期の録音。これはゴードン〜グレイの「ザ・チェイス」チームによる録音を中心に集めてあるが、グレイの初リーダーセッションや、ジャストジャズコンサートのリハーサル風景(エロール・ガーナーがピアノを弾いている)なども収められている。私はグレイが吹いてりゃなんでもええ、というほどワーデル・グレイが好きなのだが、そういう場合、バトルとかになると、もうひとりの奏者が邪魔でうざい……ということになりがちだが、相手がゴードンならば話は別。ほんとうに兄弟のような親密さで、おいしいフレーズの応酬が続き、しかもそれぞれの個性も聴き取れる、という稀有なチームであって、「アモンズ〜スティット」とともにこのチームが人気を博した理由がわかる。単に、たがいにぎゃーぎゃーいってもりあげるだけでは長続きしないし、数曲で飽きてしまう。一曲めから超快調で、彼らの「芸」の引き出しの豊富さは感動ものだ。グレイの音は、昔マウスピースのくわえかた(メモリアルアルバムのジャケット)やマウスピースそのものまで真似したほど、バップテナーとしての私の理想の音で、かたく引き締まってはいるが、どことなく温かみを感じさせる。この音で、くめどもつきぬフレーズがつぎつぎとわきあがっていくうえ、アーティキュレイションもばっちりなので、もうたまらん。ある説によると、ろくでもない野郎だったらしいのだが(先輩を馬鹿にしたりとか麻薬漬けだったりとか)、そんな話が嘘に思えるほど、彼のプレイからは人格的にもきっといいやつなんだろうな、という印象を受けてしまう。ああ、ミュージシャンって怖い。グレイの話ばかりになったが、ゴードンとのバトルはどれもハズレなしで、別テイクも含めて全部楽しめる。
「THE CHASE AND THE STEEPLE CHASE」(MCA RECORDS MCA−1336)
WARDELL GRAY & DEXTER GORDON−PAUL QUINICHETTE AND HIS ORCHESTRA
ゴードン〜グレイの「ザ・チェイス」はこの音源がオリジナルと思っているひともいるようだが、これはコンサート録音の長尺盤であって、元々は「ダイアル・セッションズ」に入っている短いバージョンがオリジナルである(スティット〜アモンズの「ブルース・アップ・アンド・ダウン」みたいなものか)。ライブということもあってか、ふたりとも、客を煽るようなホンカーっぽいフレーズを連発する。音を唸らせたり、グロウルして濁らせたり、フラジオで叫んだり、ハーフタンギングを使って同じ音を連ねたり……といったおなじみのブロウテクニックの数々で、客が熱狂しているのがわかる。でも、なんといってもグレイ〜ゴードンである。しっかりした音楽性、技術のうえでやっていることなので、単なる荒っぽいバトル(そういうのも大好きですが)とはちがって、おいしいフレーズを吹き連ねる場面も多く、聴いてて飽きないし、何度も聴ける、きわめてハイレベルなバトルである。普通は、ふたりのテナー奏者のイラストを配置した、B面がトム・スコットのアルバムがよく出回っているが、私の持っている本盤は、B面にポール・クィニシェットの音源の入ったやつで、ジャケットはゴードンとグレイがテナーを持って、笑いながら追いかけっこをしている、微笑ましいような、アホみたいな写真である。この写真が欲しかったために、この盤にしたのである。ポール・クィニシェットのほうは、オルガンが入ってたり、エレキギターが入ってたりするへんてこなグループで、ギターはジャズというよりカントリー・ウエスタンみたいな弾き方をしている箇所もあって、珍品といえるかもしれないクィニシェット自身のプレイは立派なもので、細い、きれいな音色で軽やかに音を連ねていくさまは、ほんと、レスター・ヤングっぽい。
「SWISS NIGHTS VOL.1」(STEEPLE CHASE SCS−1050)
「SWISS NIGHTS VOL.2」(STEEPLE CHASE SCS−1090)
DEXTER GORDON QUARTET
このあたりが私のいちばん好きなゴードンである。「スイス・ナイト」はほんとによく聴いた。フリージャズを聴くのに疲れると、これを掛けていた。毎日聴いていた時期もある。とくに第一集のほう。「テナー・マドネス」ではじまって(このテーマのぶっきらぼうな吹きかたがたまらん)、ほとんどブルースの「ウェイヴ」、B面にうつって、圧倒的にスケールの大きな感動もののバラード「ユーヴ・チェンジド」、そしてラストの「酒バラ」……ああ、これこそゴードンである。第二集も同様のレベルの高さで「ノー・グレーター・ラヴ」はサビの部分のアドリブがかっこよくて、ちょこちょこコピーした。でも、ゴードンはあっさりと簡単そうに吹いているが、これがむずかしいのだ。とにかくこの時期のゴードンは、独特の後ノリが完成の域に達していて、すばらしい。ぼんやり聴いているだけだと気づかないが、まさに神業としかいいようのない、異常なノリで、それに気づくと、あとは笑うしかない。私は、カウント・ベイシー・オーケストラのボビー・プレイターのリードアルトと同じぐらい、いつも笑ってしまう。ゴードンの場合、単なる「後ろへひっぱるノリ」ではなく、フレーズの頭がリズムの頭より完全に半拍ぐらいずれるものの、フレージング自体はそのまま、どちらかというと四角いノリのまま、ずーっとずれた状態で吹奏され(そのことは本当に驚異に近い)、そして、最後にびしっとリズムどおりに着陸する。もう一度書くが神業である。真似しようとしても、単に「もたって」いるだけになってしまう。とくにミディアムテンポの曲で顕著である。そういうリズム感のまま、アップテンポの曲ではすさまじいぐらいにおいしいフレーズをばんばん繰り出してきて、ノリまくるのだからすごいとしかいいようがない。もちろん、リズムセクションのドリューやペデルセンもソロにバッキングに大活躍……というわけで、ほとんど間然とするところのないアルバム。
「HOME COMING」(COLUMBIA 34650)
DEXTER GORDON LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD
ヨーロッパ生活の長かったゴードンが、ハードバップリヴァイバルとともにニューヨークに帰ってきたアルバム。グリフィンにおける「リターン・オブ……」と同じような位置づけか。ウディ・ショウを相棒に、ロニー・マシューズ、スタッフォード・ジェイムズ、ルイス・ヘイズというすばらしいリズムセクションをバックに、一曲目の「ジンジャーブレッド・ボーイ」から快調に飛ばしまくる(余談だが、この曲、学生のころ、バンドでやったので、本当に何十回も聴いたものです)。ウディも自分のグループのときのようにアウトはしないが(自作曲ではかなり好きに吹いているけど)、ゴードンの音楽の範囲内でたいへんな貢献をみせている(ある意味、主役といってもいいかも。オリジナルを2曲も提供しているし)。晩年のゴードンは、さすがに「あ、またいつものフレーズか」とソロのルーティンが決まってきた感もあるが、このライヴ二枚組あたりはまだ初々しい緊張感もあり、ボステナーとしての貫祿も十分で、ほとんど貫祿勝ちである。二曲目のウディ・ショウの「リトル・レッド・ファンタジー」など、ウディがテーマをモダンな感じで吹いたあと、ゴードンの後ノリの、のたくるようなテーマの吹きかたにずるっとずっこけ、そのあとにつづくソロにもう一度ずっこける。ほんと、ワンアンドオンリーのスタイリストだ。すげーっ。メンバー5人が5人とも腕達者なので、一瞬たりともつまらなくてダレる箇所がないため、ずっと笑顔で聴いていられる。「ラウンド・ミドナイト」も、あまりにマイルスの影のない演奏で、すばらしい。しかし、このアルバムのあと、ウディの妻子をゴードンが奪ってヨーロッパへ逃げた、という話を知っていると、本作のあまりのゴードン〜ショウの快調ぶりが悲しく聴こえてきます。でも……傑作なんだよなあ。
「BOUNCIN’ WITH DEX」(STEEPLE CHASE SCS−1060)
DEXTER GORDON QUARTET
ジャケットの、オットーリンクのメタルマウスピースをくわえるゴードンの下唇のカーブがなんともかっこいい。これはCDではなかなか伝わらない迫力である。スティープル・チェイスのゴードンで、ライブではぜったい「スイス・ナイツ」だが、スタジオ物だとぜったい本作(か「アパートメント」あたり)である。ピアノがテテ・モントリュー、ドラムがビリー・ヒギンズというのもおいしい。一曲目の「ビリーズ・バウンス」は、ちょっとひねったテーマの吹きかたがかっこよく、ソロもコピーした。でも、なかなかゴードンのようには吹けない(あたりまえ)。上記にも書いたが、とにかくこの後ノリは、いったん好きになると病みつきになり、麻薬のように身体をじわじわむしばんでいき、ついにはゴードンなしではいられぬ身体にされてしまう。2曲目の「イージー・リビング」もめっちゃいいし(かつての相棒ワーデル・グレイもやってるよね)、3曲目の「ベンジズ・バウンス」(「リズマニング」のイントロみたいな曲)のソロも非常に勉強になる。B面にいって、テテ・モントリューに捧げた(?)「カタロニアン・ナイト」というマイナーグループの曲や、「フォア」もいい。全キャリア通じての、ゴードンのスタジオでの最高傑作と言い切ってしまいたいぐらい(言い切ってしまわないけど)。
「GREAT ENCOUNTERS」(COLUMBIA JC35978)
DEXTER GORDON
「ザ・チェイス」チームのゴードンと、「タフ・テナーズ」チームのグリフィンのふたりによる、「ボス・テナーズ」チームの「ブルース・アップ・アンド・ダウン」の再演……というややこしいアルバムだが、内容は文句のつけどころがない。カーネギーホールでのライヴであり、CBSのゴードンのアルバムのなかではいちばん好きだ。非常にエキサイティングなバトルではあるが、ふたりとも余裕で遊んでいて、引用フレーズの嵐でもあるあたりが楽しい。きちんとコピーはしなかったが、あまりにも聴きこんだので、だいたいのフレーズは歌えるほどに記憶している。二大巨匠の、ユーモア感覚たっぷりの、めちゃかっこいい応酬が延々とつづく。スタジオ録音のほうには、ウディ・ショウ、カーティス・フラー、そしてエディ・ジェファーソンというゲストが参加していて、このエディ・ジェファーソンがいいんです! 撃たれて死ぬちょっとまえかなあ。もう、このひとの声を聞くだけで楽しくなってくる。リッチー・コールのアルバムも、エディ・ジェファーソンを聴きたいがためにおいてあるようなもんだし、バブス・ゴンザレスとならぶバップスキャットの偉大なカリスマであるだけでなく、ストレートに歌うだけでも一度聴いたら忘れられない、唯一無二の個性を発揮する。リズムもジョージ・ケイブルス、ルーファス・リード、エディ・グラッディンとすごいメンツ。とにかく楽しい、よく聴いたアルバムで、今でも大好き。なんだかよくわからないジャケットも好き。
「THE TOWER OF POWER!」(PRESTIGE PR7623)
DEXTER GORDON
ジェイムズ・ムーディーとのバトルが1曲だけ入っている。マイナーの曲で、これでバトルするのかあ、と思っていると、さすがに達者なふたりで、うまく料理する。しかし、本作の本領はこのバトルにはなく、ほかの曲におけるワンホーン物のほうがゴードンのリラックスしたプレイが堪能できる。ブルーノートの諸作品もそうだが、本作ぐらいの時期のゴードンは、並のテナーマンなら若さから円熟に至るあたりの過程であって、いちばんおいしいところなのだろうが、ゴードンの場合はそのあとに「超円熟期」があって、その美味さ加減を我々は知っているから、プレスティッジやブルーノートのものにはどうも若干の物足らなさを感じてしまう。でも、そういう耳で聴かない限りは、もちろん十分満足のいく作品であって、贅沢な話である。タイトルも、いかにもパワーみなぎるテナーサックスを連想させて、かっこいい。続編の「モア・パワー」というのもあるが、こっちのほうが好き。惜しむらくは、バックのバリー・ハリスがいまいち線の細いプレイ、というあたりがなあ。プレスティッジで好きなのは、あとは「ジャンピン・ザ・ブルース」かなあ。
「TENOR TITANS」(STORYBILLE RECORDS CDSOL−6975)
DEXTER GORDON & BEN WEBSTER
ゴードンとベン・ウエブスターの共演盤だが、一緒に吹いているのは7曲中4曲で、しかもそのうち1曲はバラードメドレーなので、いわゆるバトル的に「競演」しているのは3曲だけということになる。でも、3曲で十分です。1曲目はゴードンファンにはおなじみの長尺ブルースで、曲前のアナウンスでゴードンが曲名を2回繰り返すのもゴードンファンならおなじみ。もしかしたら水準ぐらいの演奏なのかもしれないが、私にとってはツボに入りまくりのミディアムブルース。このころのゴードンはやっぱり最高ですなー。バックはトーマス・クラウセン・トリオでボ・スティーフがベース、アレックス・リールがドラムとけっこう豪華メンバー。2曲目はこのトリオをベースにしたビッグバンドがバックをつとめ、バラード風のイントロからミディアムテンポになってゴードンが悠々と吹きまくる。ビッグバンドはこの曲だけで、3曲目はまたコンボに戻り、テナーはベン・ウエブスター。まさにベンらしいサブトーンやベンドを交えた見事なテーマからソロに入るとこってりとダーティートーンも適宜織り交ぜてこれまた堂々たる貫録の吹きっぷり。4曲目はバラードメドレーで、正直言って、私はこういう別々のバラードをメドレーでつなぐという、JATP方式の意味合いがいまいちわかんないのだが、それはさておきこの演奏はバックがケニー・ドリュー・トリオ(ベースはペデルセン)になる。先発はベン・ウエブスターでほぼテーマを吹くだけなのだが、美しくて力強くて、非の打ちどころがない演奏。すぐにゴードンの「ソフィスティケイテッド・レイディー」になるが、これもすばらしい。つーか、ベン・ウエブスターを上回るほどの完璧なバラード演奏。こちらはソロもふんだんにあるが、ゴードン、このときめっさ調子よかったんとちゃうか。いや、もう、聞き惚れる出来。すごいすごい。エンディングのカデンツァも含めてゴードンが主役な感じでなぜメドレーにしたのかよくわからん。5曲目はまたトーマス・クラウセントリオ(にギターが入ってると書いてあるが、ギターは聞こえんなあ)に戻って、ようやくテナーふたりのバトルになる。曲は「パーディド」で、ここでもゴードンは曲名を2回言う。先発のベン・ウエブスターはグロウルしまくりで、フレーズとかどうでもいい感じのラフな演奏だが、これはいつものことだ。もっと無茶苦茶やるときもあって、これでもまだ抑え気味だと思う。つづくゴードンの見事なプレイが逆に引き立つ。歌心、ブルースフィーリング、個性……なにをとってもすばらしい。けど、(バラードメドレーでもそうだったけど)ベンに比べてソロの尺が長すぎて、やはりゴードンひとりが目立つ感じになっている。ええのか、これで……とちょっと心配になるが、とにかくいい演奏。ボ・スティーフの圧倒的な上手過ぎるベースソロも圧巻。そのあとドラムとの4バースになり、ゴードンとベンの直接的なバトルはない。つぎの曲「インナ・メロウ・トーン」(2回曲名を言います)はまたバックがケニー・ドリュー・トリオに戻る。「パーディド」もちょっとそんな感じだったが、この曲はテーマをふたりがラフな即興アレンジで吹き合って、すごく和気藹々とした感じ。テーマをゴードンが吹き、ベンがオブリガートしているのだが、先発ソロはベン・ウエブスター。すごくいい感じ。つづくゴードンもさすが。引用フレーズもありまっせ。やはりゴードンのほうがコーラス数が長い。そしてラストの「Cジャムブルース」では、ベンのグロウル主体の短いソロに比べて、ゴードンのロングソロは圧倒的で、めちゃくちゃ上手い部分と、ゴードン以外が吹いたらたぶん失笑されるであろう変な部分も交えて、「デクスター・ゴードン」としかいいようのない個性あふれるソロ。個性あふれるといえば、ベンのほうもそうなのだ。というわけで、本作は新旧両巨人の共演ではあるが、どの曲もゴードンのほうがはるかにソロスペースが長いのは、おそらくひとつは「ベンはもう晩年で、あまり長い演奏はできなかった」もうひとつは「ベンは、ゴードンのようなバッパーに比べてそもそも長いソロというのはやらないタイプのひとである(晩年のライヴとかは、ソロが長くなると、同じことの繰り返しになってダレてしまう)」というのが理由ではないかと思う。ゴードンが先輩であるベンを気遣って、しかも尊敬の念を持っていることはこのアルバムからもよくわかる(エリントンナンバーが多いのも、ベンが慣れている曲という気遣いだと思う)。ベンの短めのソロ、そしてゴードンのロングソロがちょうどいい塩梅でブレンドしているのが本作だと思う。少なくともゴードンのファンは聴いて損はないです。
「TOKYO 1975」(ELEMENTAL MUSIC 5990428)
DEXTER GORDON QUARTET
めちゃくちゃ凄い。このCDの宣伝に、「ゴードンは3回しか来日しなかったが、これはその第1回目の来日時のライヴ録音である」みたいなことがずっと書いてあって、ディスクユニオンの通販サイトをはじめ、タワーレコード店頭のポップなんかも全部そう書いてあるのだが、あれは最後の「ラウンドミッドナイトバンド」での来日のことをなぜか勘定に入れていないのである。本当は四回来ている。なぜそんなことにこだわるのかというと、私が見に行った最後の来日が、そのときの感動も含めて「なかったこと」にされているのが悲しいからなのだ。まあ、そんな個人的感傷はどうでもいい。本作は、まさにゴードン絶頂期(の開幕時)の貴重なライヴの記録であり、メンバー的にもブラックライオンの「カフェ・モンマルトル」のライヴやスティープルチェイスの頃と重なる、本当に充実したワンホーンカルテットで、録音も上々(ドリューのピアノのバッキングが本当に細かいところまで聞こえてうれしい)で、ゴードンのこのころの引き締まった輝かしいテナーの音がリアルにとらえられていて感動ものである。もちろん演奏もすばらしく、ゴードンの汲めども尽きぬフレージングの泉は絶対に枯れることがないと思われるぐらい、つぎからつぎへと溢れてきて、それに身をゆだねていると快感がじわじわこみ上げてくる。あー、エクスタシー。もちろんドリューのソロ、バッキングもいいが、なんといってもニールス・ペデルセンの、ラインだけ聴いていても感動するような、ぐいぐいとドライヴしまくるベースライン、そしてめちゃくちゃむずかしいことをさらりと聞かせ、歌心にもあふれるベースソロはすごい。アルバート・ヒースのドラムはたぶん好みがわかれるところで、かなりアグレッシヴに叩きまくっていて、すごい! というひともいるだろうが、やかましい、とか、ゴードンに合ってない、というひともいるだろう。私はというと、「これだけ派手に叩かれても、まったくペースを崩さず、ひたすらマイペースでアドリブを吹きまくるゴードン、すげーっ」という印象だ。ヒースがなにを仕掛けようが、ずっと同じ調子で歌いまくっているので、その対比がかえってかっこいい気がする。選曲もよくて、おなじみの曲が並んでいるが、アップテンポの自作曲「フライドバナナ」にはじまり、ミディアムテンポのスタンダード「酒バラ」、バラードの「ミスティ」(この曲での歌い上げはマジで感涙もの。かなり長いカデンツァもあります)、どブルースで本人のボーカル入りの「ジェリー・ジェリー」……と美味しい構成だ。とにかくゴードンの「音」が本当にすばらしく、それを聴くだけで感動なのだ。この時期は、まだスティ―プルチェイスのころのように、異常なノリがそれほど顕著ではなく、その分、フツーに聞きやすい。もちろんノリが一番凄いのはスティープルチェイスの頃だが。なお、最後に2曲入ってるボーナストラックは、1曲目がこの録音の2年まえでほぼ同じメンバーのオランダでのライヴで、曲も「リズマニング」なのであまり違和感はない(逆に、ドラムがノルウェーのひとで、ヒースのようにぐいぐい来ないのでゴードンには合っているかも。ゴードンも超ロングソロで凄いし、ペデルセンのベースソロは圧倒的である)。でも、ラストに入ってる「オールド・フォークス」は、この録音の2年後のライブからの演奏で、「ホームカミング」に近い時期の、ピアノがロニー・マシューズ、ベースがスタッフォード・ジェームズ、ドラムがルイ・ヘイズ……という、まんまウディ・ショウバンドがバックで、しかも、バラードなのでウディ・ショウが抜けている演奏をぶっこんでいるのだ(演奏終わりにウディの声も聞こえる)。これはさすがに統一感を欠くのでいかがなもんでしょうか(演奏自体はすばらしいです。このあたりはもうかなりゴードンのノリがおかしくなっていて、めちゃ楽しいのだ。ロニー・マシューズのピアノソロも最高ですわ)。全編東京での演奏にしてくれたらなあ。放送録音で、放送された分しか残ってないのかな。まあ、これを出してくれただけでもうれしいですが。このボーナストラックが、2曲で27分ぐらいあるので、どうも通して聴くと、東京公演の印象が薄らぐのだ。しかし、全体に従来からのゴードンの名ライヴ盤と比較しても遜色ない内容で、傑作と言っていいんじゃないでしょうか。
「OUR MAN IN PARIS」(BLUE NOTE RECORDS 84146)
DEXTER GORDON
私はデクスター・ゴードンの大ファンといっていいと思うが、長い間ジャズクリティック的には大名盤と言われているこのアルバムのよさがわからなかった。なんというか「雑い」感じ? ゴードンはだいたい「いい意味で」雑いのだが、本作はそれが裏目に出たような印象を持っていた。ゴードンで好きなアルバムを何枚か選べといわれたらぜったい他のアルバムをチョイスしていたと思う。思うに、このアルバムの付加価値は結局バド・パウエルの参加ということではないか。ゴードン自身はかなりはっちゃけた演奏も披露していて、いつもどおりラフであり、相棒だったワーデル・グレイの端正さに比べると傍若無人、勝手気まま、好き放題、ワイルド……といった言葉が浮かんでくる。後年のスティープルチェイス期のような、本当に円熟したワンアンドオンリーの独自の表現というほどではないが、ここにもその萌芽がある。そして、共演はあのバド・パウエルとケニー・クラーク、素材はおなじみのスタンダード……となると人気盤になるのもわかる。演奏としては、ゴードンがリーダーとしてロングソロをしていて、たとえば1曲目の「スクラップル・フロム・ジ・アップル」だと8コーラスに及ぶけっこうざっくりしたソロで、そのあとのパウエルのソロ(呻きながらの演奏)はたった2コーラスなのである。最初のテンポからかなり走っている。「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」はゴードンのかなりのロングソロに比べてパウエルはワンコーラスである。正直カり「がさつ」(?)な「ブロードウェイ」もゴードンのソロに対してパウエルは2コーラスとひかえめである。4曲目「スターウェイ・トゥ・ザ・スターズ」というバラードがゴードンの個性(音色とかノリとか)をかなり押し出している。本作で一番ゴードン的な演奏はこのバラードかもしれない。絶妙のソロである。パウエルは短いソロで、サビからゴードンが入ってくる。ケニー・クラークのブラッシュはマジですばらしいです。5曲目は「チュニジアの夜」で、これがめちゃくちゃすごい。本作中の白眉といってもいいかもしれない。ゴードンのロングソロもめちゃくちゃいいけどパウエルの2コーラスだけの短いソロも聴きどころ。ケニー・クラークのドラムソロもフィーチュアされるがこれはいい。全員の音楽性と個性が見事に溶け合った演奏だと思います。6曲目と7曲目はCDにおける追加曲。6曲目は歌もので、ゴードンの独擅場。なんでレコードに入らなかったのかわからん名演。圧倒的な演奏だと思います。ラストの「ライク・サムワン・イン・ラヴ」はぴあのとりおによる演奏。ゴードンは、あのレイドバックしたノリはそれほど強調されていないが、それでもゴードンはゴードンである。傑作。